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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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氷への理解と魔法の根幹

「よし、今日も一日、よろしく頼むよクロス君!」


「はい、任せてください!」


クロスはギルド受付のゴルから今日もまた村の雑務仕事を受け取ると、軽く礼をして外へ飛び出した。

今日は木箱の搬送と、畑の杭打ち、あとは雑草抜きの手伝い。地味だが、村の人々が困っている仕事ばかりだ。


魔力枯渇で倒れて以降、信用を回復するためにも、とにかく人一倍動くことを心がけていた。


「クロスくん、また来てくれたのかい?」


「ええ! 今日は杭打ちですよね、任せてください!」


「はは、元気だねぇ。ほんと、若いっていいねえ」


笑顔で迎えてくれる村人の声が、少しずつ増えてきた。

倒れた日の失態を笑われることもあったが、今はそれも「おかしな子だね」で済んでいる。誠実に働き続けてきた結果かもしれない。


 


夕方。日が傾く頃になると、クロスはギルドの裏庭にある訓練場に向かう。


「はああ……疲れた。でも、ここからが本番だな」


木製の練習台の上に並べられたコップに水を注ぎ、クロスは手帳を開く。グレイ教官から渡された、初級魔法の詠唱が書かれた手帳だ。


今日の練習メニューは、《アイスタッチ》と《フロストショット》。


どちらも初級の氷魔法であり、前者は対象物を触れて凍らせる初級魔法、後者は氷の小弾を飛ばす遠距離攻撃だ。


「まずは、アイスタッチから……」


クロスは両手でコップを包むように持ち、ゆっくりと詠唱を唱える。


「冷たき精よ、我が手に宿り、触れるものを凍てつかせよ……アイスタッチ」


掌に意識を集中すると、水面がじわりと白く濁り、数秒後には表面が薄氷で覆われた。


「……よし、成功だ」


氷が張るまでに数秒を要するが、発動は安定してきた。

しかし問題は《フロストショット》だ。


「次、いくぞ……」


クロスは空の木箱を的に見立て、右手を前に差し出す。


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て.....フロストショット!」


手のひらに魔力が集まり、小指の先ほどの氷の弾が生まれる――が、放たれたそれは、的に当たっても「パシャッ」と割れただけだった。


「……弱すぎるだろ、これ」


木箱は濡れただけ。傷一つついていない。

初級魔法とはいえ、もう少し破壊力があってもいい気がした。


「教官、ちょっといいですか」


訓練場に現れたグレイ教官に声をかけると、彼は腕を組んで歩み寄ってきた。


「どうした、クロス。魔法、手応えが出てきたか?」


「はい、《アイスタッチ》は安定してきました。《フロストショット》も出せるんですが……威力が全然なくて」


「ふむ。ま、そんなもんだ。」


「こんなものなんですか?」


「そうだ。氷魔法は凍らせるってのが普通で、あまり強力な魔法じゃないってのが一緒的だ。」


グレイは腰を下ろして、話を続けた。


「ただ、氷魔法で攻撃する奴らもいる。それはだいたい“北の連中”だな。ノルヴァン連邦とか。あの寒い国の出身者は、何故か同じ魔法を撃っても威力が段違いになる」


「北の出身者……」


クロスは唸る。

魔法ってのは、体験する事でイメージが明確になるのかも――


(だけど、俺には地球で学んだ知識がある……)


冷却現象、凝固点、分子の振動。

テレビの科学番組や、理科の授業で学んだ氷の性質――それらが脳裏によぎる。


(氷は、水が温度によって結晶化した状態。結晶化の速度、氷の密度、エネルギー保存の法則……それが理解できれば、もっと効率的に、もっと強く、もっと自在に扱えるはず……)


ただの「冷たいもの」という曖昧なイメージではなく、物質としての“氷”を深く理解することで、魔法は進化するのかもしれない。


それがこの世界では“常識外れ”かもしれないが、クロスにとってはむしろ武器だ。


「……教官、氷魔法って、どこまで応用が効くんですか?」


「は? 応用? まあ、氷槍を作ったり、滑らせて移動させたり……色々あるらしいが、今のお前には無理だぞ?」


「いえ……ちょっと、気になったものですから」


「おいおい、また無茶して倒れるなよ。使いすぎには気をつけろ」


「もちろんです!」


クロスは笑いながら答える。

地球での学びが、この世界で役立つとしたら、それほど嬉しいことはない。


 


その夜、宿に戻ったクロスは、ノートに「氷」に関する知識や思いついた応用魔法を書き出していた。


「水が0度で凍る……氷の結晶構造……空気との接触面……これをイメージに乗せて、魔力に伝えられれば……」


机の上には、また水の入ったコップが置かれる。

今度は無理せず、一回だけ。


クロスは詠唱した。


「冷たき精よ、我が手に宿り、触れるものを凍てつかせよ……アイスタッチ」


掌から流れ込んだ魔力は、まるで水分子の振動を止めるかのように静かに沈み込み、わずか数秒でコップの中の水を完全に凍らせた。


「――よし。やれる」


これまでよりも早く、厚く凍った氷を見て、クロスは確かな手応えを感じた。


知識は力だ。

この世界で、自分が積み上げてきたすべてを“力”に変えていく。


魔法に、剣に、そして――生き残るために。

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