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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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世界を矯正する者

森を抜ける静かな街道。


昼の光が木々の隙間から差し込み、鳥のさえずりが響いていた。


その静寂を切り裂くように、低く冷たい声が響いた。


「……また会ったな、小僧」


クロスの心臓が一瞬、止まったかのように跳ねる。


木立の影から現れたのは、漆黒の装束を纏う男・・・ヴァルザだった。鋭い眼光と、腰に携えた長剣。


姿を見ただけで背筋に氷が走る。


「ヴァルザ……!」


クロスが思わず名を呼ぶと、グレイスを先頭に、周囲の五人も即座に武器を構えた。


しかし、ヴァルザはゆっくりと両手を上げ、掌を見せる仕草をした。戦う意思がないことを示すように。


「慌てるな。今は剣を交える気はない」


緊張を解かないまま、グラハムがヴァルザを睨み付ける。

その間に、クロスが一歩前に出た。


「……こんなところで何をしている。何が目的だ」


ヴァルザは薄く笑い、短く答えた。


「言ったろう? …世界の矯正だと」


その言葉に、クロスの奥歯が軋む。


あの時と同じ、理解できない理屈。それでも、奴が災厄を撒き散らす現実だけは分かっている。


「……おまえを、俺が止める」


真っ直ぐ告げると、ヴァルザは鼻で笑った。


「止める? どうやってだ?」


挑発的な笑みが、クロスの怒りを煽る。だが、先に口を開いたのはグレイスだった。


「今ここにいるのはおまえ一人か?」


双剣を握る手に力を込めながら問う。


「もしそうなら……この場で、おまえを斬る」


しかし、ヴァルザはまるで愉快そうに嗤った。


「無理だな。……いや、仮にできたとしても、おまえらの負けだ」


「負け?」


フロレアが眉をひそめる。


ヴァルザの目が愉悦に細められる。


「辺境の村が壊滅した責任を……おまえ達が取らなきゃならない、という意味でな」


「コルニ村なら無事だろ。何を言ってる?」


フロレアが問い詰めると、ヴァルザは肩を揺らして笑った。


「そっちはこれからノルヴァンの連中が“片付けて”くれるさ」


その言葉に、グラハムの目が鋭く光った。


「ノルヴァン連邦? あいつらと戦う理由はないはずだ」


「だから…理由を作ってやったんだよ。考えてみろ」


ヴァルザは楽しげに肩をすくめる。


「エルディア側の辺境の村に上位冒険者が集まる。……その直後に、ノルヴァン側の辺境の村が壊滅する。…そんなもの、誰がどう見ても“おまえらの仕業”だとしか思わんだろう?」


その嗤い声に、セリナが小さく息を呑んだ。


「……あなた、そこまでして戦争を起こすつもりなの?」


「フフ、理由を作ってやるだけだ。あとは勝手に燃え広がる」


ヴァルザの言葉に、空気が一層重くなる。

クロスの胸の奥に、冷たい怒りがじわりと広がった。


「……おまえ達、この先の村で何をする気だ?」


その瞬間、ヴァルザの笑みがさらに深まる。


「もう分かるだろ、小僧。あそこが壊滅していれば、責任をなすり付ける先は一つしかないだろう? …街道で繋がる隣国、エルディアだ」


空気が一気に凍り付く。


「ふざけるな!」


グレイスが吼え、言葉よりも早く双剣を振りかざしてヴァルザへ襲いかかった。


だが・・・その刃は虚空を切る。ヴァルザはわずかに体を逸らし、紙一重でかわしていた。


「おっと、危ない危ない……お前たちと遊ぶには、さすがに一人じゃ大変そうだな」


口の端を上げると、ヴァルザは軽く片手を掲げた。


すると、背後の黒い森の奥から、ずるりと影が動く。


「……ッ!?」


クロスたちの視線が一斉に森へ向けられる。


血のように赤黒い肌のブラッドゴブリン、五体。


体躯ニメートルを超える巨人種、漆黒のダークオーガ、六体。


鋭い鎌のような腕を持つ緑褐色の巨大昆虫――デス・マンティス、四体。


漆黒の毛並みを持ち、目が赤く光る狼型魔獣――ブラッドウルフ十五体。


……その総数は三十。


「……っ、流石に多すぎる」


フロレアが顔を顰め、グラハムとバルスも覚悟を決めた顔をした。


ヴァルザはその表情を見て、愉快そうに肩を竦めた。


「まぁ、村を襲ったのが魔物だけなら調べりゃ分かる。……だからな、“拾った人間”にも協力してもらってる。そいつらが動けば、戦争は確実に始まるだろうよ」


「……拾った人間、だと?」


グレイスが睨みつけるが、ヴァルザはそれ以上は語らない。


「おっと、そろそろお時間だ。…この前の遭遇で妨害があると予想してたから、邪魔者対策にはきっちり準備してある。せいぜい足掻け」


最後に不気味な笑みを残し、ヴァルザの姿は黒い森の中に掻き消えた。


残されたのは三十体の魔物たちと、緊張に満ちた六人だけ。


「……くそっ、他のパーティの安否も気になるが、まずはここを切り抜ける!」


グレイスが双剣を構え、仲間たちに号令を飛ばす。


クロスは深く息を吸い込み、全身に魔力を巡らせた。

身体強化と、あの“異質な力”を呼び覚ます覚悟を決める。


「……絶対に、奴らを止める!」


掛け声と同時に、六人は魔物の群れへと飛び込んだ・・・。


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