フェルナ村への道
六人は森の中、次の目的地・・・ノルヴァン連邦側の村、フェルナ村へ向けての準備を進めていた。
セリナは小さな薬瓶を手にしながら、一同に声をかける。
「魔力回復薬、全員飲んでね。これを飲まなきゃ先に進ませないから」
バルスは先に小瓶を手に取ると、やれやれと苦笑した。
「俺は、これで今日三本目だぞ……」
「まあ、激しい戦闘が続くからね。魔力の消耗も早いわけよ」
セリナは淡々と答えた。
フロレア、グラハム、グレイスは慣れた様子で小瓶を取り出し、覚悟を決めて飲み干した。
「あの苦さは……覚悟してたけど、やっぱり辛いな」
フロレアが顔をしかめる。
「魔力回復のためなら仕方ない。ここは耐えるしかないな」
グラハムが短く呟く。
グレイスはため息をつきつつも、皆に同調した。
クロスは初めての経験に少し緊張しながらも、手を差し伸べられた瓶を素直に受け取った。
「俺も飲みます」
セリナがそっと彼に近づき、優しくアドバイスした。
「初めてなら、息を止めて、一気に飲み込むことね。途中で止めたら吐いちゃうから」
クロスはアドバイスに従い、ゆっくりと息を止めて薬を飲み込もうとした。
しかし、喉を通る瞬間、薬の激しい苦みと刺激が彼を襲う。
思わず吐き出そうとしたその時、セリナが真剣な声で言い放つ。
「吐かないで。全部飲み込んで!」
クロスは口を閉じ、必死に薬を飲み込んだ。
「……きつかった……でも、これで少しは楽になるかな」
クロスが感想を話した時に、フロレアがグレイスに話しかけた。
「ねぇ、グレイス。クロスのあの動き……何なの? あなた、何か知ってるんでしょ?」
彼女の鋭い視線がグレイスに向く。
「俺も気になった。この坊主、身体強化して戦ってただろ?」
バルスが続き、グラハムも怪訝そうに眉を寄せた。
「まさか……お前、魔力コントロールを教えたのか? こいつ8級だぞ?ギルドの規則では、魔力コントロールは確か5級の中でも見込みがある者にだけ教えるルールのはずだ。」
三人から一斉に詰め寄られ、グレイスは肩をすくめた。
「ちょっと、みんないっぺんに話さないでくれる? 落ち着いて。」
グレイスは言葉を探すように静かに話し始める。
「……クロスの力については知ってるわよ。理由? それは、私がこの子の師匠だからよ」
その言葉に、四人の目が大きく見開かれる。
「はぁっ!?」
「あんたが!?」
「嘘でしょ!?」
「お前、師匠って……!」
驚きの声が一斉に上がった。
セリナが思い出したように口を挟む。
「そういえば、あなたギルドから魔力コントロールの指導依頼が出てなかった? 」
「才能ない子ばかりだったから断ったわよ。クロスは……まぁ、例外。」
グレイスは淡々と答えた。
「ただし、あの能力については、私も詳しくわかってない。でも、身体強化した私に一撃で入れる力はある。彼の異質な力はまだわからないの……だから、誰にも言わないでくれる?」
四人の視線を順に見回し、静かに頼む。
バルスは顎を引き、グラハムとフロレアも無言で頷いた。
「そうは言っても、訓練はまだ一ヶ月ほどしかしてないし、正直、未熟よ。でも……」
グレイスはクロスに目を向ける。
「ギリギリ戦えたわね?」
クロスは小さく首を横に振った。
「……全然ダメだった。三歩以上動くと、まだバランス崩して転びそうになる。あの動きも、みんなみたいにはできない。」
バルスが豪快に笑い、クロスの肩を叩いた。
「何言ってんだ。あれだけやれりゃ上出来だろ!」
フロレアが前を向き直り、声を張る。
「とにかく・・・急ぎましょ。フェルナ村まで、まだ距離があるわ。」
六人はフェルナ村へ向かい出発する。
視界の先には、まだ見ぬ戦いの影がゆらめいていた。




