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及川と小山の犯行日がわかり、俺達は討伐の準備を始めた、真鈴の心がなぜか揺らいでいる…ところで、俺は父親になったかも知れない。



ファンタースマ達が及川と小山の連絡方法を探っている間に俺たちは次の犯行現場と推定される東秩父村に行き、現場を見て地図を作成して討伐のプランを立てた。

グーグルアースなどで現場をチェックしても実際にそこに行くと状況が変わっている事もあり、俺達は常に現場に足を運んで実際に見て廻る事にしている。


「恐らく奴はここに車を停めるだろうな。」


明石は道から少し奥に入った今は誰も使っていないだろう、草に覆われつつある駐車場を指差した。


「うむ、ここなら多少長い時間駐車をしていても誰も気にも留めないだろう。」


四郎が答え、駐車場の近くの藪を歩き回った。


そして及川がここで犯行を犯そうとした場合に事前に急襲できる配置を考えた。


「あの…何とか生きたままに身柄を確保とか出来ないんでしょうか…動機や犠牲者の遺体の処理をどうしているかとか知りたい事が有るのですが。」


岬がおずおずと聞いた。

明石が岬に振り返った。


「岬巡査部長、確かに生け捕りに出来ればそれに越した事は無いがな、しかし、君達はアナザーの事を話に聞いたり映像で見たとしても本当の所は判らんだろうな…。

 俺達も一応は降伏を呼び掛けるが、今までそれに応じた奴はいない。

 戦える力が残っている限りアナザーは俺達を殺して逃げる事しか考えていないという事を心に刻むべきだな…でないと誰かが死んでアナザーを取り逃がすぞ。

 死ぬのは君かも知れないぞ。」


岬は明石の視線に耐え切れずに俯いた。

明石の言う通りだ。

今まで討伐を続けてきたが、降伏しろとの呼びかけははっきり言って戦闘開始の合図に過ぎないのだ。

出来るだけ命の危険なしに討伐を済ませたい俺は降伏の呼びかけでさえできればやりたくない。

いきなりの奇襲が一番なんだから。


黙っている3人に四郎が言った。


「すまんな、何分これは『討伐』なんだ。

 われ達はこれ以上の犠牲者を出させない事を最優先にしているのだ。

 アナザーを討伐して殺害し、犯行を止める。

 君達もそのつもりでいた方が良い。

 容赦すると…死ぬぞ。

 相手が倒れて動かなくなり、灰になるか腐乱死体になるかするまで決して気を抜くな。」


その後、俺達は松浦達の訓練を続けながら及川と小山の連絡手段を探るファンタースマの報告を待ち、シフト表を見つけ出したファンタースマによって日にちが判った及川と小山の休日が重なる日には何人かが東秩父村の犯行予想現場に張り込んだ。


その間、栞菜は正平と何度かデートに出かけた。

どうやら栞菜は正平に身体を許したようで、それを察知した喜朗おじが少しの間落ち込んだ。

正平の休日に『ひだまり』に遊びに来た時、正平を見る喜朗おじが危うく悪鬼顔になりそうな時もあった。

真鈴と乾の関係はじれったいほど進んでいないが、真鈴の過去を知っている俺は、まぁ、しょうがないな、と思っている。


司と忍は4月にそれぞれ進級し、少しお姉さんになった。

司などはミヒャエルにお姉さんのような口をきくようになった。

このまま年月が進むと忍も見た目はミヒャエルより年上になるだろう。

俺はミヒャエルの気持ちが少し判った気がする。

自分だけが永遠の時間の牢獄に掴まってどんどん周りから取り残されてゆく…そんな切ない気持ちなのだろうか…。


ジンコから時々訓練の事を報告するビデオ通話が来る。

マッハ以上の高速で急激な不規則機動を繰り返す戦闘機の後部席で制限時間内でパズルをしたり知恵の輪をしたり、そのあいだ、同時に目まぐるしく数値が変わる計器を読み上げ、更に耳から聞こえる曲の題名をすぐに答えたりなどなど、凄まじい訓練をしている。


「やれやれ、われらアナザーでも根を上げるかも知れんな…実に恐るべきことをしているものだ…。」


四郎が訓練内容を聞いて頭を振った。


そして月探査ロケットの打ち上げスケジュールが確定した。

7月後半、4基のロケットで打ち上げられた宇宙船は月の周回軌道上でドッキング、応急に作られた宇宙ステーションで静止軌道に移動して降下船を月面に降ろすとの事だ。

ジンコは降下船に乗り、月に降り立つ4人の月面探査要員に選ばれた。


後2か月か。

月は自転速度を上げたようでその裏側の31・45パーセントを地球に向けていた。

惟任教授がはじき出した予想時間曲線ルナ・カーブよりもはるかに速く月はその裏側の全貌を地球に向けるのだ。

その時に果たして何が起きるのか…。

俺は『ひだまり』でコーヒーとケーキを貪る乾に聞いてみたが、乾は言葉を濁して答えなかった。

そして、正直な所、俺にも判らんと言われた。

ただ、清算の日は月に関係はしているという事だった。


そして俺達はやっと及川と小山の連絡方法を突き止めた。

やはり、及川と小山の小麦粉の納付書と受領書の控えの隅に小さく日付が書き込まれていた。

その控えは双方が確認次第に直ぐにシュレッダーに掛けられるのだが、松浦達が何とかシュレッダーのかすを手に入れ、岩井テレサの組織でシュレッダーのかすから控えの書類を再生させて日付を掴んだ。


及川と小山の休日が重なる5月の30、31日の火曜水曜の内、5月30日の火曜日だった。


俺達は長い待機時間から解放された気分だった。

そして、スキルを上げた松浦達も討伐に参加させることに決めて死霊屋敷の敷地で東秩父村の犯行予想現場に地形が似ている所で討伐のリハーサルをした。


「お?何だこの匂いは?」


四郎は鼻をひくひくさせた。

そして顔を巡らせて岬を見た。


「岬巡査部長、何か付けているか?」

「あ、はい、虫よけスプレーを吹きかけましたが…。」

「アナザーは鼻が利くんだ。

 そんなものを付けていると気配以前に居場所を察知されるぞ。

 今後は一切匂いが付くような物はつけるな。」


その通り、アナザーの討伐を始めた時に四郎や明石から指摘された真鈴とジンコは討伐の2日前から一切のコロンなどを付けなくなった。


俺達は討伐の計画を練った。


どちらかが犬に変化して何らかの方法で犠牲者を車まで連れて行き、車の中で殺すだろうと犯行方法を推定した俺達は及川が車を停める場所を中心に配置に付き、万が一被害者を車に連れて行く前に危害を加える事態も想定した。

今回も誰か囮を使うか検討したが、今までの被害者、というか失踪の届け出が出た者の年齢性別などが多岐にわたっており、及川達が何を基準に被害者を選んでいるか見当がつかず確実に囮に引っかかる可能性が低いので、配置が手薄になる事も考慮して囮を使う事は断念した。


前日から2人づつ2組の追跡班を及川と小山双方に付け、犯行予想場所まで尾行する。

万が一別の場所で犯行を行う時は速やかに犯行予想場所で待機している急襲班に連絡を取り、対処する事になった。

暖炉の間で皆が打ち合わせをしている時に真鈴が爪を噛んでいるのを俺は見た。

真鈴が何か悩みや考え事をしている時の仕草だ。


「真鈴、何か気になる事ある?」


顔を上げて俺を見た真鈴の心は確かに何か揺らいでいたがそれが何なのか俺には判らなかった。


「いや、何でもないよ。

 今回は初陣が3人いるからね…。」


真鈴が松浦達を見て、松浦達も真鈴を見た。


「安心してください。

 決して足を引っ張りませんから。」


松浦が断固とした口調で真鈴に言った。


打ち合わせが終わった。

俺ははなちゃんを抱いてダイニングに行った。


「はなちゃん、真鈴の様子が少し変に感じるんだけど…何か判った?」

「彩斗、確かに真鈴は何か心に引っかかる事があるやもしれぬな…じゃがの、真鈴は時々すごく上手く心のありさまを隠す時があるじゃの。

 わらわでも心の奥の方までは良く判らんし、それを探ろうとしたら真鈴はまたもっと心を隠すじゃろうな。」

「はなちゃん、俺の心は凄く読むくせに…。」

「彩斗は別じゃの。

 おぬしは覚醒してから逆に心が読みやすいじゃの。

 じゃが、真鈴は別じゃの。

 所でお前の方じゃが…まぁ、あの子の方からその内に言うじゃろうの。」

「…それ、何だいはなちゃん?」

「知らぬじゃの。」


はなちゃんは謎の言葉で締めくくった。


その後、四郎と明石と圭子さん、喜朗おじにも聞いてみたが良く判らないと言われた。

俺は何となく胸騒ぎがして栞菜と凛に真鈴に注意をして上手くカバーしてくれるように頼んだ。

その夜、『みーちゃん』から戻ってきたユキが俺の耳元で囁いた。


「彩斗、もしかして出来ちゃったみたい。」

「え?」

「…赤ちゃん。

 私、生まれてから生理がこんなに遅れた事無いのよ。

 明日妊娠判定キットを買ってくる








続く


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