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一年前の婚約白紙宣言


──リリアンは追い込まれていた。






婚約……というか、結婚をしてくれそうな相手を『自ら捕まえてきなさい♡』と、入らされた王立学園も早二年。

リリアンは17歳となっていた。


この国での成人は16歳。

だが通常の貴族子女子息のように、親の庇護・養育により王立学園に入学した場合、学園を出てからが成人扱いとなる。


母からは『卒業までに身の振り方を考えなさいね♪』と言われていた。


そこだけ抜粋すると至極常識的だが、生憎のところリリアンの母であるフォンティーヌという女はそんなマトモな存在ではないと、身に染み込まされている。

おそらくは、事実上の縁切りリミット。


つまりリリアンは卒業しても帰る家などないのだけれど……追い込まれている理由はそれではない。

彼女が追い込まれている理由、それはつい最近、母から届いた手紙の内容にある。



『卒業までに相手が見つからないなら、嫁ぎ先か就職先をこちらで用意しておくわね♡』



たったこれだけが書かれた手紙。


「──ひぇっ!?」


しかしリリアンは総毛立ち、叫びを漏らしながら思わず手紙を投げていた。


──フォンティーヌが碌でもないことは前述の通り。


なのでコレがなにを意味するかなど説明するまでもないかもしれないが、おそらくは『好色変態爺の元に嫁ぐ』or『娼館へGO』。


そこまで酷くなくとも、それに近い程度には酷い二択を迫られること間違いなし……と、本能が告げている。

なにしろ総毛立つとか、早々ない。


(やばいやばいやばいやばい……!!)


リリアンには『あとまだ一年ある』などとは到底思えなかった。

そもそも入学前と言っている事が違うのだ、この先変わらないとも限らない。


『もう一年しかない』どころか、『一年あるかどうかも怪しい』という厳しい現実。






この二年、リリアンだって努力をした。

しかし彼女にはハンデがある。

まず生家である『セラー男爵家』の問題。

──そして、リリアンの身体的問題。


リリアンは身体が弱い……というか、『絶対に8時間睡眠を取らないと倒れる』という謎の体質だった。

しかもそのうちの2、3時間程度は悪夢を見ることが多い。


悪夢は兎も角、夜会やパーティーのある貴族令嬢としては割と致命的欠陥……『昼間寝とけばいいじゃない』と思われるかもしれないが、重要な夜会程身支度に時間がかかるのは勿論のこと、本質としては『わざわざそんなメンドクサイ女を娶ろうとするか』という話だ。


抜きん出た美貌を持つ、年齢不詳の魔性の女である母フォンティーヌならともかく、リリアンは精々『ちょっと可愛い』程度の普通の女の子なので。


ただまあ、リリアンの性格はいい。

上手く周囲を気遣え愛想も愛嬌もある。

特別賢くも強くもないが、苦労から培った強かさは備えており、努力家で前向き。

なのでとりあえず隠しといて、情が育まれてから相談すればまだいいのかもしれない。


実際、リリアンはそうした。


およそ一年前のこと。

入学後すぐに好意を抱いてくれた男性と、距離を置きながら友人としてお付き合いを深めたリリアン。

決定的に告白された時に『実は……』というかたちで暴露し、相談したのだ。


勿論、遊びで付き合う余裕などないのは友人だった時からあらかじめ示してあるし、彼の為人(ひととなり)や誠実さをわかった上でのこと。


この『決定的な告白』は当然『婚約』の申し込み。

厳密に言うとその本人への打診だ。


セラー男爵家は男爵である父が亡くなっているので、保護者は母。

不幸中の幸いにして、領地は特にない。

名ばかりの爵位で男爵本人もいないワケだが、この国の法的にリリアンは籍が変わらない限り男爵令嬢である。


話を戻すと、評判が悪い元凶の人である保護者(フォンティーヌ)を介すより先に、本人に確認したのは賢明であり妥当な判断と言えよう。


「大丈夫だよ、俺は騎士になるわけだし」


リリアンの事情を彼は受け入れてくれた。

その後、顔を赤らめつつ「結婚後、一緒に寝た後はゆっくりしててほしい……」と本気の冗談を口にするくらいの愛と余裕を以て。


そんなわけで無事、婚約者ができた──かに思えたのだが。






「リリアン・セラー! 君との婚約は白紙に戻す!! 夜起きてられずに倒れてしまうだなんて、身体に欠陥があるとしか思えない!」


なんと公衆の面前で、婚約の白紙宣言と共に秘密をバラされてしまったのである。




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