③ 「高校教育費無償化」の現実――公立教育全国下位と私学の教育荒廃
筆者:
次に、大阪府の教育事情についてみていこうと思います。
まずは「高校無償化」についてです
質問者:
維新の会って確か大阪での高校無償化って達成したんじゃありませんでしたっけ?
そう聞いていた印象があったのですが……。
筆者:
ここが維新の会の宣伝の上手いところの一つだと思うんです。
実を言うとゴールポストや定義を発言するたびに変化させているんですね。
なんと今も「高校無償化」を公約に掲げているんです。
質問者:
え……今までの「高校無償化」というのは何だったんですか?
筆者:
最初の「高校無償化」は大阪の公立高校でした。これについては達成しています。
次に私立の学校の「高校完全無償化」を目指しているのですが、これがまた欠陥です。
なんと、63万円以上は学校に負担させるものなのです。
また、年額の「授業料の無償化」であって私学の金額で操作できる「入学金」を上げることが容易にできるのです。
他の選択肢としては固定費になっている教員のカットや施設の閉鎖など私学の教育の質が低下する可能性があるんですね。
全然全く「高校無償化」になっていないと言えます。
もし実現すると、年間で最大約8000万円の負担増となる学校もあり、私立41校で合わせて8億円の追加負担が生じるといいます。
そして私学高校は人件費や設備投資を行わなくなり教育の質が低下するのです。
またこの「無償化」の条件も厳しく、学生と保護者ともに府内に3年以上住んでいなければならず、成績が上位2分の1以上でないと打ち切り。補助を受けているのは全学生の3割もおらず、授業料全額無償の学生はひと握りとなることが予想されています。
※現在においても既に年収590万円未満の世帯では(年間60万円)を上限に補助し、それ以上の金額は学校に負担の状況になっています。
これを達成する際にも「私学無償化」などと言っていました。
質問者:
確かにこれでは全然無償化ではないですし、言葉のインパクトだけですね……。
しかし、代わりに公立学校に人が集まったりしてくれたりしないんですかね?
筆者:
ところが、「私学無償化」で生徒が流れた分、公立高校をどんどん廃校にしている実態があります。
2012年施行の府立学校条例は3年連続で定員割れし改善の見込みのない高校を再編整備の対象にすると定めているんです。
現行の再編整備計画は23年度までの10年間で15校程度を募集停止するとしていたのです。
しかし、22年度までに17校の募集停止を決め、更に府教委は1年前倒しで新計画を策定し、加速度的に公立高校を無くしていこうとしています。
このように、私学の無償化は程遠く、一方で公立高校は廃統合と「全然無償化する気が無い」というのが明らかだと思います。
質問者:
なるほど、これは酷いですね……。
筆者:
これで大阪府の学生の学力が高ければ問題が無いのですが、
2018年の全国学力テストでは全国の政令指定都市の中で最下位でした。
その後多少は改善しているようですが、
最新の令和5年の全国学力テストでは、府内の公立小中学校の平均正答率が国語、算数・数学、英語(中学のみ)の全教科で全国平均を下回った(23年8月1日の産経新聞より)と深刻な小中学校教育が浮き彫りになっています。
質問者:
それは、根本の教育の仕方や人材確保に問題がありそうですね……。
筆者:
僕は“これ”と断言することはできないですが、大阪の小中学校教育には全国よりも劣った点があるのは間違いないです。
これがずっと改善できていない状況はやはり政治の失態と言って良いでしょう。
僕が原因として注目したのは一つ目は極端な人事考課制度です。
生徒の経年テストの結果は校長が教員を評価する重要な要素となっているようで、4段階、5段階(下2つ)の評価の教員の給与を削って1段階、2段階(上2つ)の教員の給与に上乗せするしくみで、教員同士の信頼関係をズタズタにしたと批判が強いようです。
極端な成果主義は、経験のない若い教員が荒れたクラスの担任になり、トラブル続きで評価を下げられ、自信をなくして休職、辞職したりして負の連鎖を生んでいるようです。
正直、元の点数や素行からどれだけ改善できたか? の方が評価するなら相応しいと思うんです。
ベースとしてある家庭環境などが全く違いますからね。
質問者:
確かに人事評価制度を作ることが間違いではなく、その内容がちょっと相応しくないということですか。
筆者:
そうですね。あとは下のランクの給与が上のランクに乗せられるというような評価方式ではなく、成果が出せればみんな給与アップでいいと思うんです。
「あいつに給料を奪われた」
みたいな感じのギスギスした職場とかランクが上の人もいたくないですからね。
こうした教育現場の環境劣化が影響してか、
大阪市の中学生の不登校率は、2010年度は約4・1%(2000人)から、
2020年度は約6・1%(3000人)と約50%増加しています。
質問者:
教員の方の環境が悪かったのなら子供の指導どころではありませんからね……。
筆者:
大阪市立高校については、いわゆる「大阪都構想」が2度も否決されたにもかかわらず、大阪府・市の高校を一元化するとして2020年12月の大阪市会・大阪府議会において、2022年4月1日に「大阪府に移管」することが決定されました。
大阪市立高校は、大阪市民の税金で築いた貴重な財産で、芸術的価値を有するものもあり、その土地・建物の財産価値は台帳価格で約1500億円とされています。
そんな多額の財産を大阪府に「無償譲渡」したことは問題であるとされています。
※大阪都構想の問題については本稿の別の項目でお伝えします
質問者:
全く話題になっていないですがそんなことが起きているんですか……。
むしろ大阪府の教育で良いところってあるんですか?
筆者:
大阪府の大学進学率66.6%は全国3位。全国平均より7.1ポイント高くなっています。
公立小中学のテストの惨状を考えると、大阪の私学高校が優秀だということでしょう。
しかし、中途半端な「私学高校無償化」によって、教育の質の低下が起こり、この誇るべき大学進学率も今後下がることが予想されるでしょう。
まさに大阪の教育が維新の会によって「危機に瀕している」と言っても過言ではないのです。
質問者:
なるほど、唯一の良いところすらも失われるかもしれないのですね……。
筆者:
本当に入学金を含め完全に無償化(大阪行政府が教育費を負担)だったら国民側に負担が無く問題無いのですが、
私学に関しては自在に入学金や授業料を設定できてしまいますからある程度上限を設ける必要があるのは理解できます(そうでなければ利益供与になる)。
ただ無償化として私学に配布する金額の上限を決めてしまうと学校は1人あたりの上限額しか教育ができなくなるために、
教育の均一化が起き、
「私学の特色が無くなる」
可能性があると思っています。
だとすると、大阪の教育の発展のためには「私学完全無償化」を強制的に行うのではなく、
私立の教育は、一定の要件を満たした補助金(現在は1人あたり30万円)の増額などの今まで通り自由にやらせ、公立学校の教育充実を行うことなのです。
質問者:
一見、大阪府民からすると「無償化」は良い事のように思えますが教育の質の低下につながってしまうのであれば意味がありませんね……。
筆者:
この良さそうなお題目や短期的な利益を国民にチラつかせ、実情は惨状を生み出す――この想定力の無さ(若しくは意図的にやっている)は自民党を想起させるものがありますね。
例えば国策で行っている外国人労働者受け入れも商品の単価を下げ国民が安く買えることを訴えつつ、
実情は治安の悪化や日本人の給与停滞につながっているという構図です。
質問者:
やはり筆者さんが常々おっしゃっているような長期的視点が必要ということなんですね……。
筆者:
少なくとも今までの公立小中学校の教育体制に問題があるから学力テストでも大阪府は下位を彷徨っているのです。
上手く現状分析をして根本の治癒をしなければ同じ過ちを繰り返し続けるでしょうね。
ただ現実は「聞こえの良い標語」に騙されていると言っても過言ではありません。
国民側の政治リテラシーが大事になってくると思います。
次の項目ではパソナによる害悪についてみていこうと思います。
これは日本全体に影響することですがね……。