表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
112/210

揺らぐ絆、確固たる意志

柔らかな光が差し込む窓辺。

重く、乾いた瞼を持ち上げると、そこには見知らぬ天井があった。


(……どこだ、ここは)


意識が戻ったその瞬間、ベッドに身を沈めたクロスの体は、まるで岩のように重かった。けれど、苦しさはない。ただ、ひどく疲れているだけだと分かった。


「……っ、クロス……!」


かすかに声がしたと思った次の瞬間、勢いよく誰かに抱きつかれる。


「クロス……! よかった……本当によかった……!」


震える声で泣きじゃくるのはセラだった。顔をクロスの胸に押しつけ、小さな肩が何度も揺れていた。


クロスは、ようやく事態を少しずつ飲み込む。


「……セラ? ここは……」


「コ、コルニ村の宿屋です……あなたが……目を覚まして……本当に……!」


セラは顔を真っ赤に染めながら、涙でぐしゃぐしゃになった瞳でクロスを見上げる。


「俺、ここに……どうして?」


セラは、鼻をすすりながらも静かに話し始めた。


「……あなたと別れて、私たちは急いでコルニ村に戻りました。でも……時間が経っても、あなたが戻ってこなくて。……それで、3人で、もう一度……様子を見に戻ったんです」


セラの声が震える。


「道の途中で……倒れていたあなたを見つけました。血だらけで……でも、息はあった……それで……!」


そこまで言って、セラは言葉に詰まり、再びクロスの胸に顔を埋める。


「……ありがとう。助けてくれて」


「ううん……当然のことです。あなたは、私たちの……仲間ですから」


少しして、ドアがノックされ、ジークとテオが部屋に入ってきた。ジークの目は真っ赤で、テオはクロスと目を合わせられないようだった。


「……よかった……生きてて……!」


ジークが声を上げたかと思えば、次の瞬間には泣きながらクロスのベッドに突っ伏した。


「クロス……ごめん……! 俺……怖くて、何も……!」


「……俺も、すまない……」


テオの声はかすれていた。拳を握りしめ、ただ、ひたすらに下を向いていた。


クロスは二人の姿を見て、ゆっくり首を振った。


「謝るなよ。あれが……一番、みんなが助かる方法だった。俺が選んだんだ。だから、気にするな」


ジークとテオは顔を上げ、クロスのその言葉を受け止めるようにしばらく黙っていた。


空気が重くなりかけたとき、セラが静かに口を開いた。


「……黒装束は、どうなったのですか?」


クロスは一瞬、目を伏せ、それから言った。


「あと一歩だった。でも……逃げられた」


三人の目が驚きに見開かれる。


「……それ、本当か?」


「信じられねぇ……」


クロスは苦笑を浮かべ、話を切り上げるように言った。


「詳しいことは、ラグスティアに戻ってギルドに報告するときに話すよ」


セラは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに頷いた。グレイスとの約束を、クロスが守っていることを理解しているのだろう。


「あなたの傷……治癒魔法である程度は回復しています。副作用はある程度はあると思いますが……」


クロスは頷き、体を起こそうとする。


「じゃあ、もうラグスティアに戻ろう。奴らが“仕事中”って言ってた。時間は……あまり残されていないかもしれない」


セラは不安げに見つめていたが、すぐに納得したように目を閉じた。


「……分かりました。ですが、せめて食事は摂ってからにしましょう」


クロスは思わず笑みをこぼす。


「そう言われると……腹減ったかも」


昼過ぎ、クロスたちはコルニ村を発ち、野営地で一泊してラグスティアへと戻った。



ギルドに到着すると、まずは魔物の討伐報告を済ませ、セラが受付のセリアに声をかけた。


「すみません、大至急ギルマスターにお会いしたいのです」


セリアは戸惑った表情を浮かべたが、クロスが「黒装束の件です」と言った瞬間、その顔が変わる。


「……すぐ確認してまいります!」


慌てて奥に駆けていくセリア。その数分後、戻ってきた彼女に案内されてギルマスターの執務室に入ると、そこにはヴォルグの姿があった。


「……ミレーナもすぐに来る。そこに座れ」


椅子に腰を下ろして間もなく、ドアが開き、ミレーナが現れる。


ヴォルグが改まった口調で切り出した。


「黒装束の件……話してくれ」


セラが前半の流れを説明し、その後をクロスが引き継ぐ。


「討伐後、現れた男は自分を“ヴァルザ”と名乗りました。そして……“アグナス”という男が彼を連れていきました。それで俺は助かったんです。その時に、アグナスは『仕事中だ』と、そう言ってヴァルザを連れて行きました」


報告を聞いたヴォルグは、椅子を蹴るように立ち上がった。


「向こうから……出てきた、だと……!しかも、仕事中ということはあの付近で何かを起こすということか‼︎」


ミレーナも目を見開き、急ぎ準備をとヴォルグに言う。


「4級を今すぐ戻して、5級と6級の斥候職には即時依頼を出す。セイランにも情報を流して応援を頼め。それと、ヴァルザとアグニスの名前は秘密裏に調査させろ!」


「分かりました」


ヴォルグはクロスたちを見て、力強く言った。


「よくやった。褒賞金を出す。下で待っていてくれ」


執務室を後にしたクロスたちは、ギルドのロビーで腰を下ろした。


「……これから、どうなるんだろうな」


ふと、クロスが呟くと、テオがぽつりと答える。


「……クロス、お前は別じゃないのか」


ジークが唇を噛みながら、拳を震わせていた。


「お前だけは、俺たちと違って……黒装束と戦って、傷だらけになって、それでも……。俺たちは……本当は、足手纏いなんじゃないのか……!」


「そんなこと…」


「言わなくても、思ってるだろ!? お前は……俺たちと違う。黒装束と真正面から戦って勝ったんだ。なのに、同じ8級ってだけで並べてる俺たちは、滑稽だよ!」


ジークの言葉には怒りというより、自嘲の色が強かった。


テオも小さく呟く。


「……お前は……もう、俺たちとは違う場所にいる」


クロスは唇を噛んだ。


(違わない……そんなつもりは、なかった)


けれど、彼らの目に映る自分がどう見えているのか、考えたことがなかった。


ジークの叫びは、悔しさと悲しみに満ちていた。

言い終わると、そのままギルドを飛び出していった。


テオも、目を合わせないまま追いかけていく。


その場に残ったのは、クロスとセラだけだった。


「……あの二人、自分を責めてるんです。そして、あなたの背中が遠くなったって感じてる。だからあんなふうにしか……言えないんです」


「俺は……そんなつもりじゃないのに……」


「分かっています。でも、問題は“あなたがどう思っているか”ではなく、“彼らがどう感じてしまったか”です。気にしないでください。あの二人は、きっと分かってくれます」


セラは優しく笑いかけた。


「今日は、私が報奨金を受け取っておきますので。あなたは宿に戻って休んでください。明日、またここに集合しましょう。それまでに……2人とも落ち着いていると思います」


「……ああ、ありがとう。助かるよ」


クロスは立ち上がり、ゆっくりとギルドを後にした。

夕日が差し込む道を歩きながら、心の中で呟いた。


(俺はまだ、何も掴めていない)


(だからこそ……進むしかない)


誰にも、仲間にも、敵にも、そして・・・

自分自身にも、恥じないように。


明日、また歩き出すために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ