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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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血と影の戦場⑤

赤黒い肌を持つブラッドゴブリンたちは、五体すべてが狂気を帯びた咆哮を上げていた。


その皮膚は鉄のように硬く、動きはしなやかで速い。四人を取り囲み、狩りを楽しむ獣の目で動きを窺っている。


「全員、注意しろ!」


バルスが戦斧を振り払いつつ、盾を前に構える。


「こいつら、普通のブラッドゴブリンよりも桁違いに硬ぇ! 身体強化だけじゃ斧も矢も通らねぇ。武器に魔力を流せ。……その代わり、消耗は覚悟しろ!」


「やっぱり、か」


グラハムが額の汗を拭い、息を整えながら呟く。


「デス・マンティスも一撃じゃ落とせなかった」


フロレアが眉をひそめ、弓を引き直す。


「こんなの、数が多いほど厄介よ」


「文句は後だ」


バルスが短く返す。


「まとめて地獄に送るぞ」


セリナが四人の背後で詠唱を終え、青白い光が一同を包んだ。


「補助魔法は切らさない。魔力の消耗は……」


一拍置いて、冷ややかに告げる。


「安心しなさい。激マズの回復薬があるから、嫌でも飲ませる」


「それは安心できねぇんだがな……」


バルスがぼやきつつ、戦斧に魔力を流し込み、蒼光を帯びた斧を構え直した。


「クソッ、やっぱ魔力の減りが早すぎる!」


息を吐きながら後退し、距離を取る。


その隙を突こうとしたブラッドゴブリンに、グラハムの炎弾が叩き込まれ、フロレアの矢が連続で突き刺さった。


だが、それでもゴブリンは倒れない。


焦げた肉の匂いを漂わせながらも、なお赤い目でバルスたちを睨み、突進の態勢を取っていた。


「セリナ!」


バルスが短く叫ぶ。


「ブーストもう一発頼む!」


「分かってる!」


セリナが素早く詠唱を重ね、青白い光がバルスの体を包む。


バルスは深呼吸をひとつし、戦斧を肩に担いだ。


「……一気に片付ける」


そう呟き、大盾で正面のゴブリンを押し退け、魔力を限界まで注ぎ込んだ斧を振り下ろした。


蒼光が迸り、肩口から胸へかけて深く切り裂く。


赤黒い血が飛び散り、ようやく一体が崩れ落ちた。


バルスは短く息を吐き、斧を引き抜くと、血で濡れた刃を振り払う。


「……一体目、仕留めた。あと四体だ」


「バルス、動きが鈍ってる。無理はしないで」


セリナが鋭い声で指示する。


「分かってる……が、出し惜しみしてる暇はねぇ。」


バルスは盾を上げ、次の襲撃に備える。


四体が一斉に動いた。二体が正面からバルスを圧し、残り二体が側面からグラハムとフロレアを狙う。


グラハムが素早く詠唱を切り替えた。


「灼熱の波よ、周囲を焼き尽くせ――《ヒート・ウェーブ》!」


地面から炎が噴き上がり、二体の動きを止める。だが、それでも膝をつかせる程度で、致命傷には至らない。


「耐性、高すぎる……!」


「グラハム、炎を重ねて!」


フロレアが叫び、矢を連続で放つ。一本は肩に、もう一本は眼窩に刺さったが、致命傷にはならない。


ブラッドゴブリンが吠え、フロレアに向かって跳躍する。


「下がれ!」


バルスが割って入り、盾で弾き飛ばす。


衝撃が腕に伝わり、肩が痺れるように痛む。


その瞬間を逃さず、戦斧を振り下ろし、膝関節を断ち切った。ゴブリンが悲鳴を上げて倒れ込む。


「今だ、グラハム!」


「炎の槍よ、貫け――《フレイムランス》!」


炎の槍が倒れたゴブリンを貫き、二体目が黒焦げになって動かなくなった。


残る三体が円を描くように動き、四人を分断しようとする。


バルスが前に出て盾を掲げた瞬間、右側から別の個体が鋭い爪を振り下ろしてきた。


盾で受け止めるが、鋭い爪が盾に食い込み、嫌な音を立てる。


「こいつら、力まで桁違いか!」


「バルス、下がって!」


セリナが叫び、即座に補助魔法を強化する。


青白い光がバルスの脚に流れ、踏ん張る力が増す。


バルスは盾を押し返しつつ、戦斧に魔力を集中。刃が蒼光を帯びて脈動を始める。


「……悪いが、もう加減はしねぇ!」


渾身の一撃が振り下ろされ、盾越しに押してきたゴブリンの胸を深々と裂いた。


だが、その瞬間・・・体内の魔力が大きく減っていく感覚が襲い、視界が一瞬揺らいだ。


「バルス!」


セリナが即座に小瓶を投げ渡す。


「今のうちに飲みなさい。抵抗しても無駄よ!」


「チッ……。」


渋々蓋を開け、鼻を摘んで一気に飲み干す。


舌に広がる強烈な苦味と薬草臭に顔をしかめた。


「……これ飲むくらいなら死んだ方がマシだな。」


「文句を言う元気があるなら戦いなさい。」


セリナが冷たく言い放ち、次の補助魔法をかける。


三体目が倒れた時点で、残る二体は連携して攻撃してきた。


一体がバルスの注意を引き、もう一体が死角からフロレアを狙う。


フロレアが弓を手放し、短剣で受け流すが、力負けして地面に押し倒される。


「フロレア!」


グラハムが火炎弾を放つが、ゴブリンは身をひねって直撃を避けた。


その代わり、バルスが割って入り、戦斧を渾身の力で振るう。


「まとめて地獄に落ちろ!」


蒼光を帯びた刃が、一体目の首筋を断ち切り、血飛沫を上げた。


その隙を突き、フロレアが残る一体の心臓目掛けて矢を放つ。


矢が深く突き刺さり、グラハムの追撃の炎で黒焦げとなり、最後の一体が崩れ落ちた。


戦場に、短い静寂が訪れた。


「……五体、全部沈めたか」


バルスが戦斧を杖のように地面に突き立て、荒い息を吐く。


「魔力も体力も……限界近ぇな」


「ほら」


セリナが無言で小瓶を差し出す。


「まだ残ってるでしょう、ダークオーガが。これ飲んで立て直して」


バルスは顔をしかめたが、無言で受け取り、再び激マズの液体を流し込んだ。


喉の奥を焼くような刺激に、思わず咳き込む。


「……くそ、この薬作ったやつ、呪ってやりてぇ。」


「文句は後。次はあっち。」


セリナが顎でグレイスとクロスが奮闘している戦場を示す。


バルスは戦斧を肩に担ぎ、深呼吸をひとつして立ち上がった。


「……行くぞ。ここでへばってる暇はねぇ。」


グラハムとフロレアも立ち上がり、四人は再び戦場の奥へと駆け出した。


その先には、漆黒の巨体・・・ダークオーガが、まだ猛威を振るっていた。


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