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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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迫る出発の刻

朝の光がラグスティアの町並みに差し込む頃、クロスはギルドの扉を押し開けた。


「クロスさん、おはようございます」


カウンターの横にいたセラが顔を上げて微笑んだ。彼女の表情には、少しだけ気まずさと安堵が入り混じっているように見える。


「ジークさんたち、先日のこと……ちゃんと反省していました。特にジークさんは、自分が情けなかったって」


「そうか。……あいつらしいな」


クロスは頷いた後、少しだけ視線を落として言葉を続ける。


「……それで、俺なんだけど。グレイスさんたちと一緒に、ギルドの命令でコルニ村に行くことになった」


「えっ、何故!? なんでクロスさんが!?」


驚いたようにセラが一歩前に出る。だがクロスは肩を竦めて、少し曖昧な笑みを浮かべた。


「俺にもよく分からない。でも……あの黒装束の奴らが、もしかしたら俺との決着のために出てくるかもしれないって……」


「……それって、囮ってことじゃないんですか……?」


「……かもな」


短く、だが確信をもってクロスは答えた。セラは何か言いかけたが、口を閉じ、眉を寄せて彼を見つめる。


「それでも、行かなきゃいけないと思ってるんだ」


その時、扉が開き、グレイスが姿を現した。クロスはセラに向き直り、小さく笑って言った。


「……じゃあ、今日は少し予定があるからこれで」


「……はい」


セラの不安げな声を背に、クロスはグレイスの隣に並んだ。


「……いいのかい?あの子、あんたのこと本当に心配してるわよ」


グレイスが尋ねる。


「今は……時間がないですから。帰ってきたら、ちゃんと話します」


その言葉にグレイスは頷き、二人は訓練のため、町の外れに向かった。



昨日と同じように、微かな風の音だけが周囲を満たしていた。


「……今日はどこまでできるかしらね」


グレイスが腕を組みながら言った。


「できるようになりたいです。明日、出発かもしれないんで」


「その覚悟、嫌いじゃないわ」


そう言ったあと、グレイスはクロスに向き合って話した。


「さて、昨日の続き。今日も魔力コントロールによる身体強化の訓練よ」


「よろしくお願いします」


クロスは真剣な顔で頷いた。



訓練は始まったものの、魔力を「溜める」という感覚は、やはり容易には掴めなかった。


「グレイスさん、毎回思うんですけど、『溜める』って……どういうことなんですか?流すのはわかるんですけど、溜めたら流れないですよね?」


「うーん、説明が難しいのよね……。水を流して、それを一部の場所で堰き止める……みたいな。だけど、それを身体の中で魔力でやる感じって言えばいいかしら?」


「……堰き止めたら、その先に行くほど流せる魔力減りますよね?……あまりにも概念的すぎて……」


クロスは頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。


「最初はみんな分からない。でも、考え続ければいつか分かる。焦る気持ちは分かるけど、じっくり、ね」


「……分かりました」


クロスは深く息を吐き、再び集中する。午前が過ぎ、午後も同じように訓練は続いた。しかし成果は上がらない。


(何が足りないんだ……?)


そんな時、ふと思い出す。


(……流すのが電気で、溜めるのが充電、みたいな……)


現代日本にいた時の記憶がふと思い出された。


「……それだ!」


クロスは目を開いた。


(流れる魔力を、電気みたいに考えて……『充電』する感じで、『溜める』……!)


魔力を電気のようなものと仮定して、身体の中に五つの「充電ボックス」を作るイメージを抱いた。


両腕、両脚、そして胴体。そこに魔力を流し、溜める。


10%くらい、軽く充電するイメージをする。魔力を巡らせ、5カ所に少しづつ溜めながら流すように集中する。すると、確かに身体の内側に圧がかかるような、異なる感覚があった。


「……できたかも」


クロスが呟くと、グレイスが目を見開いた。


「ほんとに……あんたって子は。もう、驚くのに慣れちゃったわよ」


呆れたように笑いながら、彼女は言った。


「じゃあ、試してみせて。軽く動いてみなさい」


クロスはグレイスの背後に回り込む動作を試みた。すると――


「うわっ……!」


思った以上の速度で身体が反応しきれず、バランスを崩して転倒する。土の上に背中を打ちつけ、恥ずかしそうに顔をしかめた。


「ふふっ、最初はみんなそうなるのよ。クロスも例外じゃなかったのが、ちょっと安心したわ」


「どうすれば制御できるんですか?」


「慣れよ」


即答だった。


「……ですよね」



日が傾き始めるころ、クロスはぽつりと尋ねた。


「……明日、出発するんですよね?」


「……それがね、ちょっと怪しいの」


グレイスの顔がわずかに曇る。


「セイランからの連絡がまだ無いの。誰を派遣するのか調整中みたいなのよ」


「その場合は?」


「こっちからは既に斥候職のいるパーティが4組出てるし、私たち4級の5人がいれば基本的には問題ない。でも……万が一のために応援要請したから、セイランから4級パーティが一組来るか、5級以下のパーティが複数来ると思ってる。もし、それでも勝てないような相手が来たら……その時はラグスティア総出でも厳しいわね」


クロスは表情を引き締めた。


「……不安には、なりますね」


「大丈夫よ。そんな事態にはならない。たぶんね」


グレイスは軽く笑い、クロスの肩を叩く。


「もし不安なら今日のうちに仲間に話しておきなさい。出発は明後日になる可能性が高いけど、あまり時間は無いわよ」


クロスは少し俯いたが、


「いえ。帰ってきてから話します。今は……目の前の事にに集中したい」


その言葉に、グレイスは穏やかな笑みを浮かべて言った。


「……強いわね、クロスは」


「いえ……ただ、やるしかないだけです」


夕日が二人の影を長く伸ばしていた。


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