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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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決意の剣

あれから・・・1ヶ月。


クロスはその毎日を、ひたすらに鍛錬と仕事に費やしていた。


剣の稽古にギルドから受ける討伐依頼。その合間に魔法の練習。そして夜、眠る前には欠かさず魔力コントロールの訓練。


地味で、果てしない反復。だが、それがクロスの強さの源となっていた。


この日、ギルドに顔を出すと、セラが穏やかな口調で言った。


「今日の仕事、決まりました」


セラがギルドの受付で依頼票を受け取り、いつもの柔らかな声で仲間たちに向けてそう告げた。


「どんな内容だ?」


とジーク。


「コルニ村の先に続く街道沿いに、魔物の出没情報がありました。行商人が何組も足止めをされているそうです。途中の野営地で一泊し、翌日にコルニ村のその先の現場に向かうことになると思います」


「ふーむ、コルニ村ってことは……明日が本番か。ちょうどいいな、仕事には手応えも欲しかったとこだ」


とジークが不敵に笑う。


「体も鈍ってないし、良い肩慣らしになるといいんな」


とテオも軽く笑いながら答えた。


クロスは、その会話を聞きながら無言で頷いた。

鍛錬に明け暮れる毎日の中でも、こうして依頼を受けて現場に出ることでしか得られない感覚がある。

彼の目の奥には、常に黒装束の残像が焼き付いていた。




一行は昼にラグスティアを出発し、日が落ちる頃には目的の街道沿いにある野営地に到着した。焚き火を囲み、簡単な食事を取ったあと、順番に見張りを立てて休息に入る。


クロスは眠りにつく前、膝に剣を置いて目を閉じた。


(……剣は以前とは違い自分にフィットしている。バーグマンの仕事は本物だ)


けれど、それだけで勝てる相手ではない。

奴・・・黒装束と再び相まみえた時、あのままでは到底歯が立たない。


(……でも、今は違う)


グレイスから学んだ魔力の内流。体内を巡る感覚を得た、確かな実感。それがある。


例え一瞬でも、力が引き出せるのなら・・・勝ち目は、ゼロじゃない。




翌朝、野営地を出てさらに1時間半ほどでコルニ村に到着した。コルニ村で確認をし、そこから街道を進んだ先で、複数の荷車と血痕を発見した。


「……これは間違いないですね」とセラが小さくつぶやく。


辺りを見回し、テオが声を上げた。「いたぞ!」


森の中から現れたのは、二足歩行の魔物スラッグウルフ。瘴気をまとった獣のような姿、灰色の体毛に黒い爪。目を血走らせて地を蹴った。


「散開しろ! テオは正面、俺は側面から行く!」


「セラ、補助頼む!」


「了解しました!」


ジークの火弾が放たれ、クロスの剣が魔物のわき腹を狙う。しかし、スラッグウルフは俊敏だった。切り込もうとするクロスを避け、尻尾で薙ぎ払う。ギリギリで躱したが、土埃が舞い上がる。


テオが盾で真正面から受け止める。だが、ただ受けるだけではない。斜めから受け流すようにして、魔物の体勢を崩す。盾の巧妙な角度調整が光る。


「今だクロスッ!」


テオの声に、クロスが跳ぶ。

剣が軌道を描き、魔物の背に傷を刻む。

ジークの火が燃え広がり、セラが追い打ちをかける。


半時間に及ぶ四人の連携で、ついにスラッグウルフは崩れ落ちた。


「ふぅ……これで、依頼は完了かな」


「はい。あとは町に戻って報告を……」


・・・そのときだった。


「……やっぱり、お前だったか」


低く、嗄れたような声が森の奥から響いた。

四人が振り向くと、木陰の中からゆっくりと黒装束の男が歩み出てきた。


「あの時の……!」


ジークの目が見開かれる。


「ふむ……やっぱり見覚えがある顔だと思ったんだ。俺たちの“計画”を邪魔した、小僧ども」


男はゆっくりと歩きながら、口の端を吊り上げる。


「今日はちょうどいい。ここで殺す。俺は借りは返す主義でね」


その瞬間、空気が重くなった。

全身を締めつけるような圧力に、誰もが本能で理解した――この男は、普通の人間じゃない。


「全員でかかれば……!」


とセラが武器を構え直して言いかける。


だが、その言葉にジークが押し黙った。


「……無理だ。前回も、手も足も出なかった……クロスがいなかったら、俺たちは……」


その顔は苦悶に歪み、過去の記憶に縛られていた。


クロスはそれを見て、一歩前に出た。


「俺が残る。お前たちはコルニ村に戻れ」


「でも……!」


「セラ。ジーク。テオ。……頼む」


静かな言葉に、セラは口を噤んだ。


(これ以上、無理をさせたくない。だけど……)


だが、クロスの横顔には迷いがなかった。


クロスは、仲間たちの無事を最優先にした。そして、自分が残ることで黒装束の注意を引きつけようとしている。


(……なら、私たちにできることは)


「……わかりました。でも、絶対に戻ってきてください」


セラが静かに頷き、ジークとテオを引き連れて走り出した。


黒装束の男は笑う。


「ああ、行かせてやる。どうせ、お前が死んだら、あいつらもすぐ後を追うことになるんだかな」


「その前に……お前を倒す」


クロスは、静かに剣を構えた。

体の奥底、熱が渦を巻く。

グレイスの教え・・・魔力を体内に流す感覚・・・それを思い出す。


(……できるかわからない。でも、やるしかない。ここで倒れたら、皆が……)


「来いよ。黒装束」


「……ほう。良い目をするようになったな。小僧。だが、俺は黒装束じゃない。ヴァルザだ」


昼過ぎの森の中、二つの影が交錯した。


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