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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
134/169

血と炎の二つの戦場

 夜のフェルナ村は、まるで地獄と化していた。


 燃え盛る家々の炎が、風に煽られ、赤い火柱が闇を裂く。


 煙と血の臭いが混じり合い、鼻腔を刺す。


 その中央に、二つの影が立っていた。


 一人は漆黒の外套を纏い、指先に紅い光を灯す高位魔導師、アグナス。

 もう一人は血を纏ったような瞳を光らせる、ヴァルザ。


 そして六人の冒険者が、二手に分かれて彼らに向かい合った。


 グレイス、バルス、グラハム、フロレア、セリナ――五人がアグナスに。


 クロスが、ヴァルザと一対一で。


 空気が、張りつめる。




「……行くわよ!」


 グレイスが短く号令をかけた瞬間、バルスが巨体を躍らせ前へ出た。戦斧を肩に担ぎ、炎に照らされる顔は険しい。


「流れよ、フォース。ブースト!! ……全員、強化完了!」


 後方のセリナが補助魔法を重ね、五人の身体を淡い光が包み込む。筋肉が軽くなるような感覚が走る。


 その時、アグナスの低い声が響いた。


「《フレイムランス》」


 地を這うように、炎の槍が奔った。


その速度は視線で追えないほど速い。


一直線にバルスの胸を貫かんと迫る。


「チッ……!」


 バルスは戦斧を横薙ぎに振り抜き、炎を叩き割るように防いだ。だが爆ぜた炎の破片が空気を焼き、熱波が襲う。


「バルス、下がれ!」


 グレイスの鋭い指示が飛ぶ。


 その間にフロレアが回り込み、風の魔力を矢に纏わせ、狙撃を放つ。


 矢が一直線に飛ぶ•••だが、アグナスの周囲に現れた炎の壁が矢を燃やし尽くした。


「壁ごと撃ち抜く! 熱よ、弾けろ――《ファイアショット》」


 グラハムの掌から火球が放たれる。


炎と炎がぶつかり、轟音と共に爆ぜた。


爆風を切り裂き、グレイスが音もなく距離を詰める。


 剣閃が闇を裂いた。


 しかし、アグナスの周囲に紅い障壁が現れ、刃は弾かれる。


「……なるほど。五人で、やっとこれか」


 アグナスは無表情のまま、掌に紅い光を集める。


 周囲の炎が吸い寄せられ、巨大な火球が形成された。


「全員、散れッ!」


 バルスの怒声と同時に、地が揺れ、爆炎が広場を包む。


 セリナが防御魔法を展開し、辛うじて直撃を避けるが、熱と衝撃で全員の息が荒くなる。




 その爆炎を背景に、クロスとヴァルザの視線が交わった。


 ヴァルザは片手で剣を肩に担ぎ、笑みを浮かべる。


 赤黒い瞳が、クロスだけを射抜いている。


「ようやく決着がつけられそうだな……坊主」


 その声音には、獲物を見つけた獣のような楽しみが滲んでいた。


 クロスは静かに息を吐き、剣を抜いた。


 その刃先は微かに震えているが、目は揺らがない。


「ここで……お前を止める」


「止める? 俺を? ……ククッ、言うじゃねえか」


 ヴァルザが肩を竦め、剣をくるりと回す。


 次の瞬間、クロスの瞳が光を帯びた。


視界領域ビジョン・ドメイン


 世界が遅れる。


 炎の揺らめきが波打つようにゆっくりと流れ、風が動きを失ったかのように重くなる。ヴァルザの姿だけが、鮮明に浮かび上がる。


 クロスの呼吸は深く、一定。


 一歩、一撃は速くない。だが、極限まで無駄を削いだ“最適な動き”として放たれる。


(またこれか……理解できねえ動きだな)


 ヴァルザは口元に笑みを浮かべる。


「だが•••理解できねえなら、それごと叩き潰すだけだ!」


 ヴァルザの剣閃が奔る。


 クロスは一歩踏み出し、その攻撃を紙一重で躱す。


 炎に照らされ、二つの影が交錯した。




「くそっ、息が上がる……!」


 バルスが戦斧を支えながら呻く。


炎の熱気と連続した爆風で、全員の体力は確実に削られていた。


「まだ行ける! グラハム、次の火球を合わせろ!」


 グレイスが叫ぶ。


 フロレアが風矢を連射し、アグナスの注意を散らす。


「……面倒だな。《フレイムサークル》」


 アグナスの周囲に炎の輪が浮かび、五人を囲い込む。

 熱で空気が歪み、呼吸が重くなる。


「フロレア、風魔法を最大出力で!」


 グレイスの声にフロレアが頷き、魔力を絞り出して防御を張る。


「これ以上消耗させないで……! 魔力が尽きるわよ!」


 フロレアの額には汗が浮かび、声が震える。


「なら一気に突破する!」


 グレイスが地を蹴り、障壁を破壊する勢いでアグナスに突撃。


 その後ろを、バルスとグラハムが支える。




 クロスの視界の中で、ヴァルザの動きが歪む。


 その軌道を、感覚で“先読み”し、最小限の動きで対応する。


 だが•••ヴァルザの剣は速い。重い。


「お前のその目……気に入らねえな」


 ヴァルザの剣圧が空気を裂き、クロスの頬を掠めた。


「……お前だけは許さない!」


 クロスの瞳は揺らがない。


「なら…斬り伏せるまでだ!」


 二人の剣が火花を散らし、夜の戦場に響き渡った。

今更ですが…


視界領域ビジョン・ドメイン

術者自身の知覚速度を極限まで加速させ、術者の周囲の世界の動きが極端なスローモーションに見えるようになる。

あくまで術者の「知覚」が加速しているだけであり、術者自身の肉体速度は向上しない。スローモーションの中で、自身の肉体の限界速度を超える行動は不可能。


という設定です。

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