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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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静かな再会

朝の空気はひんやりとしていたが、歩くたびに体が温まり、心が引き締まっていく。


クロスはセラ、テオ、ジークと共にラグスティアの町を出ていた。昨日からの泊まりがけの依頼――街道沿いに出没する中型魔物の討伐任務だ。


「クロスさん、その剣……やはり見れば見るほど、よく馴染んでいらっしゃいますね」


セラが横に並んで穏やかに話しかけてくる。クロスは剣の柄に手を添え、軽く頷いた。


「まだ使いこなせてるとは言えないけど、前の剣よりも断然扱いやすい。バーグマンさんの腕が確かだったんだろうな」


「俺の盾も悪くない。軽くなったぶん、動きやすくなったよ」


テオが自慢げに新しい盾を掲げて笑うと、ジークがすかさず肩をすくめた。




依頼は順調に終わった。


中型の獣型魔物。集団行動はせず、攻撃も単調だったが油断は禁物だった。テオが盾で防ぎ、ジークの火魔法が牽制を担う。セラはメイスで脇を狙い、クロスが前に出て斬り込む。


(……動けてる。少しずつだけど、確かに前に進めてる)


そんな手応えを胸に、午後――街へと戻った。


クロスはギルドで受けた依頼を終え、3人と別れた後、ふと腰の剣に視線を落とす。この一週間、幾度かの実戦を通して確かな手応えを感じていた。だが、それでも油断はしない。


(ちゃんとメンテに出しておこう)


向かったのは、馴染みの鍛冶屋《炎鉄の槌》。


鍛冶場の奥から、甲高い鉄槌の音と共に、いつものぶっきらぼうな声が響いてきた。


「おう、クロスか。調子はどうだ」


「おかげさまで、剣も俺も、だいぶ馴染んできました。今日はメンテナンスをお願いに」


「ほう、それは結構。見せてみろ」


クロスは腰から剣を外し、慎重に差し出した。バーグマンは受け取ると、光にかざしてじっくりと刃先を確認し、鋼の芯まで透かすような目つきで頷いた。


「前より……歪みが少ねぇな。まさか、剣がいいからってだけじゃねえよな?」


「……どうですかね」


クロスが笑みを浮かべると、バーグマンは豪快に笑った。


「ふん、まぁいい。剣も主も成長してりゃ文句はねぇ。今日は簡単な手入れだけで済みそうだ」


「助かります」


短いながらも、確かな信頼と温かさのあるやりとりだった。



夕刻


クロスはギルドの裏手へと向かった。夕暮れの光が、石畳を朱色に染めている。


そして、彼女はそこにいた。


「……待たせたかしら?」


「いえ……今、来たところです」


夕焼けの中に現れた彼女は、遠目でもわかるほど変わらぬ凛々しさを纏っていた。いつもの黒と赤の双剣を背に、軽やかに歩み寄ってくる。


クロスが礼を込めて頭を下げると、グレイスはその儀礼を遮るように、いきなり彼の両手を取った。


「え……グレイスさん?」


「黙ってて」


クロスが戸惑う間に、グレイスはクロスの手をしっかりと握り締め、目を閉じた。その瞬間――体の奥底に、何かがそっと流れるような感覚が広がる。


(な、なんだ……?)


熱でもない。冷たさでもない。ただ、内側に何かが一瞬だけ触れるような不思議な感覚だった。


しばらくしてグレイスは目を開けると、何事もなかったかのように言った。


「……ちゃんと約束、守ってたみたいね」


「……あれは、いったい?」


「私の魔力を、ほんの少しだけ流したの。魔力コントロールの訓練をしていると、自然と“魔力の通り道”が形になる。約束通り訓練はしてなかったみたいね」


「そんな……」


驚くクロスに、グレイスは口元をわずかに緩めて笑った。


「訓練は、明日から再開する。ただし、私も五日後に次の仕事が入っている。それまでの間、集中してもらうわ」


「……はい」


「疲れてるし、今日はこれで終わり。文句ある?」


「いえ。俺は教えていただく立場です。教える側に従うのが修行です」


即答したクロスに、グレイスは静かに満足そうに頷いた。


「……素直で、よろしい」


「よろしい。じゃあ、明日から再開する。でも――」


グレイスの声が少しだけ、鋭さを増した。


「繰り返しになるけど……この訓練は地道に積むしかないの。魔力コントロールは、才能じゃなくて積み重ね。毎日の意識と、失敗を繰り返しながら“感覚”を掴むもの」


「……はい」


「基礎が、一番大事。それを疎かにする者は、どれだけ才能があっても途中で潰れる。だから、焦らないこと。君には素質がある。でも、速さに囚われてはダメよ」


クロスは、少しだけうつむいてから、顔を上げた。


「……焦らないようにします。自分はまだ、入り口に立っただけだって、忘れません」


その言葉に、グレイスはようやく満足したように微笑んだ。


「……そう。それなら、明日の夕刻。またここで」


「……はい。明日、また」


静かに別れを告げて、クロスは踵を返した。


日が完全に沈み、街灯に火が灯り始める頃。クロスの足取りは、先ほどよりも少しだけ、軽くなっていた。

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