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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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黒装束の影を測る

コルニ村へ続く街道は、森と丘陵を縫うように伸びている。


夏の終わりの湿った風が、木々を揺らし、時折虫の羽音が混じった。


総勢十六名・・・ラグスティア支部の4級パーティ五人に、クロス。


セイラン支部から駆けつけた、4級パーティ五人と5級パーティ五人。


十六名は二列になりながらも、小さな集団ごとに別れて歩いていた。


しばしの沈黙を破ったのは、セイランの5級パーティに属する弓師、レオだった。


「なあ……実際のところ、どんな奴なんだ? その黒装束ってのは」


視線が自然とクロスとフロレアに集まる。

二人だけが、実際に剣を交えた経験を持っていた。


フロレアが少し間を置いて口を開いた。


「……速いわね。近接なら、私じゃまず勝てないかな。けど、距離を取って撃つ分には、私の方が有利ね。単独で見れば……4級と同等、もしくはわずかに劣るくらいだと思う」


「4級に迫る実力、か……」


セイランの4級剣士のアーヴィンが低く唸る。


同じパーティのオリヴァーも眉をひそめた。


「確認できてるのは、そいつともう一人の二人しかいないんだろう? それでこの戦力を集める必要があるか?」


その疑問に答えたのは、グレイスだった。


「黒装束が脅威なのは、剣の腕前だけじゃない。奴らは“魔物を使う”」


フロレアが頷き、続ける。


「フロッグシェードに魔法を使わせた。あれは本来、そんな知能も魔力量も持たない魔物よ。それに、ブラッドゴブリンまで……私たちの常識や知識の範疇を超えてる」


「フロッグシェードに魔法だと?」


土と水を操る魔法使いナリアが信じられないという顔をした。


「ありえないわ。あれは弱いけど、7級までの冒険者たちには、毒で十分厄介なのに……魔法まで使われたら、ただの群れでも壊滅する」


「……だからこそ、だ」


バルスが腕を組み、豪快な声で笑った。


「黒装束本体よりも、群れの対処が肝心ってことだろう。俺はゴブリンの大群もフロッグシェードも相手したことあるが、どっちも油断した奴から死んでいく。剣の腕が立っても、数を侮れば終わる」


「つまり、今回の規模は“過剰”ではないということね」


セイラン5級剣士のヴィオラが小さく笑った。


「二人が4級の実力でも、魔物の群れを抱えた状態なら話は別。十六名でも足りない可能性すらある」


しかし、その一方でセイラン側の斥候サーシャは、まだ納得がいかない様子で腕を組んでいる。


「……でも、黒装束の力って、あくまで二人と魔物でしょ? わざわざセイランの4級と5級まで動かすほどか?」


それに答えたのはクロスだった。

彼は少し間を置き、低く言う。


「……ヴァルザの剣は、俺には一方的だった。だが、あれは“ただの剣士”じゃない。奴の動きの裏には、説明できない違和感がある。魔物を操るだけじゃなく、何か別の……見えない力を持っているように感じた」


その言葉に、一瞬沈黙が走る。


グラハムが腕を組んだまま、ぼそりと呟く。


「……おそらく、奴らは単なる魔物使いじゃない。“何らか”の力を持ってるんだろ。うちのギルマスが俺たちを動かした理由はそこだろう」


セイランの面々は顔を見合わせた。


アーヴィンは重い声で締めくくる。


「……要は、“過剰”じゃなく“必要最低限”ってことか。黒装束二人と、魔物の群れ、そしてその裏にある何か。すべてを想定して動くしかないな」


「……俺は、あいつと決着をつけるためにここにいる。何をしようと、逃げるつもりはない」


その言葉に、サーシャがちらりと横目でクロスを見るが、口をつぐんだままだった。

ヴィオラだけが小さく笑う。


「言うじゃない。じゃあ・・・明日からは、本当にその覚悟を見せてもらうわよ」



夕方。


野営地に到着し、野営の準備を整えた。

焚き火の灯が揺れ、夜風が葉を揺らす中、隊列の中心に各パーティのリーダーが集まり、簡単な作戦会議が開かれた。


グレイスが地面に棒で簡単な地図を描きながら言う。


「明日、コルニ村まで半日。村までは一本道だが、森が深い。斥候はサーシャとカレンに前衛を任せる。後衛は治癒士のリサナとセリナ、それに魔法使いのナリアとグラハム。両翼を弓のレオとフロレアが固める」


「前衛は?」


セイランの5級剣士ノーラが問うと、アーヴィンは即答する。


「俺とヴィオラを軸に、バルスとクロスを左右に置く。スレインは障壁で後衛を守り、危険時は即座に下がれ」


「了解した」


ヴィオラが軽く頷く。


バルスが豪快に笑い、クロスの肩を叩いた。


「おい坊主、明日は前に出るぞ。足引っ張るなよ!」


クロスは小さく息を吐き、視線を上げる。


「……足を引っ張る気はない。自分のことは自分でやる」


その言葉に、ヴィオラが再び口角を上げた。


「言ったな。なら、証明しなさいよ」


作戦会議は短く終わり、それぞれが休息の準備を始めた。


クロスは焚き火の灯を見つめながら、静かに剣を握りしめる。


明日、コルニ村で待ち受けるものが何であれ・・・もう、後戻りはできない。

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