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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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静寂の村と迫る影

昼過ぎ


セイランとラグスティアから集められた十六人の冒険者たちは、何事もなくコルニ村の外れに到着した。


村は、驚くほど静かだった。


畑では農夫たちが変わらず鍬を振るい、子供たちは土の道を駆け回っている。黒装束の件などまるで無縁のように、村全体には平穏な空気が漂っていた。


どうやら、先行して調査していた冒険者たちは村長以外には情報を伏せていたらしい。


「この人数で一度に村へ入れば、余計な不安を煽るだけだな」


双剣士グレイスが短く息を吐くと、仲間たちに向き直った。


「ここで待っていてくれ。村長への挨拶は私がしてくる。村が混乱しては本末転倒だからな」


そう言って、彼女は一人で村へと歩いていった。



残された十五人は、林の陰に陣取り、即席の円を作って腰を下ろした。


焚き火こそ焚かないが、それぞれが剣や鎧を整えながら、今後の動きについて意見を交わし始める。


 「……これだけ平和なら、本当に何も起こらないんじゃないか?」


セイランの剣士オリヴァーが、手元の剣を弄びながらぼやく。


「そう思うな。子供たちの声まで聞こえる。黒装束なんて影も形もない」


治癒士のリサナも頷く。


アーヴィンが大剣を背に立てかけながら、低く呟いた。


「この平穏が逆に気持ち悪いが……先行組が調べた範囲で痕跡ゼロだってんなら、しばらくは大丈夫かもしれん。」


「……もしかして、本当にこの辺りを諦めて、別の場所に移動したのかもな」


ラグスティアのバルスが豪快に笑う。


「俺たちが来る前に、とんずらしたってオチだろ?」


フロレアが肩をすくめる。


「そうならそうで助かるけど、あの黒装束たちはそんな単純な相手じゃない気がするのよね……」


クロスは黙ってその会話を聞いていた。


(……本当にいなくなったのか? それとも、ただ潜んでいるだけか……?)


村の静けさがかえって不自然に感じられ、剣の柄を握る指先に力がこもった。


そんな思考を巡らせていると、村の方から複数の足音が近づいてきた。

戻ってきたのはグレイスだけではない。ラグスティアから先行していた三組のパーティも一緒だった。



先頭に立つのは、30代半ばほどの精悍な男。斥候職らしい軽装をしている。


「ラグスティアからの増援だそうだな。俺はラドル、三組をまとめている斥候だ。まずはお前たちの到着に感謝する」


ラドルは一歩下がり、同行してきた三組の仲間たちを順に紹介した。




「一組目は…斥候のミーナとミールのいるパーティで、残りは戦斧使いのコルネリオ、槍士のシアン、それに弓師のフェリクス。五人組だ。」


「二組目は…俺が所属する五人組だ。盾使いのガストン、治癒士のヘレナ、短剣使いのオルド、それから弓師のシーファ。」


「最後の三組目は…四人組だ。剣士のロイク、魔法士のファリス、槍士のカレンツ、それに斥候のメリア。」


それぞれの冒険者が軽く頭を下げ、ラグスティアとセイランから来た仲間たちと視線を交わす。空気はやや緊張していたが、すぐに情報共有に移った。



「報告としては…村から半日の距離には特に異常なし。痕跡もなかった」

ラドルがまとめて言うと、アーヴィンが眉をひそめる。


「……やはり、目撃されたのはこの辺りかもしれんが、もう別の場所へ移ったか」


数人の冒険者がその意見に頷くが、クロスは言葉を挟んだ。


「……本当に、そんな理由で動くか? 俺がヴァルザに会ったのは、ノルヴァン連邦へ通じる小さな街道沿いだ。国境近くに、奴らの目的があるんじゃないかと思う」


グレイスがその言葉を受け、ラドルへ鋭い視線を送る。


「国境側は、調べたのか?」


ラドルもガストンも、視線を交わして首を横に振った。


「いや、そっちはまだだ。俺たちも2日前にこっちに入ったばかりでな。人手が少ない中でやってるんだから、勘弁してくれ。それに加えて森が深い上に獣の数も多く、調査には時間がかかる」


グレイスはしばし黙考し、やがて決断を下した。


「……明日からは、我々六組で国境近くの街道と森を徹底的に調査する。範囲を分担し、必ず痕跡を掴む。クロス、お前は私たちのパーティと行動しろ」


クロスは即座に頷いた。



翌日


十六人は六組に分かれ、森と街道を調査しながら進んだ。


日が高くなるまで、異常は一つも見つからない。

鳥の声と風のざわめきだけが響き、平和な景色に逆に不安が募る。


(……本当に撤収したのか? それとも…)


そのとき。

木々の陰から、聞き覚えのある冷たい声が響いた。


「……また会ったな、坊主」


振り向くと、漆黒の装束を纏った男が立っていた。


ヴァルザ


クロスの背筋が硬直し、剣の柄を握る手に力がこもる。


あの死闘の記憶が一気によみがえり、空気が張り詰めた。


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