小山と及川の接点、そして次の犯行場所の目星もついた…後は奴らがいつヒューマン狩りをするかだ。
そして、今現在、小山千尋は小麦粉などの卸会社に働いていて、その会社は及川が務めているパン工場にも小麦粉などを卸している事が判明した。
「うん、これで接点は判ったな。
後は及川と小山がどうやって連絡を取っているかという所だな…ヒューマン狩りをするならばどうしても予定などの連絡は取り合うはずなんだがな。」
明石がため息をついた。
「景行、しかし配下のファンタースマが及川に張り付いているけど、及川が仕事上の電話とかFAXで小山と日程的な予定をやり取りしているのは確認できていないよ。」
「そうだな彩斗、俺達は小山千尋にもファンタースマを張り付かせる必要があるな。
出来れば小山の自宅アパートも探りを入れたいところだ。
何といってもファンタースマは捜査の素人だ。
何をやっているかの監視は出来るが、細かい証拠を集めることを要求してもそれは無理だからな。
この前に松浦達がやって見せたようになにか証拠が見つかるかも知れんぞ。」
という訳で俺達は新たに4人をスケベヲタクファンタースマ軍団から選抜して小山千尋に張り付かせることにし、松浦達と小山のアパートに探りを入れる事にした。
数日後に俺と明石、そしてはなちゃんと松浦達3人で小山のアパートに探りに行く事になった。
「あ~良いなぁ~!
大学の講義が無ければ私も行きたいのに~!」
真鈴が悔しがった。
「真鈴、遊びじゃないんだからさ。」
俺は苦笑を浮かべて真鈴に言った。
数日後に俺達は小山千尋のアパートに向かった。
張り付かせているファンタースマは小山が及川と何かしらの連絡を取っている事を感知できなかった。
及川が借りている小山のアパートの家賃は小山が自分で支払っているようだし、小山の職場でも、何か不都合が無い限り及川のパン工場に連絡を取る事も無かった。
小山が会社に行っている間に、俺達はこの前と同じ手順を踏んで小山のアパートに捜査に入った。
やはりあまり荷物は無かった。
及川同様パソコンも置いていなかった。
押し入れの奥からアルバムが出てきたが、小山は子供の頃からそんなに友達がいないようで、あまり友達と写した様な写真は無かった。
家族、恐らく父母と思われる人物と写した写真が数枚、あとは学校の校舎や校庭を写した写真があるが、無人の状態か特定の人物を写したものは無かった。
その他、アルバムの後半は何の変哲もない田舎の風景写真で埋められていた。
「どうやら子供の頃からボッチ女子のようですね~。
そして散歩して写真を撮るのが趣味なのかな?」
アルバムを見ている杉下が呟いた。
そしてどうやら小山はカメラ好きのようでキャノンのデジタル一眼レフカメラの上位機種と交換レンズや三脚などのカメラ機材が置いてあった。
俺は何かのヒントになるかもと、アルバムにあった、小山の七五三で神社にお参りに行った時、幼い小山と母親が一緒に写っている写真などをスマホに収めた。
松浦達はアルバムの全ての写真をスマホに納めていた。
今時、わざわざ紙に出力した写真をアルバムに貼ると言う事は確かに珍しいと言えば珍しい。
はなちゃんが気になる事を言った。
「この小山という奴は…ひょっとしたら及川より強いかも知れぬじゃの…。
討伐の時は及川よりも小山に気を付けた方が良いかも知れぬじゃの…。」
松浦達は指紋の採取とやはり排水溝などを調べてから部屋を慎重に元に戻して撤収した。
排水溝などから及川の髪の毛などやその他指紋などは見つからなかった。
小山の部屋には小山以外誰かの出入りは無さそうだ。
死霊屋敷から戻り、夜のトレーニングに入った。
相変わらず松浦達は無様なダンスを踊らされたが、初めてユキに紙の棒をヒットさせた杉下が喜んでいた。
少しは進歩しているようだ。
着替える途中で上着を脱いだ松浦達は体のあちこちに湿布や絆創膏を貼っている。
3人で自主的に厳しい訓練をしているようだった。
松浦達が帰り、俺達は暖炉の間で寛いだ。
「なんだ~大した収穫は無かったのね~。
でも、プロの捜査をやっぱり見たかったな~。」
真鈴は俺が撮って来た小山のアルバムの写真を表示したスマホを見ながらぼやいた。
「しかし一つ収穫があったと言えばあったかもな…はなちゃんが言うには及川よりも小山が強い可能性が高いらしい…。
今までの状況を見ると及川がリーダーと言う感じはするけどな。」
「そうね~、小山はそもそも及川にアナザーにされたという感じは有るんだけどね。」
「そうだな圭子。
やはり及川が小山をアナザーにしたという印象はあるな。
小山の方が及川よりも新しいものだとは思うが、はなちゃんは小山の方が強いと言っていたぞ。」
明石夫婦が及川達の印象を話している時に、俺は真鈴の微かな動揺を感じた。
真鈴は小山が七五三の時の写真をじっと見ている。
「どうした真鈴?」
「いや…彩斗、この神社…この小山千尋の学歴とか判っていたよね?」
「ああ、最終学歴は判っているよ。
高校卒業、埼玉の公立高校だね。」
「じゃあ、小山千尋の本籍地は判る?」
「ちょっと待って…ああ、ここだ、京都だね京都の舞鶴だよ。
今の所小山千尋の前歴で判っているのはこの辺り迄だね…後は就職後に常習的な万引きで起訴されて会社を首になり…そして少し時間が空いた後で今の会社に就職しているという所だね。」
「そうか~。」
真鈴が俺のスマホを置いた。
「ちょっと気になったけど…千尋って名前は結構あるもんね~。」
「ああ、真鈴が小山千尋と高校の時に一緒だったかもって言う事?」
「うん、だけど、苗字も住んでいたと思えるところも違うしね。
たしか…私が知っている千尋って中岡だったかな?中川だったかな?小山じゃ無かったわ。
気のせいだろうね。」
「そうか…まぁ、実際はどうか判らないけど、経歴通りだとするとこの小山千尋って真鈴と同い年だもんな。」
「それより彩斗、及川と小山はどうやって連絡を取り合っているか判らないと討伐の予定が立たないよ。
それとも同時に及川と小山を襲撃して一挙に討伐する?
まぁ、今のままでも証拠はあるから討伐しても良いかな?と思うけど…なんだかね~。
実際に2匹でヒューマン狩りをするところを襲撃しないといけない気がするわ。
このままこんな感じで討伐を進めていくといつか私達は冤罪で無実なアナザーやヒューマンを殺してしまうかも知れないわよ。」
真鈴が言い、確かにそうかもと思った。
「そうだね、やはり現場を押さえた方が良いとは思うね。」
「そうだな真鈴、離れた2か所同時襲撃は何か不都合が起こる可能性も高いし、及川や小山の家の辺りは家は密集しているからあまり騒ぎを起こしたくないな。
討伐の計画は単純であればあるほど良いものだ。
それに、はなちゃんが音の壁を作れるのは一か所だけだから、出来れば、やつらが狩りをする田舎で2匹同時にいる時に襲撃するべきだな…。」
明石がそう答えて俺達は頷いた。
もう少し深く探って何とか及川と小山の連絡方法を探り、次にヒューマン狩りに出かけたところを討伐すると俺達は方針を決めた。
いつもながら、アナザー討伐に掛かるまでが時間が掛かるが、これは仕方ないだろう。
今の時点でも俺達は隠密に討伐をしなければならないのだから。
「その通りだ景行、そうすれば討伐までの間に松浦達をもう少し鍛える事が出来るしな。」
四郎がニヤリとしながら言った。
確かに少しは進歩していると言っても、相手が2匹だけだとしてもアナザー討伐に松浦達を同行させるのは少し心許なかった。
今の段階では松浦達は同僚の襲撃メンバーと言うより何かあった時にその身を守らなければならない存在、『お客さん』という所だからだ。
松浦達は及川と小山に張り付いているファンタースマ達から実際に直接細かい話を聞きたいと言い出した。
何かヒントを探り出せるかも知れないという事で、俺とはなちゃんと栞菜がファンタースマの通訳として同席して『ひだまり』の個室で松浦達のファンタースマ達の事情聴取をする事になった。
松浦達は及川と小山の日常に仕事の作業手順などをファンタースマから細かくメモを取りながら尋ねた。
細かく質問責めにあったファンタースマが解放された後で松浦達はメモを片手に話し合っていた。
その結果、唯一及川と小山の物理的な繋がりがある事が判明した。
小山の会社から小麦粉などを出荷、及川の工場に納品する時に納品書と受領書のやり取りがあり、その両方に及川と小山のサインが書き込まれるのだ。
なるほど、その時に次の狩りの日付か何かを書類に書き込んでいるのかも知れない。
俺達は松浦達プロの捜査官の力量に感心し、ファンタースマ達に小麦粉が納品する時の書類の行き来に注意を払うように指示を出した。
そして、もう一つ、松浦達は小山のアルバムの変哲もない風景写真からまたヒントを得た。
及川と小山の被害者だと思われる数少ない失踪者の届け出。
その最後の足取りと小山が映していた写真を風景を調べ上げ、その内の幾つかが犯行現場周辺と思われる場所と一致する事を突き止めた。
「これはつまり…。」
暖炉の間で打ち合わせ中に俺は松浦達に尋ねた。
「つまり小山は犯行に都合が良い場所を下調べしているという事だと推定されます。
適度に田舎で人通りが無い、全く無いわけでなく人通りが少ない所。
そして犬を散歩させても変に思われない場所、そして、及川の車を少し道路から奥まったところに停めていても不審に思われない所を小山が写真に撮って下調べをしているという事だと推測出来ます。」
岬が小山のアルバムからスマホで撮って紙に出力した写真を指差しながら言った。
「成る程~!」
俺達は感心した。
松浦が岬の後を続けて言った。
「この写真には日付が付いています。
すでに犯行が行われたと推定される場所、失踪者届が出されて最期の足取りを確定出来たところ以外に下調べをした写真が撮られていたところは1か所だけです。
恐らくここ、埼玉県の東秩父村が次の犯行現場だと…。」
「まって、松浦警部、それだけでここに特定できるの?
そこまで推定出来る?」
真鈴が尋ねた。
松浦はにやりとした。
「小山は犯行現場として使える所にしか写真を残していないと思われます。
それに値しない場所の写真はわざわざ紙に出力してアルバムに貼らないでしょうね。
そして写真の時系列と届け出があった失踪者の時系列を考えると、ここが次の犯行場所と特定できると…まあ、我々の勘も多少は入っていますが。
考えるにこのアルバムは小山と及川の犯行の歴史だと思われますので。
用心深い奴らの言ってみれば記念品ですかな?」
成る程…刑事の勘と言う奴か…しかし、今回はそれを裏付ける証拠もある。
しばらく考えていた明石と四郎、喜朗おじが顔を見合わせて頷き、明石が口を開いた。
「なるほど、俺達も討伐場所付近の知識を事前に手に入れられれば有利だな。
今度その東秩父村を下調べに行こうか。
後は及川たちがいつヒューマン狩りを決行するかだな。」
杉下が口を開いた。
「その件ですが、失踪者の届け出と写真が撮られた時刻、犬の散歩をして余り不審に思われず、多少の人通りが有る事を考えれば午後遅くか夕刻までの時間帯だと思われます。
及川も小山も午後6時までが終業時刻ですので狩りをやるならば2人の休日で無ければ不可能だと思われます。」
「なるほどそうか。
確かに一理あるな。
ファンタースマ達に及川と小山の休日が重なる日を探り出してもらおう。
職場のどこかにシフト表などが有るはずだ。
だが、はっきりと日付が判らないとな。
もう少し探りを入れよう。
そしてそれまでに及川と小山の休日が重なった時には何人かが東秩父村の写真が撮られた場所に張り込んで事態に備えるか。
奴らが動き出してからファンタースマが警報を出しても俺達は急がずに先回り出来ると言う事だからな。」
松浦達3人が新たな情報を仕入れて興奮する俺達を微笑みを浮かべながら見ていた。
また一歩、俺達は及川達を追い詰めた。
続く