目指す覚悟
なんとか100話まで来ました。
読みに来てくださっている事も
モチベーションになっています。
今後も時間がある時に
読みに来ていただければと思います。
グレイスとの訓練は明日の夕刻からだ。
そう約束を交わし、クロスは彼女の背中を見送った。
ギルド内の食堂に入ると、すでにテオとジーク、そしてセラがテーブル席に集まっていた。
「遅いよ、クロス!」
とジークが声を上げる。
「ごめん。ちょっと話が長引いて」
ギルドの食堂に集まった四人は、温かい食事と柔らかな灯りのもと、久々に肩の力を抜いたような空気を纏っていた。
「俺の剣、完成まで三日かかるって言われた。持ってる素材使って、それくらいはかかるってさ」
クロスは椅子にもたれながら言った。
「オーダーメイドですからね。妥協がない分、完成が楽しみですね」
セラが笑みを浮かべて言い、テオがすぐに続いた。
「俺の盾も二日はかかるってさ。今度のは軽いけど、強度がちゃんとしてるやつ。あの親父さん、ホントは良い職人なんだなって思った」
「じゃあ、しばらくは訓練と休養ってわけか。俺は……取り敢えず走るのとイグス教官と魔法の訓練だな」
ジークが食事をする手を止めてぼやいた。
「しっかり走れてるのか?」
テオが真面目に走ってるのか揶揄うように聞く。
「この前みたいに中型でもデカくてヤバかったからな。逃げ足は鍛えないとって本気で思った。それても……クロスの剣、どんな感じになるんだ? 気になるわ」
ジークがクロスに目を向けると、クロスは少し考え込むように答えた。
「今までより少し細身になる。でも、魔物の素材使ってるから耐久力は今までのより上がるって、武器屋の親父さんが言ってた」
「ランページベアの牙と爪、だろ?」
「ああ、あの太い牙と分厚い爪。それを素材に混ぜてもらう。強くて軽くて、扱いやすい一本になるはずなんだ」
「ほー……やるじゃん」
ジークが感心したように頷く。
「でも、蓄えが吹っ飛んだよ。マジで」
クロスが少し自嘲気味に笑うと、ジークは豪快に笑い声を上げた。
「ははっ、やっぱりか! そりゃ、オーダーメイドは高いよな!」
テオも苦笑して言った。
「俺も素材分を引いてもらったから何とか間に合ったけど……素材なかったらキツかったと思う。骨、買い取ってもらえて助かったよ」
「それが冒険者ってもんですよ」
セラが微笑みながら言うと、ふと真顔になってクロスに視線を向けた。
「……もし、資金が足りないなら、お金、貸しますか?」
一瞬の静寂のあと、クロスは苦笑いを浮かべて答えた。
「ありがとう。でも、今はどうにかなる。やばくなったら、そのとき相談するよ」
「はい、遠慮なくどうぞ」
会話の輪は温かく、ささやかな信頼が交差する夜だった。
翌日。クロスは早朝からギルドに顔を出し、剣の素振りに励んでいた。
(夕方には、グレイスさんから魔力コントロールの指導か……)
胸の奥にわずかな高揚と緊張が渦巻く。昨夜の誓いを胸に、クロスは剣を振り続ける。
昼食後には町の外れに出て、氷魔法の訓練にも取り組んだ。だが、魔力を使いすぎると夕方の訓練に差し障ると思い、無理はせず切り上げてギルドに戻る。
そして、夕刻。
人気のない訓練所の裏手。日が傾き始めた空の下に、クロスは静かに立っていた。
「来たね」
低く、凛とした声が聞こえた。
グレイスが現れる。闘志を内に秘めたような瞳でクロスを見つめていた。
「……本当に、学ぶ覚悟はある?」
「はい。お願いします」
クロスの声には一片の迷いもなかった。グレイスは少し黙り込み、そして問いかけた。
「強くなってどうするつもり?」
クロスは目を伏せ、一呼吸置いてから答える。
「……黒装束の件、グレイスさんも聞いてると思います。あいつらがまた動き出したら、被害を受けるのは、剣も魔法も使えない人たちです。……俺の、大切な人たちも」
それは、初めて言葉にする本音だった。
「……守りたいんです。誰かが傷つく前に。だから、強くなりたい」
グレイスの表情がわずかに和らぐ。
「……いい目だ。なら、私が師匠になってあげよう」
クロスの目が見開かれる。
「ただし、私が町にいる時だけだ。いない時は、私が指示した訓練以外は絶対にやらないこと。それと、私に師事していることは口外無用。守れないなら、ここで帰って」
グレイスの声音には、決して冗談ではない厳しさがあった。
クロスはすぐに頷く。
「もちろん、守ります」
グレイスはにやりと笑い、クロスの額を指で弾いた。
「よし、じゃあ始めようか。まずは体内の“魔力の流れを感じる”ってことからだ……」
夕暮れの中、クロスにとってこの世界に来てから「第二の修行」が始まった。
誰にも知られることのない、小さな誓いと覚悟を胸に。




