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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
145/168

帰る者と、残る者

 フェルナ村を襲った夜から、三日が経っていた。


 黒焦げの家屋、崩れた柵、村人の三分の一が帰らぬ人となった現実は、まだ誰の心にも深い傷を残していた。


 ラグスティアからの応援が到着する前、クロスの治療はすでに終わっていた。


 《ヒール》によって深い切り傷や裂傷は癒えたが、副作用による全身の激痛は今回で二度目。


 それでも、慣れるどころか、体中が熱を帯びて痙攣するような痛みに、彼はベッドの上で歯を食いしばっていた。


「……やっぱり、慣れませんね……これ」


 額に汗を滲ませるクロスを見下ろし、グレイスが呆れたように笑う。


「そんなもん、慣れるわけないでしょ。だから今は寝てなさい。動くなって言ったでしょ?」


 クロスは小さく息を吐き、無理やり目を閉じた。


「……はい」



 同じ頃、バルスも意識を取り戻していた。


 半身を包帯で巻かれた状態で天幕の中で体を起こし、周囲を見回す。


「……おお、地獄じゃねぇな。まだ生きてるか」


 そう呟く彼に、隣で見ていたセリナが呆れたように腕を組んだ。


「よくそんな火傷で生きてるものね。普通の人なら、あの場で動けなくなってたわよ」


 バルスは豪快に笑い声をあげた。


「死ぬかと思ったが、体はまだくたばる気がねぇらしい。……運だけはあるな」


「運っていうより、無茶しすぎ。次はあんな突っ込み方しないでよ」


「……気をつける。たぶんな」


「……まったく。グレイスさんが聞いたら呆れますよ」


セリナが深いため息を吐き、肩をすくめると、バルスは豪快に笑い続けた。




 翌日、応援の冒険者たちが到着した。


応援の5級パーティと、6級パーティが到着し、村の警備と復旧が動き出した。


グレイスはまず、ラグスティアまで応援を呼びに走ったミーナたちに声をかけた。


「ミーナ、ミール。……あなたたちがラグスティアまで知らせてくれたおかげで、こうして応援が来た。本当に助かったわ」


ミーナが、疲れた笑みを浮かべる。


「いえ……あれくらいしか、私たちにできることがなかったので」


ミールも肩をすくめた。


「まあ、もう少しで私たちも途中で倒れるところでしたがね」


グレイスは短く息を吐き、首を横に振る。


「無理を承知で頼んだのは私。……本当に感謝しているわ」


グレイスは全員の顔を見廻し、簡潔に指示を告げる。


「これからの動きについて。応援に来てくれたライオネル率いる五級パーティとシリル率いる六級パーティ、そしてアーヴィンたち4級パーティは、この村に残ってもらう。村の防衛と復旧は、あなたたちに任せるわ」


アーヴィンが眉を上げ、苦笑した。


「……俺たちは帰れないってわけか」


「指揮を執れる経験者が必要なの。あなたたちなら村人をまとめられるでしょう?」


 アーヴィンは肩をすくめ、渋々と笑った。


「まあ……そういうことなら、仕方ねえな」


ライオネル率いる面々も頷く。


「指示を出してくれれば動く。優先順位を決めてくれれば、復旧でも警備でも手を貸そう」


シリル率いるパーティも同調する。


「私たちは元より、後詰め役だ。グレイスさん、どこを固めるか指示してくれ」


そこにグラハムが口を挟んだ。


「ただし…上位の魔物が群れで現れた場合、俺たち4級でも苦戦する。無闇な戦闘は避けろ。村を守るのが第一だ」


シリルが真剣な顔で頷く。


「了解だ。俺たちも無茶はしない」


グレイスは彼らの視線を受け、ライオネルも短くうなずいた。


クロスが不安そうに問いかける。


「……俺たちだけ帰って、大丈夫なんでしょうか」


バルスが腕を組み、ゆっくりと答える。


「ここにはアーヴィンたちも残るし、応援の連中もいる。……今の俺たちじゃ、足手まといだ」


ミーナが小さく口を開く。


「……でも、亡くなったみんなの遺体は? 埋葬は……」


セリナが彼女の肩に手を置いた。


「応援の人たちが、弔いの準備をしてくれるそうです。……あなたたちは、気に病まずに」


ミーナは小さく頷いた。クロスは二人の会話を聞いて提案する。


「……帰ったら、きちんと弔いをしよう。あの人たちのためにも、俺たちは生きて、強くならないと」


その言葉に、ミーナは小さく頷いた。


最後に、グレイスがバルスへ視線を向けた。


「バルス。ラグスティアに戻ったら、ギルドに報告してほしい。…黒装束の者たちの力、魔物への影響、人間を魔物に変える術があること……わかっている限りで全部」


 バルスはうなずき、低い声で答えた。


「任せろ。……さすがにこの話は緊急事態として話さないと不味いからな」


 それぞれの役割が決まり、翌日には動き出すことが決まった。


 こうして、村に残る者と帰る者が決まった。


 それぞれが重い思いを抱えたまま、翌朝、別れの準備を始めることになる。


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