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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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目覚めと報せ

意識が浮上した瞬間、全身を襲う痛みで、クロスは思わず息を呑んだ。


 背中から肩、腕、脚、指先に至るまで、まるで鋭い針で全身を突かれたような感覚が広がっている。


目を開けると、薄暗い天井と、崩れかけた木造の梁が視界に映った。


湿った木の匂いと、血の生臭さ、そして微かに漂う薬草の香りが鼻を突く。


(……ここは、フェルナ村の……建物の中か……?)


 身体を少しでも動かそうとしただけで、肺に走る痛みが鋭くて、すぐに動きを止めた。


横を見ると、近くの簡易寝台にはバルスが横たわっている。


分厚い胸板が上下しているのが、かろうじて生きている証だった。


その横で、セリナが膝を抱えた姿勢のまま、静かに寝息を立てている。


青白い顔からは疲労の色が濃く、魔力の使い過ぎが一目でわかった。


 クロスは、薄く唇を動かした。


「……まだ、生きているのか……俺も……」


 呟いた声は自分でも驚くほど掠れていて、喉がひどく渇いていた。


かろうじて首を横に倒し、室内を見渡すと、崩れた壁の隙間から外の光がわずかに差し込み、村の騒然とした空気が感じられた。怒号、泣き声、そして獣の吠え声が遠くで混ざり合っている。


「……目が覚めたか。」


 声と共に、戸口から一人の女性が入ってきた。


肩までの髪を後ろで束ねた双剣士、グレイスだった。


彼女の鎧や外套には泥と血がこびりつき、その瞳には疲れが濃く宿っている。


それでも、クロスを見つけると、わずかに眉を緩めた。


「体調はどうだ? 背中を含めて全身、酷い状態だが。」


 クロスは息を整え、ゆっくりと答えた。


「……正直に言うと、全身が痛いです。……背中は特に、息を吸うだけでも響く。」


「当然だ。お前、あれだけの戦いを繰り広げたんだ。治癒魔法は今、バルスに優先して使っている。セリナも魔力を使い果たして寝込んでいるからな。お前の治療は、あいつらの魔力が戻ってからになる。それまで、少し我慢しろ。」


「……わかりました。」


 クロスは短く答えたが、その声には僅かな苦笑が滲んでいた。


痛みで額に汗が滲むのを感じつつ、彼は続けて尋ねた。


「……状況は、どうなっていますか? 俺が倒れた後のことを、教えてください。」


 グレイスは頷き、近くの椅子に腰を下ろした。


「まず……ヴァルザのことだが。覚えているか?」


 クロスは瞼をわずかに伏せ、深く息を吐いた。


「ええ。……奴を倒したのは、俺です。あの時の感触、まだ腕に残っています。」


「そうか。なら話が早い。お前がヴァルザを仕留めた後、戦場に残っていたのは私たち五人と、アグナスだけだった。」


 クロスは眉を寄せる。


「……アグナス、ですか。俺が一度遭遇した時は、得体の知れないプレッシャーだけは感じましたが、実力までは……。」


「言っておくが、あの男の力は尋常じゃない。炎を操る速度も威力も、通常の魔法使いとは次元が違う。五人がかりで食い止めたが、決定打は一度も与えられず、最後は上級の火魔法を放ってきて、結局逃げられた。」


「……逃がしたんですね。」


「ああ。追撃できる余力が誰にも残っていなかった。正直、生き延びただけでも奇跡だ。」


 グレイスはそう言い、視線をわずかに伏せる。その沈黙に、クロスはわずかに言葉を探してから問いかけた。


「……コルニ村まで一緒だった冒険者たちは?」


「……半分以上が死んだ。」


 静かな声だったが、その言葉の重みは胸に突き刺さった。クロスはしばし沈黙し、やがて小さく呟く。


「……面識が深かったわけではありません。……それでも、やはり……残念です。」


「……そうか。」


 グレイスもそれ以上は言わなかった。ただ、彼女の横顔には同じ思いが浮かんでいた。


「生き残った者たちは、アーヴィンを中心に村の防衛と救護を続けている。血の匂いに釣られて魔物が散発的に現れるから、油断できない状況だ。」


「……今後は、どうするつもりですか?」


「ラグスティアに応援を要請する以外に道はない。だから、斥候のミーナとミールに走ってもらった。」


「二人だけで?」


「他に走れる者がいない。……正直、あの双子が無事にたどり着くことを祈るしかない。」


 クロスはしばし目を閉じた。胸の奥で、あの「神」の声が微かに反響するような気がした。•••力をどう使うか、お前が選べ、と。


 グレイスは淡々と続けた。


「ラグスティアから応援が来たら、次はノルヴァン連邦側のギルドにも報告に行く必要がある。この村はあちらの管轄だからな。ただ……」


 そこで彼女はクロスを見た。


「お前とバルスは重傷だ。治癒魔法の副作用が完全に治まるまでは動けないし、動けるようなったとしても、ラグスティアへ戻ることになるだろう。連邦への報告は、私たちだけで向かうことになる。」


「……了解しました。ですが、それまでの間……」


「最低でも三日は寝てろ。今動けば、背中の傷が悪化して命取りになる。」


「……はい。」


 外からは、子供の泣き声と、村人たちが建物を片付ける音がかすかに聞こえる。


 クロスは耳を澄ましながら、静かに息を吐いた。•••意識が薄れていく中で、あの神の声が脳裏に蘇る。


 《お前は、この力で何を行う?》


 あの問いが、胸の奥で何度も響いていた。


 クロスは目を閉じたまま、静かに呟いた。

「……俺は……護る為にこの力を使う」


やがて瞼が重くなり、意識は再び深い眠りへと沈んでいった。


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