エピローグ
「なぁ、アスター。太陽って見た事あるか?」
暗闇に聳え立つコンクリートの群れの合間を歩きながら、少年は自分より一つだけ年長の友人に問うた。
「馬鹿か、お前!
何を寝惚けた事言ってるんだよ。」
アスターと呼ばれた彼は、素っ頓狂な声をあげる。しかし慌てて口を塞ぎ、少年を小突くと小声で話しを続けた。
「シュウナよ、昼間に夢でも見てるのか?
そんなんじゃ、天使様に狩ってくれと言ってるようなもんだぜ。」
二人は自分達が今すべき事を思い出す。
この管理された箱庭の中では、天使達に従い、悪魔達を狩りながら生きていくしかなかった。
しかし、そんな中でも叛旗を心に抱き、はためかせる者達がいた。
表向きは天使達に従い、悪魔狩りを生業としながら反抗の機会を窺っている者達がだ。
二人は未だその存在をしらず、くすぶりを心の中に抱き、独自に反抗の準備をしていた。
それは子供の夢物語のそれに毛が生えた程度であったが、この日、この時、彼らは出会ってしまった。
凛とした強さと意志を瞳に秘めた、黄金色に輝く金髪の少女と…
彼女が地下に封じられた人と悪魔の更に地下深い闇の世界から来た者と知った時、二人の少年は一二〇年にわたる天使による管理された世界に終止符を打った英雄となっている事だろう。
しかし地上が人間の世界に再び戻っても更なる戦いが続く事となる。
暦が変わっても、人は同じ過ちを繰り返しながら生き続けていく。
それが、かつての新堂真の希望した未来なのか、永瀬光の見た世界なのか、藤守ミサヲの求めた生き方なのか…
この世界に生きる彼らには知り得る道理はなかった。
だが、天使を電子信号の頚木を断ち切り現実世界に生きる存在となったように、人も記憶情報の影と神経細胞の火花でしかない精神の枷から更に高次の存在となるべく、造物主の世界に踏み込んで来るかもしれない。
今はただ、見守ろう。
彼らが今後、どんな生き様を見せていくのかを…
〈終〉
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
ですが、物語はここで終わりではありません。
あくまでReal-Side――現実に一番近い世界の物語。
RealはHeaven-Side、Hades-Sideへと紡がれていくのです。
とはいえ、とりもあえずも、今は三部作の、その一を閉じたいと思います。
皆様、本当にありがとうございました。
そして、シェアードワールドとしてこのM企画に、新たに『帰還限界点』という正式タイトルをつけたきっかけの、『偽典最終話 THE FINALE』もあわせてお楽しみください。