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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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すれ違いと決意

翌朝、クロスはギルドの扉をくぐった。いつもと変わらぬ朝の喧騒。しかし、その中に見慣れた顔がなかった。


ジークとテオの姿がない。


受付近くの長椅子に腰掛けていたセラがクロスに気づき、微笑んで立ち上がる。


「おはようございます、クロスさん。……今日は、二人とも来ていません」


「あぁ……そうか」


クロスは視線を落とした。無理もないと思う。あのやり取りの翌日では、顔を合わせづらいだろう。


「……今日は、仕事はやめておきましょう。二人が戻ってくるまで、少し休みにした方がいいかもしれません」


セラの穏やかな提案に、クロスは小さくうなずいた。


「……そうだな。少し訓練してくるよ」


そう言い残し、クロスはギルド裏の訓練所へと足を向けた。



訓練所の隅で、クロスは深く呼吸を整え、静かに瞳を閉じた。


魔力を、意識してゆっくりと体内に巡らせる。


(……問題ない。コントロールは、もう自然にできる)


しかし・・・


(違う。あの時……ヴァルザとの戦いの時の“あれ”とは違う)


ヴァルザの剣が遅く見え、自分の動きが研ぎ澄まされたように感じたあの瞬間。体が自分の意思の先を読んで動いたような感覚。それは、ただ魔力を巡らせるだけでは得られない何かだった。


(極限の集中だったのか、それとも……)


思わずため息が漏れた。


現代日本にいた頃に師範は明鏡止水の境地に立てば、心が静かで澄み切っている状態となり、動揺せずに冷静な判断を下すことができる。


つまり、相手の動きはすべて見切り、こちらの攻撃は相手の虚を突くと冗談のように話していた事を思い出す。


あの領域に、自分はもう一度辿り着けるのだろうか。


「……グレイスさんに聞きたい。けど……いつ、会えるんだろう……」


ふと、昨日のジークとテオの言葉が脳裏に浮かんだ。


「特別だと思ってるんだろ、お前……」


(違う……違うのに……)


クロスは拳を握る。


自分はただ、目の前の壁を超えたくて、努力をしてきただけだ。


訓練は苦しくて、でも、それを乗り越える先にしか生き延びる道はない。


それだけだった。


(……けど、もし彼らにとって“違う存在”に見えるのなら……)


もしかしたら・・・


この町を、離れる日が来るのかもしれない。


セイランの街にいる恩人の商人、マルコ。

あの人に会いに行く日が、近づいている気がしていた。



翌日。


ギルドに入ると、受付のセリアが小走りに近づいてきた。


「クロスさん、ギルドマスターが……あなたを、呼んでいます」


「……俺を?」


頷くセリアの案内でギルド奥の執務室へと向かうと、重々しい空気がそこにはあった。


ヴォルグとミレーナの他に、見知らぬ冒険者たちが五人、室内に立っていた。


「入ってくれ。お前に会わせたい連中がいる」


ヴォルグの声に促され、クロスは部屋へと足を踏み入れた。


「知ってる顔もあるだろうが、一応紹介する。全員、ラグスティアの4級冒険者たちだ」


ヴォルグが順に手を向ける。


「まず、グレイス。双剣の使い手。そしてフロレア。風魔法と弓を扱う」


二人には既に面識があった。クロスは軽く頭を下げる。


「こっちの大男はバルス。斧と盾を武器にしてる」


その紹介に、バルスが豪快に笑った。


「ははっ! お前、ダリオの一件のとき、ぶちかましてたな? 遠目で見てたが、なかなか面白かったぜ!」


「あ、ありがとうございます……」


「それと、セリナ。治癒魔法の使い手だ」


セリナはふわりと微笑んで言った。


「先日までアミナ村に行ってましたから、ベルダ村のサラさんとハナさんに、あなたの話を聞きました。お二人とも、あなたをとても誇らしそうに語っていましたよ」


その言葉に、クロスは胸が熱くなるのを感じた。


「そして最後が……グラハム。火属性の魔法士だ」


グラハムは一歩も動かず、目線だけをクロスに向けた。


無言の圧力。まるで眼差しそのものが刃のようだった。


クロスは応えるように黙礼した。


「さて……」


ヴォルグの声が再び響く。


「今回は“黒装束”の件について、あらためて確認したい。クロス、もう一度、経緯を語ってくれ」


クロスは短くうなずき、ヴァルザとの戦闘、そして“アグナス”という名の男が現れヴァルザを連れて行ったことを話す。


「“仕事中”と言っていました。あの場所で何かしているのは、間違いありません」


語り終えると、真っ先にグラハムが口を開いた。


「……だったら、上位の俺たちで対応すべきだ」


フロレアも、小さく頷く。


「確かに……これは危険な任務になるでしょうし」


セリナとバルスも無言ながら視線を交わした。


しかし、ヴォルグは断固として首を横に振った。


「クロスにも、同行してもらう」


グラハムの眉が吊り上がった。


「お守り付きで任務に行けってのか?」


「そうは言っていない。だが、クロスは唯一、黒装束と戦って生き延びた。やつらの動きを読める可能性がある」


「……クロスを囮にするつもりですか?」


声を荒げたのはグレイスだった。


「彼はまだ若い。無茶をさせるわけにはいかない」


「囮にする気はない。だが、経験を持つ者の感覚は、情報以上の価値がある」


「しかし、本人の意思はどうなるのです」


「どうする、クロス」


ヴォルグはクロスに問いかける。

クロスは迷いの無い目でヴォルグに答える


「……参加します」


その答えに、グレイスは口を閉じたが、その目には納得の色はない。


グラハムは肩をすくめ、皮肉気に吐き捨てる。


「好きにしろ。俺は命令には従う。だが、足を引っ張るなら……容赦はしない」


クロスは、静かに頷いた。


恐怖も、不安もあった。

けれど、それ以上に・・・


(俺がここにいる意味は、もう分かってる)


自分がやるべきこと。

そのために、全てを積み重ねてきたのだと。


拳を握ったその手には、迷いはなかった。

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