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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
139/168

クロスVSヴァルザ④

 甲高い金属音とともに、火花が闇を裂いた。


 ヴァルザの振るった長剣が、クロスの防御を弾き飛ばし、その余波が地面を裂く。


 避けきれない•••そう悟った瞬間には、背筋に焼けるような痛みが走っていた。


「ぐっ……!」


 深く刻まれた裂傷。背中を伝う血の感触が、クロスの全身から力を奪っていく。


 膝をつきかけたクロスは必死に踏みとどまり、剣を支えに立ち上がった。


 対峙するヴァルザは、濁った瞳を細めてクロスを見下ろす。


 その巨躯から放たれる殺気は、周囲の空気を凍らせるほどだ。


「……っぐ……!」


息を吸い込むだけで背中が引き裂かれるようだ。


それでも、倒れれば即座に首を刎ねられる。そんなのは、絶対に許されない。


ヴァルザが、獣のように目を細めてこちらを見下ろしていた。


その口元は薄く歪み、愉悦と苛立ちが入り混じった表情を浮かべている。


「立つか。背中を裂かれても、まだ剣を握るか……」


ヴァルザの声は低く、地面を這うようだった。


「だが、その足取りじゃ、もう終わりは近いな」


クロスは答えない。ただ、吐き出す息を短く整え、再び剣を構え直す。


《ビジョン・ドメイン》は発動中。


周囲の動きは、依然としてスローモーションに見える。


だが•••体が、追いつかない。


(……動きが見えても、俺の反応が……遅い。背中の痛みが……邪魔をしてる……!)


脳が最適な回避と攻撃のルートを示すたび、身体がその動きに届かず、軌道がずれる。


その小さな狂いを、ヴァルザは見逃さなかった。


「さっきまでの威勢はどうした? その不気味な“見切り”も、万全な状態じゃなきゃ使えないようだな」


ヴァルザが低く踏み込み、黒い長剣を弧を描くように薙いだ。


視界の中では、剣速がゆっくりとした軌跡を描いている。だが現実の体感速度は違う。


クロスは辛うじて体を捻ってかわすが、風圧で背中の傷が開き、膝が沈む。


(……くそ……落ち着け、まだ終わっちゃいない……!)


歯を食いしばり、クロスは自分に言い聞かせる。


焦ったら終わりだ。


一瞬の隙で、死ぬ。


ヴァルザはその様子を眺め、肩を揺らして笑った。


「ふん、さっきまでの妙な優位は、もう消えたな」


黒い長剣の切っ先が、獲物を仕留める捕食者のようにクロスへ向く。


クロスは静かに呼吸を整えた。脳裏に、魔力の流れを思い描く。


•••四肢と胴に、魔力を溜める。いざという瞬間、爆ぜるように解き放つために。


(今は……まだ使えない。タイミングを、待て……)


ヴァルザの視線が、わずかに鋭さを増した。


クロスの体内に漂う魔力の微かな動きを、気配で察したのだろう。


「……ほう? まだ、足掻く気か」


ヴァルザの足取りが変わる。重い足音を刻みながら、より速く、より重く•••明らかに先程より圧を増して迫ってくる。


次の瞬間、クロスの目に、黒い残像が走った。


斜め上からの斬撃。


かわした•••だが、足元を掬うように蹴りが飛んでくる。視界に映るが、体が遅れ、腹に衝撃が走った。


「がっ……!」


地面を転がり、土煙を上げながら立ち上がるクロス。


膝をついたその視線の先で、ヴァルザは笑っていた。


「どうした? お前のその妙な力も、結局は時間稼ぎにすぎない。見えるだけで動けないなら、死ぬだけだ」


その声には確信と、嗜虐の響きが混じっている。


クロスは返事をせず、ゆっくりと立ち上がった。


足元の土を踏みしめ、深く息を吸う。


(……このままじゃ、押し切られる……。けど……まだ、打つ手はある)


視界の端で、ヴァルザが動く。踏み込みが一段深くなった。


その軌道、その剣速•••全てが先程より重く速い。だが、見える。


見えるが•••対応が遅れる。


「遅い!」


ヴァルザの声と同時に、黒い長剣が再び襲い掛かる。


クロスは、左足に溜めた魔力を一瞬だけ解放した。


踏み込み、転がるように距離を取る。剣閃が目の前を掠め、髪が切り落とされた。


(今はまだ……温存だ。焦るな……!)


ヴァルザが唇を歪めた。


その目は獲物を追い詰める捕食者そのものだった。


「結局は“力”だ。力あるものが全てを得る」


ヴァルザの瞳が赤黒く光り始める。


「人間なんざ、口では理想や仲間を語りながら……都合が悪くなれば切り捨てる。俺も、あの頃……そうやって見捨てられた。

だから俺は、力だけを信じることにした。力を持つ者だけが、生きる価値がある。……そうだろう?」


クロスは黙したまま、息を整えた。


ヴァルザの声は、深い憎悪と確信に満ちていた。


その気迫に、空気が重くなる。


戦場の静寂の中で、二人だけの殺意が絡み合った。


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