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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
136/168

クロスVSヴァルザ②

 重く、粘りつくような空気が、夜の広場を覆っていた。


 瓦礫が散らばった石畳の上、二つの影が対峙する。


 一方は大剣を肩に担ぐ、血塗れの男•••ヴァルザ。


 もう一方は、剣を両手に構え、深く息を吸い込む青年•••クロス。


 月光が二人の間を淡く照らし出す。


 その光が、張り詰めた空気の中で、どこか不自然に揺らいで見えた。


 クロスの視界では、世界がわずかに遅れて流れている。


 《視界領域ビジョン・ドメイン》•••その発動状態。


 しかし、いまやそれだけでは足りなかった。


(……見える。見えてるのに……っ。体が、追いつかない……!)


 ヴァルザの肩が微かに沈み、右足が土をを抉る。


 大剣の重みが流れる方向を、視界が先読みするように感じ取る•••だが、体が動く前に。


 ドゴォォンッ!


 大剣が横薙ぎに広場を薙ぎ払う。


 クロスは反射的に刃を合わせ、衝撃を受け流すも、足が地面にめり込み、腕が痺れた。


「クッ……!」


 息が漏れる。


 対するヴァルザは、獰猛な笑みを浮かべたまま、大剣を肩に戻す。


「ようやく“当たる”ようになってきたな」


 その声音には、確かな愉悦が混じっていた。


 ヴァルザはクロスの“目”や技の理屈など知らない。


 ただ一つ、確信している。


「……俺の動き、見切ってやがるな? だったら、もっと速く……もっと重くしてやるよ」


 彼はそう呟き、足を地面に深く沈ませた。


 地面がミシリと軋む。


 次の瞬間•••その巨体が弾かれたように飛び出す。


 風圧が走る。


 クロスは目を見開き、身体を半歩だけ引いた。


 刃が空を裂く音が耳を刺し、すれ違う寸前、ヴァルザの背中が視界をかすめる。


(……あぶなっ……! いや、あぶないどころじゃなかった。完全に押されてる。)


 クロスは短く息を吐き、体勢を立て直す。


 ヴァルザの足音が再び響く。


 回転しながら大剣を振り抜くその動きは、重さと速さがこれまでと段違いだ。


 刃と刃が再び激突。


 衝撃が走り、クロスの足裏から地面にヒビが広がった。


「どうした、さっきまで余裕そうだったじゃねぇか」


「……余裕なんて、最初からない」


 青年らしい、低くも苛立ちを抑えた声。


 息を整えつつ、クロスはヴァルザの動きを見据えた。


(このままじゃ、持たない。)


 だが、魔力コントロールの為に魔力を巡らせるには、わずかな隙が要る。


 その隙を見せれば、ヴァルザの剣圧が一瞬で命を刈り取るだろう。


 ヴァルザは、にやりと笑った。


「足、止まってんぞ。考え事か? それとも、もう動けねぇのか?」


「……黙れ」


 吐き捨てるように言いながらも、クロスの背筋には冷や汗が伝う。


(焦るな……冷静に隙を作れ。今、魔力を通さなきゃ…終わる。)


 ヴァルザの大剣が、また横へと大きく薙がれる。


 クロスは飛び退き、足元の瓦礫を蹴り飛ばして距離を取った。


「逃げるなよ。これからが楽しいとこだろ?」


「そんな趣味はない」


 短いやり取りの裏で、クロスは一瞬、深く息を吸う。


 肺を満たし、心拍を意図的に落とす。


 その一拍の間に、魔力を•••両足、両腕、そして胴体へと送り込んだ。


(……あと少しで、間に合う……!)


 ヴァルザの影が迫る。


 足音が石畳を砕き、風が押し寄せた。


「死ねやぁッ!」


 大剣が、雷鳴のような音を立てて振り下ろされる。


 クロスは刃を交差させて受け止めると同時に、魔力の充電を終えた。


(…間に合った。)


 全身の血流が熱を帯びる。


 クロスは歯を食いしばり、反撃のための足を強く踏み込んだ。

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