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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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血と影の戦場⑦

夜の森を満たすのは、血の匂いと、魔物たちの低い唸り声だった。


残るダークオーガは三体。


巨体が生み出す威圧感と魔力の重圧は、空気を震わせるほどだ。


「分かれて各個撃破する! 時間を掛けるな!」


グレイスが鋭く命じ、六人は散開した。




「こいつは、俺たちで落とす!」


バルスが盾を高く掲げ、戦斧を構える。


棍棒が振り下ろされ、地面が轟音と共にえぐれる。


土煙が舞い、四人の視界を奪う中、バルスが大きく叫んだ。


「右脚を狙え! 動きを止める!」


フロレアが弓を放ち、矢が丸太のような脚の筋肉を貫く。


グラハムの火球が爆ぜ、焼ける臭いが辺りに広がった。


だが、巨体は怯むどころか怒声を上げ、棍棒を横薙ぎに振る。


盾で受けたバルスが踏ん張り、足元の土を深く抉った。


「ッぐぅ……! まだ来るぞ!」


セリナの声が響く。


「強化、もう一度掛け直すわ! 動き止めて!」


バルスが斧を振り上げ、関節を狙う。


その隙に、セリナが光を放ち、四人の体が軽くなる。


「今だ、叩き込め!」


グラハムが炎の槍を放ち、フロレアの矢が脚部を射抜く。


バルスが渾身の力で斧を振り下ろし、巨体の足を切り裂くと、ダークオーガがよろめいた。


しかし、反撃は早かった。


巨腕が唸りを上げて振るわれ、バルスが盾ごと弾き飛ばされた。


「バルス!」


セリナが駆け寄り、治癒魔法を展開する。


「無茶するなって言ったでしょう!」


「……だが、まだ動ける!」


その瞬間、フロレアの矢が片目を潰し、巨体が苦悶の叫びを上げた。


「今しかない!」


バルスが立ち上がり、グラハムの炎で動きを鈍らせる。


フロレアが矢を連射し、セリナが再び補助を重ねた。


一斉攻撃が巨体を貫き、漸くダークオーガが崩れ落ちた。




グレイスは双剣を構えながら、汗を拭うこともなく呼吸を整えていた。


「援護する!」


バルスたち四人が駆け寄り、布陣する。


「五人で押し切るわよ」


グレイスの短い言葉が合図となり、攻撃が始まった。


バルスの盾が棍棒を受け止め、フロレアの矢が死角を作る。


グラハムが火球を叩き込み、セリナの光が全員を強化する。


だが、疲労は隠せない。

一瞬の遅れ・・・その隙を巨体が見逃さない。


「っぐぅ……!」


バルスが棍棒で吹き飛ばされ、地面を転がった。


「バルス!」


セリナが駆け寄り、治癒魔法を施す。


「今度こそ骨までいってるかと思ったわ……!」


「大丈夫だ……まだ立てる!」


その間、フロレアの矢が片目を貫いた。

巨体が怒声を上げる。


「今だ!」


グレイスが死角から滑り込み、双剣を喉元へ突き立てた。


刃が深々と入り、巨体が絶叫と共に崩れ落ちた。




戦場の中央・・・クロスは視界領域ビジョン・ドメインを維持しながら、最後のダークオーガを引きつけ続けていた。


棍棒の軌跡、足の踏み込み、呼吸の間合い。


すべてがスローモーションのように見え、クロスは最小限の動きで攻撃を誘導していた。


(俺の剣じゃ倒せない……でも、こいつの動きを読んで、隙を作ることはできる。)


剣で足を斬りつけ、巨体の注意を引き付ける。


刃が貫通しないことはわかっている・・・それでも、隙を作るため。


そこに、五人が再び集結した。


「クロス、下がれ! ここからは俺たちが相手する!」


バルスが叫び、盾を構える。


グラハムが火炎を叩き込み、フロレアの矢が残る目を潰す。


セリナが光で全員を強化し、グレイスが双剣を閃かせる。


「今度こそ、終わらせる!」


バルスが戦斧で足を払うと、巨体が体勢を崩した。


そこへグラハムの炎、フロレアの矢、そしてグレイスの双剣が一斉に襲いかかる。


喉元を断たれたダークオーガは、絶叫を上げながら大地に沈んだ。




戦場が静寂を取り戻した瞬間、六人は同時に深い息を吐いた。

血の臭いが、ようやく風に流れ始める。


「……終わったか」


バルスが盾を地に突き、荒い息を吐く。


「いえ、まだです」


クロスが視線を上げ、闇の奥を見据える。


「村の救援に行かないと」


グレイスが双剣を下ろし、仲間たちを見回した。


「休む暇はないわよ。…立てるか?」


「立つさ……こんなところで終われるかよ」


バルスが盾を持ち直し、仲間たちは再び立ち上がった。


戦いは終わっていない。


だが、この瞬間、六人の瞳には一筋の光が宿っていた。

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