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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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冷たい現実と未来

 夜は静かに過ぎた。


 前日のデスマンティスと人もどきの一件で、ブリザリウスの冒険者たちはようやく現実を受け入れたのか、昨夜は文句一つなく見張りを務めた。


 翌朝


 空気は重いが、列は乱れず、調査隊は森の奥へ進んでいく。


「昨日の連中とは、まるで別人ね」


 フロレアが後方を見やり、小さく笑った。


「現実を叩き込まれたからな。このまま大人しくなってくれるなら、こっちも楽でいい」


グラハムが短く答える。


「でも……」


 セリナが言葉を濁した。


「これから先も、昨日みたいに黒装束達が生み出した魔物が出るかもしれないんです。あの人たちがどこまで持つか……」


「持たなきゃ死ぬだけよ」


 グレイスは振り返らず、淡々とした声で言い放つ。


 その言葉に、後ろの5級剣士メリアがぼそりと呟いた。


「冷たいわね……他所の国の冒険者は、仲間意識ってもんがないの?」


 フロレアが振り返り、にっこりと微笑む。


「仲間意識? 昨日、私たちがいなければあなた達は森の土になってたけど、それでもまだ文句が言えるのね?」


 メリアは顔を引きつらせ、言葉を詰まらせた、その瞬間•••


低い咆哮とともに、赤黒い皮膚の五体のブラッドゴブリンが木々の間から姿を現した。


槍を構えた三体と、斧と盾を構えた二体。


魔物たちの動きはどこか統率されていた。



 グレイスは即座に指示を飛ばす。


「二体は私たちで倒す。5級は二体、6級二組は残り一体を抑えろ! 連携を切らすな!」


 ブリザリウスの冒険者達はそれぞれ動き出すが、相手の連携の速さに表情が固くなる。


 グレイスが槍持ちの一体を引き付け、双剣を閃かせる。


その間に、グラハムが炎魔法で牽制し、フロレアがその隙に急所を射抜き、セリナが補助魔法を重ねサポートする。


彼等は硬い皮膚にも怯まず、魔力を帯びた武器と魔法を組み合わせ、まず一体を沈めた。


 続けて、グレイスに合流して、グラハムの火柱とフロレアの連射で体勢を崩したところをグレイスの双剣で心臓を貫き、二体目も崩れ落ちた。


 一方、5級のライオネル達は二体を前に完全に押されていた。


「剣が通らねぇ! くそ、皮膚が硬すぎる!」


「槍が速い! 盾が持たない!」


「どうなってやがる、こいつら!」


 攻撃が通らない苛立ちから連携が崩れ、盾役が弾かれ、弓手がかすり傷を負って下がる。


 ライオネルが叫ぶ。


「グレイス! 事前にこんな化け物だって言えよ!」


 グレイスが遠くから吐き捨てる。


「報告したはずよ。信じなかったのはそっちでしょ!」


 リアナ率いる6級二組も、一体の相手に押し気味に見えたが•••攻撃が通らず次第に冷静さを失っていく。


「なんで傷が浅い!? 力を込めても手応えがねぇ!」


「囲め! ……手数で勝てる!」


 戦線は維持しているが、攻撃は次第に雑になり、防御も緩む。


この様子を見たグレイス達がすぐさま動いた。


グラハムの火槍で6級が相手取っていた個体を吹き飛ばし、フロレアの矢が膝を砕き、グレイスが双剣で首を断つ。


6級たちが安堵の息をつく間もなく、5級から叫び声が飛んだ。


「おい! 手伝え! このままじゃ持たねぇ!」


しかし、彼等の攻撃はブラッドゴブリンには通じず徒に負傷者だけが増えていった。


 結局、グレイス達が残り二体も迅速に討伐した。



 静まり返る森の中、ブリザリウスの冒険者たちは荒い息を吐き、呆然と立ち尽くした。


ライオネルがグレイス達に視線を向ける。


「……なんでお前ら、あんな硬ぇのに倒せんだ? 俺たちなんて歯が立たなかったのに」


 フロレアが冷たく笑みを浮かべた。


「だから私たちは4級なのよ」


 ライオネルたちは返す言葉もなく、悔しそうに拳を握った。


グレイス達は既に歩き出していた。


「立って。フェルナ村まで休む時間はないわ」


 疲労で足取りは重いが、誰も逆らわず調査隊は前進を続けた。



 一方その頃、ラグスティア。


 クロスは訓練所で木剣を振り続けていた。魔力を全身に巡らせ、呼吸と動きを整える。


治癒魔法の副作用で走る鈍痛が、筋肉を締めつけるたび、彼はただ前を見て剣を振った。


 やがて昼近くになると、他の冒険者たちが訓練所に集まってくる。


クロスは静かに木剣を片付け、訓練場を後にした。


 武器屋「炎鉄の槌」で剣を受け取り、バーグマンの渋い声を背に受けながら店を出る。


そして、宿の部屋で一人、夕陽を見ながら考える。


これから、どうするべきか。


セラたちと冒険を続けるのは、もう無理かもしれない。


仲間を探すか、街を移るか。


 答えは出ないまま、クロスはゆっくりと目を閉じた。


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