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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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別れと約束

朝の空気は澄みきっていて、どこか静かな期待に満ちていた。


ギルドの前、淡く金色に輝く空の下、クロスはグレイスと並んで立っていた。


セイランからの応援組•••アーヴィンたちが旅立つ日。


昨日までの喧騒が嘘のように、街道はまだ人影も少なく、鳥の声だけが聞こえている。


「よお、最後まで見送りに来てくれるとはな。光栄だよ、クロス」


アーヴィンが軽く手を振る。


「次に会う時は、同じギルドの冒険者だな」


その言葉に、クロスは小さく微笑みながらうなずいた。


「はい。セイランで、必ずお会いしましょう」


「ふふっ……でも、アンタには絶対に負けないからね!」


ピシャリと言い放ったのは、カレンだった。


赤髪を揺らし、指を突き出してくる。


「……また言ってるのか、お前」


スレインが小さくため息をつきつつも、口元はほころんでいた。


「だって! 魔力コントロール、私だって訓練始めて3ヶ月経ってるのに、まだ全然掴めてないのにさ……アンタ、1ヶ月ちょっとで習得したんでしょ!? ……悔しいに決まってるでしょ」


「……それは、あの時期だったからってのもあるんだと思う」


クロスは真面目に答えた。


だが、カレンの悔しさはクロス自身にもどこか心地良かった。


自分を見てくれる人がいる。そう思えただけで、少し救われる気がした。


「どれくらいでできるようになるかは、人それぞれよ」


グレイスがカレンの背に手を添えて言った。


「まぁ、確かに1ヶ月でやったって聞いた時は、私も驚いたけどね。……でも、彼は魔法も“普通じゃない”から」


その言葉に、アーヴィンたちも笑みを浮かべながら馬にまたがっていく。


「……じゃあ、またな。セイランで待ってる」


「カレン、いつまでも戯れていないで行くぞ」


「言われなくても!」


最後まで笑い声が残る中、彼らは街道へと消えていった。


その直後、グレイスも旅支度を整える。


「私も、もう出るわ」


「グレイスさんも……?」


「ああ。ギルドからの依頼ね。8級昇格試験の試験官をやる予定だったの。でも、黒装束の件で延期してたのよ。ようやく片付いたから、再開ってわけ」


「……そうなんですね」


「で、クロス。セイランへの移籍、だけど……」


「……いつ頃、行けばいいですか?」


そう問うクロスに、グレイスは穏やかな笑みを浮かべて言った。


「私もセイランに行く用事があるから、一緒に行きましょう。1ヶ月後ね。それまでにこの街での縁や、言いたいこと、整理しておきなさい」


「……はい」


「それと、仕事のことだけど。もうミレーナに通してあるから。7級の登録証をもらったら、彼女のところに行きなさい。……多少の依頼なら受けられるわ」


クロスは深く礼をして見送った。




翌朝。


ギルドに足を踏み入れたクロスは、すぐに受付のセリアに呼ばれた。


「クロスくん、ちょうど良かった。7級への昇格が正式に認められたの。登録証の更新手続きを始めるわね」


カウンターの前に立つと、重い木の扉が再び開いた。


「……あれ、クロス?」


振り返ると、セラ、ジーク、テオの3人がギルドに入ってきた。


「やっぱり。どうしたの、何してるの?」


ジークの問いに、クロスは一瞬だけ迷った。だが、決めたことだ。まっすぐに告げる。


「7級に昇格したから、登録証の交換に来たんだ。それとこれを機にセイランの街に、行くことにしたんだ」


「え……?」


テオが言葉を失い、セラの目が揺れる。


「昇格しても……このメンバーで続けられたんじゃ…」


「8級と7級じゃ、もう一緒に組めないの。ルール上、仕方ないのよ」


そう教えたのは、セラだった。


「それで……なんで、セイランに?」


ジークの声がやや低くなる。だが、クロスは落ち着いた声で答えた。


「恩人が、いるんだ。命を救ってくれた人。……その人に、まだ何も返していないから」


「……でも、俺たちは……」


「……ゴメン。それでも、もう決めたんだ」


その時、セリアの声が場の空気を割るように響いた。


「クロスくん、できたわ。これが、新しい登録証」


木製のカードを受け取った瞬間、クロスの中で何かがひとつ終わり、また始まったような感覚があった。


「それじゃ、またね」


ギルドを出ようとするクロスに、ジークが呼びかける。


「……いつ、セイランに行くんだ?」


「……1ヶ月後、の予定だよ」




そしてその足で、クロスはゴールドロット商会へと向かった。


「やあ、来たな。今日は何か……ん?」


アシュレイがクロスの表情を見て、すぐに察する。


「なるほど。旅立ち、か」


「……うん。来月、セイランに行くことになった」


「な、なんだって!? じゃあ、うちの新商品はどうするんだ!」


「やっぱり、まずそこなんだね……」


思わず苦笑しながら、クロスは続ける。


「セイランで考えるよ。何か思いついたら、報せる。販売はそっちで続けてくれ。取り分は……売上の2割でいいよ」


「よし、契約成立だな」


アシュレイは片手を差し出し、クロスもそれを握る。


「商売も冒険も、やるなら一流になれよ」


「……そっちの“冒険”は遠慮しとくよ」


笑い合う二人。店を出たクロスの背中を、アシュレイが見送りながら呟いた。


「気をつけてな。あっちの商人は、僕よりしつこいぞ」


「それは……今から覚悟しとくよ」


そしてクロスは、これから始まる“次の冒険”への準備を、少しずつ始めるのだった。

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