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5

 ファンポォとミカの視線が交錯する。


「随分、荒してくれたようね。あなたのことをここの言葉ではクソガキと言うのでしょう?」

「後、おまえみたいな奴はアバズレと言うッス」

「黙りなさい小娘」


 ファンポォは冷酷な笑みを浮かべ、ミカに向かって突進してきた。


「ぐはぁっ!」ミカは転がってしまった。

 束の間もなく、ファンポォはミカの腹に蹴りを入れる。


 グゥハァッ……とミカの口から血が吐き出された。


「じゃあ死ねば?」


 力の差は明らかだった。

 ファンポォに攻撃され続け、ミカはボロボロになる。


「くっ……!」

 ミカの声がかすれながらも、彼女はファンポォを睨みつける。


 その時だった。


「帝釈!」――若い女の声。


 この声……「もしかして!」

 ミカとファンポォが振り返った方向。

 なんと、突如として闘いの中にミカの姉が姿を現した。


「おまえらッ!」

 彼女の強靭な姿勢と鋭い眼差しは、カルラのメンバーたちを怯えあがらせる。


「ね、姉さん……!」

 一瞬にして、戦いの様相が変わり、緊張感がさらに高まる。


 姉はすぐさま、ミカのもとへ駆けつけた。彼女の顔にはただ純粋な怒りが宿っており、その存在感が周囲を凍りつかせていた。


「お前たち、私の妹を可愛がってくれたようじゃあない。お礼に私もあなたたちを可愛がってやんないとな」


 姉の声は低く、とてつもないほどの殺意が感じられる。

 その言葉に周囲が身を震わせる中、姉は瞬時に行動に移る。


 一瞬のうちに姉の拳がカルラのメンバーたちに炸裂する。

 彼女の攻撃は的確で容赦がなく、メンバーたちは次々と吹き飛ばされていった。


 「お前……なんなんだ?」

 意外にもファンポォの声は、かすかに震えていた。

 姉の抑圧的なオーラを感じとっているからであろう。


 そんなファンポォに対して、姉は冷酷に笑ってみせる。

「私はこいつの姉だ。それ以上でもそれ以下でもないッ!」


 言葉が終わるのと同時に、姉はファンポォに向かって突っ込んでいった。


 彼女の拳が彼女の顔面に猛然と飛び込み、その一撃でファンポォは後方に吹っ飛んだ。


 ニ、三回、床をバウンドして壁にぶつかって、白目を向いて、頭を垂れた。


 残ったメンバーも全員、姉の餌食となった。漏れなく地面に転がって白目をむく。


「大丈夫、帝釈?」

 最後の一人を倒した後、姉がミカに視線を送る。


 ミカは姉の勇姿を目の当たりにし、安堵の涙を流した。

 心の底から感謝の念が湧き上がってくる。


「すいませんッス、姉さん。これは……」

「話は家に帰ってから聞くから」


 姉は無表情のまま、ただただミカを優しく抱きしめた。


5


「んもぅ、あんなの喧嘩売るって本当イカれてる!」


 姉はやれやれといった感じで、薬をミカの傷に塗る。


「だって、姉さんのこと馬鹿にされたし……それに、最強の不良に……」

「くだらない悪口なんて放っておけばいいのよ」


 ミカは頬を膨らませて、ぷいっと姉から目を逸らした。


「私も姉さんのような最強の不良になりたいだけなのに……」


 ふと、暖かい感覚が身体に浸透する。

 見れば姉が、ギュッとミカを抱きしめていたのだ。


「姉さん……?」

「そんなの目指さなくていいから……」

 姉の言葉には静かな悲しみが漂っている。


「姉さん、何を言っているんッスか?」

「私にとって家族はもう帝釈だけなの。帝釈までも失っちゃったら私もう……」

 ――そこでやっと、ミカは姉が泣いているのが分かった。


「そんなの嫌だよ……家族がいなくなるのは嫌だよ。だから、お願い。最強の不良なんか目指さないで。今回みたいな危険なことはしないで……」


 姉さん……。

 ミカは大きく溜息を吐く。


「私、姉さんの気持ちも知らないで……子どもみたいッスね」


 ミカは自分自身と向き合い、今までの選択と行動を反省した。


 彼女は思ったのだった。最強の不良になることよりも姉の期待にこたえることが大切なんだと。


 ミカの瞳が熱くなり、涙が溢れ出た。今までの自分への後悔と、自分へ向けられた強い姉の想いが、ミカを泣かせたのだ。


「私……姉さんの家族でいるッス。姉さんを大切にするッス」


 ミカは決心する。

 最強の不良じゃなくて、姉の妹になろうと。


「これからは、最強の不良ではなく、姉さんの妹でいることを目指しまッス」

「そう、それでいいの、帝釈は」


 誓うように言ったミカの頭を、姉は撫でた。

 丹念に……丹念に……。

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