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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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裏切りの牙

夜の闇に包まれた森を抜けた瞬間、六人の視界に広がったのは・・・村が燃える光景だった。


フェルナ村。


ノルヴァン連邦のエルディア王国国境に近い小さな集落は、今まさに襲撃を受けていた。


焚き火の赤い明かりと、家屋の燃え上がる炎が夜空を染め上げ、焦げた木材の臭いと、村人たちの悲鳴が交錯する。


「……遅かったか。」


グレイスが剣を抜き、険しい表情で前方を見据える。


闇の中、武器を持った二十体の異形の影が村を取り囲んでいるのが見えた。


人の背丈を優に越える者もいれば、ゴブリンに似た獣じみた動きの者もいる。


彼らの腕には剣や槍、斧が握られ、時折そのうちの数体が火球や土の槍を生み出し、村の抵抗を叩き潰していた。


「……二十体か。しかも魔法まで使う連中が混じってるな。」


バルスが低く唸り、盾を構える。


フロレアが矢をつがえながら周囲を見渡した。


「村人の避難が間に合ってない。すぐに散開して守らないと……!」


その時、クロスの目が、燃え立つ村の中央広場に立つ一人の男を捕らえた。


燃え盛る家屋の炎を背に、大剣を肩に担ぎ、村人たちを睨み据えるその姿。


セラの元パーティメンバー、クロスに敗れラグスティアから追放された男・・・ダリオ。


ダリオは村の広場で、怯える村人を背に立ちふさがっていた。


彼の表情は、かつての自尊心を張りつめた顔とは違い、どこか歪んでいる。


クロスはゆっくりと歩み寄り、剣を抜かずに声をかけた。


「ダリオ……なぜこんなことをしている?

お前も冒険者だったはずだろう。護るべき人々を襲って、何を得るつもりだ。」


ダリオはその言葉に、唇を歪めて嗤った。


「ハッ……護るべき? 笑わせるな……。キサマのせいで俺はラグスティアを追い出されたんだぞ!俺を見下した連中に、俺の力を思い知らせてやるためだ!この村を地獄に変え、俺を拒んだ連中に『力』を見せつける。それだけだ!」


クロスは眉をひそめ、静かに剣を抜いた。


「力、か……。そんなものを示すために、無関係な人間を犠牲にするのか。それなら……俺が止める。」


ダリオの口元が、獰猛に吊り上がる。


「止める、だと? あの時と同じように、俺を見下すつもりか?上等だ……今度こそ、叩き潰してやる!」


その背後で、異形の二十体が一斉に唸り声を上げ、村人に襲い掛っていた。


斧を担いだ巨躯が、火魔法を操る影が、土槍を生成する者が、それぞれの役割を果たしつつ迫る。


グレイスが即座に叫ぶ。


「バルス、フロレア、グラハム! 村人の保護を優先!セリナは治療と補助を。私が指揮を執るわ!」


三人が即座に頷き、それぞれ武器を構えて散開した。


襲撃者の中にはダリオの元仲間たちも混ざっていたが、それ以上に厄介だったのは、ゴブリンとも人間ともつかぬ異形の生物たちだった。


「こいつら……動きも速いし、魔法まで使使いやがる!」


バルスが盾で火球を弾きながら叫ぶ。


「油断しないで! 一体ずつ確実に仕留めるわよ!」


グレイスが指示を飛ばし、双剣を閃かせる。


フロレアは素早く後退し、矢をつがえて矢を放つが、敵は武器を振るい軽々と矢を弾いた。


「チッ……こいつら、普通の魔物じゃないな。」


グラハムは火球を生成し、足止めを狙って投げ放つが、爆発を防ぎきった敵が鋭い突撃で距離を詰めてくる。


五人は連戦の疲れもみせずに応戦を続けた。


一方で、クロスとダリオの一騎打ちは、別の緊張を孕んでいた。


ダリオが鋭い声を上げ、突っ込んでくる。


「キサマを、この手で叩き潰す!」


その動きは以前と変わらず、クロスには全てが手に取るように見える。


「……その程度か。」


クロスは魔力コントロールで強化した脚で軽やかに回避し、逆に剣の切っ先をダリオの腕に突き立てた。


「ぐっ……!」


血が舞い、ダリオが後退する。


その余裕ある態度に、ダリオの顔が怒りで歪んだ。


「フザケルナ……マダ……オレヲ見下スカ……!」


その瞬間、ダリオの身体が不自然に膨れ上がり、筋肉が盛り上がる。


背中が裂けるようにして骨ばった突起が現れ、口元からは鋭い牙が伸びていく。


「……モウ……ユルサナイ。……コロス……コロシテヤル……クロォス!」


言葉は明らかに人ならぬ声へと変貌していった。


クロスはダリオの姿を見つめ、剣を構え直した。


「……そういうことか。ヴァルザの言っていたのはお前らの事か。あいつらに利用されているんだな。」


背後では、グレイスたちの戦闘がさらに激しさを増し、異形の咆哮と魔法の閃光が飛び交っていた。


クロスは一歩前に踏み込み、異形と化したダリオに向けて低く呟いた。


「……来い、ダリオ。今度こそ、決着をつける。」

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