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コミュ障なハイスペック魔術師と王太子殿下


王立学園にはリリアンらの通うハイスクールの学舎の他にカレッジがあり、カレッジ内には研究棟と研究発表の為の大講堂がある。

ハイスクールから進学する者はカレッジへ、カレッジでの履修を終え、更に専門性の高い分野を学び研究する意志のある、優秀な者のみが試験を経て研究者となることができる。


──研究棟の角にある広い一室。

そこには魔術師がいる。


「やあ、男爵」

「……またいらしてたんですか」


ベネディクト・タッチェル。

男爵であり博士。この部屋の主である。


彼は無断で部屋にのさばり、待ち構えていた男を見て眉間の皺を深めた。


「おや、つれないな。 『博士』の方が?」

「僕は魔術師です。 仰々しい称号など不要だ」


この国で『博士』とは、研究の功績が認められ爵位を得た者にのみ許された誉ある称号であるが、偏屈な彼には煩わしいだけの様子。





ベネディクト・タッチェルが、魔術師としての能力を高く買われ授爵したのは割と最近のこと。

まだ若干22という年齢を鑑みても超ハイスペックと言っていいが、彼の魔力量自体はそう多くなかった。全て、美しく計算しつくされた斬新な術式による。

現在の豊富な彼の魔力も、左半身に自ら刻んだという刺青のような術式のおかげだ。


魔力もそうだが、彼の経歴と存在はかなりの異例で異質。


元々ウィンザー伯爵子息だったベネディクトは、飛び級制度を利用し半年でハイスクール卒業認定に合格した。

学生ながらも正しい成人年齢のまま成人となり、自らその籍を抜け平民となっている。

そこに彼と伯爵家との確執があることは想像に難くない。


ベネディクトの功績は事実だが、2つ歳上の──二人が出会ったハイスクール時代は第一王子であった──カルヴィン王太子殿下に気に入られたことも大きい。平民となったベネディクトは、殿下御自らに姓を賜ったとか。


そのカルヴィン王太子殿下こそ、ベネディクトの目の前の男。


不遜な態度が許されていることでもわかるように、身分差はあれどふたりの仲は良い。

監査でもない限り、本来ならば個人の研究室というものは許可証ナシに出入りはできないが、カルヴィンはベネディクトに許可証と鍵の複製を貰っている。


ちなみに許可証は魔導具であり鍵の役割もするので安心の二重防犯だが、ベネディクトはちょいちょい鍵を閉め忘れる。





「また厄介事ですか、それともお暇で?」

「心外だな。 公務は恙無く進めているが、そんなに暇な身に見えるかい? 君を心配して来たんじゃないか」


ベネディクトは魔法陣を使い、自宅から王立学園研究棟内にあるこの部屋……自らの研究室へ出勤(・・)している。

時間は自由であり、特に決まっていないので常に会えるワケでもないだけに、行動が把握されていることが窺える。

特に構わない筈のそれが、急に不快になったのには理由があった。


「ネッド……釣書の山が全く減ってないようだけど?」


カルヴィンの『心配』はコレである。

『やっぱり暇だろ』とベネディクトは思いながら、隈だらけの目を苦々しく歪める。


「あ、今『暇だな』って思った~?」

「おわかりになられましたか~」


ふたりは冗談めかして互いに声を出して笑い合うも、それは非常に乾いたモノ。


「──なわけない!」


最終的にカルヴィンは応接用のローテーブルをバンッと叩いた。


「これから先、私には君が必要不可欠だ。 傍に置くのに近々陞爵させるつもりでいる。 議会にかけるのに妙な横槍が入る前に身を固めて貰いたい」

「……勝手な都合だ」

「そうだよ。 だから好きな相手を娶れるチャンスを与えられるのは今の内だけだ」

「僕は誰とも結婚などしない。 陞爵はまだ議会にかけず、この研究結果が出るまで引き延ばせばいい」


ベネディクトの偏屈さはある意味で研究者らしい実力主義のコミュ障であり、彼は基本的に社交をしない。

それ故に派閥やコミュニティの力を舐めているところがある。


ついでに見た目への卑屈さから、『誰も自分を義理の息子や夫にしようなどとは思わないに違いない』と信じて疑わないのだ。


「高位貴族がしゃしゃり出れば先に王命が降る可能性もある。 それに、」


確かに王太子の大事な手駒としての都合は大きいが、王命が降れば選ぶどころか拒むことは許されない。

そしてカルヴィンは、


「管理してくれる人が君に必要だという自覚は?」


友人として、純粋にベネディクトの身体を心配してもいた。


常にあるベネディクトの問題として、彼は食への興味関心が非常に薄く、研究に没頭すると寝食を忘れてしまう点が挙げられる。


そこまではそれなりに聞く話だが、厄介なのは彼がとても偏屈で気難しく、人嫌いなこと。

特定の人間以外寄せ付けないので、本当に一切の飲食をせず死にかけたりしても気付けない可能性が充分に(・・・)ある。

事実、そういうことが過去にもあった。


「自己管理くらいできる!」

「ウッカリ死にかけた奴に言えたことか! 大体君、ちゃんと食ってるの?! また痩せたんじゃない?!」


カルヴィンはそんなベネディクトに「一日一食でもいいから!」と必ず食事を摂るよう口を酸っぱくして言っているが……怪しい。


気の置けない仲だからこそ、腹を割って話し過ぎた二人の意見は全く合わずに口論となり、最終的にベネディクトがコミュ障を如何なく発揮。


「もう帰る!」


と子供のようにプンスコしながら一言だけ残し、来たばかりの魔法陣から早々にお家に帰ってしまったのである。





「全く……」


王太子(カルヴィン)はベネディクトが帰った方を見て、ひとり溜息を吐いた。


「あれっ、先生もう帰っちゃったんですか?」


そこにお茶の用意をして現れたのは、ニコラス・ハミルトンという青年である。

年齢はベネディクトと同じで、22歳。


ニコラスは人懐っこい性格に、図太く強靭なメンタルを持つ男。

彼は周囲の評判など一切気にすることなくベネディクトに近付き、気難しい彼の懐に上手く入り込んで信頼を勝ち取っている。


彼も飛び級しており、昨年からは研究者として日々自身の研究に勤しんでいるものの、ベネディクトとは少し分野が異なる。

協力し合うこともしばしばで、今行っている薬の研究開発はそのひとつだ。


彼はベネディクトの信頼のおける研究仲間であり、数少ない友人でもある。

ニコラスも同様に思ってはいるが、同時に彼にとってベネディクトは魔術分野における師でもあった。

それだけに、ベネディクトの身辺をカルヴィンとはまたやや違う意味で憂いていた。


「いやー殿下、私も全く同意ですよ。 大体にして『なんで私がお茶を運んでんのか』って話じゃないですか」


ニコラス自身が気を利かせただけのことではあるが、流石に王太子殿下が来てスルーというわけにもいかない。


通常は秘書なり助手なりがすることだ。

ただ、ベネディクトが人を雇いたがらない。


「そりゃあ任意ですけど、そもそも資料や書類がちゃんと纏めてあれば私だってずっと他人の研究室になどおりませんからね! 婚約者でもメイドでもいいんで、なんとかして欲しいですよ!」


コレだ。

師と仰ぎ世話になっただけに放ってはおけないが、同じ研究者としては割と迷惑。


ベネディクトが鍵を開けっ放しにしがちなのは、許可証だけ持っているニコラスの為でもあるが、気の利かせどころが違う。

まず書類整理をしといてほしい。


「【秘書兼助手(雑務)募集】の求人はかけてなかったっけ?」

「先生が男限定にしちゃうんで、なかなか。 気難しいのが有名なのもありますが、募集要項まで見るとほぼ雑務なんで……」


なにぶん貴族が多く通う学園である。

子息ともなるとプライドが高く、他人の雑務を自分でやりたがらない。特に掃除や片付け。

また、研究者になりたい者が彼に師事する為に就くにも、微妙な仕事……ベネディクトを崇拝する男子学生の多くが、コミュ障の研究者肌なのが悪く作用していた。

彼等は逆に『ただの雑務は兎も角、秘書的雑務もとなると、他者との接触が多く尻込みする』らしかった。


「先生はなにげにその辺、卒がないですから……」

「苦手なのは間違いないが、会話ができないとかでもないしな」



──ちなみにベネディクトのコミュ障は、『馴染みのない人や知らない親切な人には、緊張と疑いから気の利いたことを言おうとするも上手く言えず、ぶっきらぼうになったり黙ってしまう為に、不機嫌と思われるタイプ』のコミュ障である。


気の利いた会話は無理でも、男女関係なく会話はできる。ただし、割と事務的。


根幹の原因が緊張と疑いによるものだけに、相手があからさまに敵意をむき出しにしていたり、喧嘩腰だったり嫌味を浴びせてくる場合にはスムーズな対応が可能になる。

その為、非常に誤解を受けやすい。


損な性質ではあるが、きちんと信頼関係を結べた数少ない人間の大半は、後者パターンのスタートであるのがなんとも皮肉なところ。

腹を割って話すことで相互理解が深まることは確かにあるにせよ、相手もベネディクトも世渡りは下手だと思われる。


それはさておき。


「──ご馳走様」


一通りそれぞれベネディクトへの愚痴を言い合い、多少スッキリしたところでカルヴィンが立ち上がった。


「お帰りに? 今護衛に馬車を……」

「いや、大丈夫。 『暇じゃない』とネッドには言ったけど今日は久々に余裕があってね。 折角だから弟でも構ってくるよ」


弟とは、勿論ジェイド第二王子殿下。





──リリアンが第二王子に『曲がり角ドン』をやらかしてしまったのは、丁度その頃のこと。


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