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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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死闘

夕焼けの光が、森の木々の隙間から斜めに差し込む。赤い光が土を照らし、そこに立つふたりの男の影を長く伸ばしていた。


「ほう……剣が変わったな、小僧」


ヴァルザがにやりと笑う。その顔に張り付いた仮面のような笑みは、どこまでも冷たい。


「……そうだな。今までとは違う。この剣なら……届く」


クロスは構えを低くし、剣先を静かにヴァルザに向けた。新たに鍛えられた細身の剣は、軽さと鋭さを併せ持ち、手に吸いつくように馴染む。


風が止み、世界が静寂に包まれる。


一拍。


次の瞬間、地面を蹴った二人の剣がぶつかり合った。


ガキッン!


金属が激しく打ち合い、火花が飛ぶ。スピードが違った。以前とは比べ物にならない速さ・・・クロスの剣が、ヴァルザの剣と互角に打ち合っていた。


(ついていける……今の俺ならっ!)


斬撃、踏み込み、打ち払い、逆袈裟。応酬が続く。


しかし、ヴァルザは戦いの中でも余裕を失わない。


「ほう、なかなか良い剣だな」


「……ああ」


「……フッ、惜しいな。それだけの剣を手に入れても、お前では使いこなせない。お前達のせいで、俺たちの計画は一時的に狂った。だが……こうして会えたんだ。礼として、今度こそお前を殺してやるよ」


剣戟が一瞬止まり、間合いが空く。

ヴァルザはいつものようにふわりと後方へ跳躍して距離を取った。


(……やはり)


クロスの目が光る。


さっきから何度も同じだ。仕切り直すたびに、ヴァルザは決まって後方へ下がる。その動作は無意識なのか、ほとんど同じ距離・・・癖だ。


(……仕切り直しの時、毎回後方に下がる!)


読み切った。

何度かの斬撃の応酬の後、クロスはふいに間合いを外し、一歩下がった。


同時に、ヴァルザが後方へ跳んだ――!


「凍てつく氷よ、我が敵を穿て――《アイススパイク》!」


氷の槍が地面から突き上がる。


ヴァルザの足に突き刺さり、氷の破片が飛び散った。


「ぐっ……!」


ヴァルザの顔が初めて苦悶に歪む。

足を捉えた! 今しかない・・・!


クロスは剣を構え、飛びかかった。


「はああっ!」


だが・・・。


「チッ……」


ヴァルザが剣で一閃、足元の氷を砕き、身をひねった。


次の瞬間、腰から取り出した小瓶を砕き、回復薬の光が傷を包む。


「まったく……また同じ手で来るとは、芸がないな」


「……!」


「だが……惜しかったよ。もう一瞬遅れてたら、ヤバかったな」


ヴァルザの動きが、再び加速する。


先ほどまでの斬撃とは比べ物にならない重み。クロスの攻撃を受け流し、逆にカウンターで打ち返す。


クロスの体が弾かれ、地面を滑る。


ヴァルザは、笑った。底冷えするような笑みで。


「だが……気に入った。ここまでやるとは思っていなかったぞ。……だからこそ、そろそろ終わりにしてやる」


次の瞬間。

ヴァルザの剣が唸りを上げた。


(……速いっ! それに……重い!)


一撃一撃がまるで重錘のようだった。

クロスの剣が弾かれ、腕が痺れる。

それでも、必死に耐えた。

だが・・・


「っ!」


左腕に、熱い痛みが走った。

斬られていた。


「……終わりだな」


ヴァルザが言う。


クロスは、息を切らしながら、それでも剣を離さなかった。


体が傾きそうになる。視界が滲む。


(ダメだ……ここで倒れたら、皆が……)


それでも・・・彼の目は、燃えていた。


(俺には……まだ、やれることがある。考えるんだ)


ヴァルザは、またもその目を見て笑った。


「面白い目をするようになった。まるで……諦めていない。まだ何か、隠しているのか?」


クロスは答えない。ただ静かに剣を構えた。


(……違う。あの時と、同じにはしない!)


クロスの脳裏に、グレイスの言葉が蘇る。


・・・“魔力を巡らせろ”


・・・“内から支え、強くする。その一瞬が命を守る”


クロスは剣を構え直す。


「何だ? もう立てないかと思ったが……」


「俺は……まだ負けてない」


魔力を全身に巡らせる。わずかに指先から魔力が脈打つ感覚がある。


震える脚に、力が宿る。


そう、まだ終わってはいない。


彼の体の中には、確かに流れているものがある。


魔力。


グレイスの教え。


そのすべてが、いま一つの刃となって・・・


(・・・絶対に、負けない)


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