燃える村、折れない刃
夜空を焦がす炎の渦。その光の中で、グレイスたちは剣を構えた。
フェルナ村の惨状は、六人が到着した時にはすでに最悪の局面を迎えていた。
二十体もの異形・・・人と魔物をかき混ぜたような存在たちが、村人たちを囲み、家屋を破壊し、火と土の魔法で混乱を広げていた。
「……二十体か。数が多いな。しかも、全部が人外の化け物だな。」
バルスが盾を前に構え、戦斧を肩に担ぐ。その顔には疲れの色が濃い。
彼の額には、先程までの連戦と移動の疲労で滲む汗が光っている。
フロレアは炎に照らされる中で弓をつがえ、口をへの字に曲げる。
「しかも魔法を使えるやつまで混じってる。……避けるだけでも一苦労ね。」
グレイスが短く指示を飛ばした。
「バルスは前衛で盾を活かし、村人を守れ!フロレア、魔法使いを優先して撃ち落として!グラハムは牽制の火魔法を中心に数を削って、セリナは治療と補助を徹底!」
四人が散開し、火の粉と悲鳴が交錯する戦場に飛び込んだ。
バルスが大柄な異形の一撃を盾で受け止め、戦斧で反撃する。
だが・・・その動きは、普段より僅かに遅い。
盾に叩きつけられた斧の衝撃で足元が滑り、体勢を崩す。
「……チッ、脚がついてこねえ!」
バルスが毒づく間もなく、別方向から槍を持つ異形が突進してくる。
咄嗟に盾で受けるが、力の流れを抑えきれず後退した。
その隙を、フロレアの矢が貫いた。
「集中して、バルス! 動きが鈍ってる!」
弓を放ちながら彼女は叫ぶ。だが、そのフロレアもまた、避けざるを得ない火球に足を止められ、矢を外す場面が増えていた。
「炎の槍よ――《フレイムランス》!
グラハムの火の槍が群れの一角を弾き飛ばすが、連戦で集中力が落ちているせいか、一撃で仕留められない。
「魔力の消費が妙に早い……な。」
眉をひそめるグラハムの隣で、セリナが即座に補助魔法を唱えた。
「流れよ、力。《ブースト!》! 」
彼女の魔法陣が光り、仲間たちの身体能力がわずかに高まる。
「今は耐えて! 無理をすれば潰されるわ!」
セリナ自身も額に汗を浮かべていた。治癒と補助を繰り返し、魔力の消耗がじわじわと限界に近づいている。
押される一方だった彼らだが、数分後・・・戦況が変わる。
異形たちの動きに、疲労の色が見え始めたのだ。
バルスが低く吼える。
「……ハァッ! 魔力を惜しむのはやめだ!」
戦斧に青白い光が灯る。魔力を流し込み、一撃で異形の胴を叩き割った。
その光景にフロレアが小さく息を呑む。
「……なら、私も全力で。」
矢尻に魔力を纏わせ、放つ。赤黒い肌を持つ異形の喉元を貫き、倒れた。
グラハムが苦々しく呟き、火球を連続で放つ。
「魔力温存なんざ無理だな……熱よ、――《ファイアショット》」
炎が爆ぜ、三体の異形をまとめて焼き払う。だが、その動きはどこか重い。
「……持久戦は、こっちが持たねえな。」
セリナは咄嗟に腰のポーチから魔力回復薬を取り出し、仲間に次々と投げ渡した。
「早く飲んで! 今は文句言ってる暇ないでしょ!」
四人が同時に顔をしかめ、息を止めて薬を飲み干す。
胃が痙攣するような苦味に吐き気がこみ上げるが、すぐに魔力が身体を駆け巡った。
魔力を取り戻した四人は、呼吸を合わせて攻勢に出る。
バルスが盾で二体を押し退け、グラハムの炎がその背を焼き、フロレアの矢が動きを止めた敵の急所を貫く。
セリナは彼らの背後で治癒魔法を連続で唱え続け、仲間が倒れぬよう支える。
「これで……あと六体!」
フロレアが叫び、最後の矢をつがえる。
「行くぞ!」
バルスの声と共に、四人が同時に動き、最後の異形をまとめて叩き潰した。
村に残っていた炎の轟音だけが、静かに夜を満たした。
四人の肩で息が荒い。誰もが傷を負い、息を切らし、それでも立っていた。
「……なんとか、終わったか。」
グラハムが肩で息をつきながら呟く。
だが、彼らの視線は村の中央・・・燃える広場へと向かう。
そこには、まだ別の戦いが始まろうとしていた。
クロスと、異形に変わりつつあるダリオの対峙が・・・。




