俺達は四郎の復活1周年を祝い、ASSTFから出向してきた3人の戦闘スキルがどれほどか確かめる事になった。
夜のトレーニングと夕食後に俺達は暖炉の間に集まった。
「しかし…なんか足手まといを押し付けられた感じがしますね~。」
クラがため息交じりに言った。
「クラ、確かにその通りだな~。」
明石がクラに相槌をうった。
俺たち全員の思いを代弁している。
いくらASSTFの捜査員といってもアナザー討伐の経験が無いものでは少し心許ないし、『ひだまり』でスケベヲタクファンタースマ軍団に怯える姿もクラ達は見ている。
ASSTFから出向で来た3人の事だった。
「彩斗が安請け合いするからだよ~。
あ~めんどくさそうですぅ~。」
「そうだよ~彩斗が安請け合いするからだよ~。」
「彩斗リーダーはお人よし過ぎるんですよね~。」
栞菜たちが俺にぼやいた。
「だってリリーが言いにくそうに頼んで来たからさ~。
よっぽど困っているんだろうな~と思ったんだよ。」
俺が答えると四郎がため息をついた。
「うむ、まぁ、確かにリリーが困っていてな。
われが彩斗に任せたらどうだと言ってしまったんだ。
許せ。」
「え~!張本人は四郎だったの~?」
圭子さんが呆れた声を上げた。
「まぁまぁ、もう仕方ないだろう。
リリーから言われたが出向という事だから俺達ワイバーンの藤岡以外の、質が悪いアナザーの討伐の仕事もやらせてくれと言っていたな。」
「景行、藤岡の組織以外のアナザーの討伐にも連れて行くの?」
真鈴が尋ね、喜朗おじが代わりに答えた。
「真鈴、まぁ、奴らに現状を正しく把握させるには良い機会なんじゃないか?
質の悪いアナザーを俺達ヒューマン、アナザー、ファンタースマの混合チームで討伐している所も知るべきだと思うぞ。
そうすれば奴らもアナザーもヒューマンの様に良い奴も悪い奴もいて奴らヒューマンと変わらないという事が理解できるだろう。」
確かの喜朗おじの言う事も一理あるかも知れない。
其れなりの講習を受けてきたとはいえ、今日来た3人は心のどこかにアナザーは全てヒューマンの敵ですべて排除するべき、という考え方が微かにチラチラと見えた。
明石達が俺達ヒューマンと変わらない『人間の心』を持っていると判るかも知れない。
「まぁ、それは良いとしてだな。
あの3人をアナザー討伐に連れて行くとしてもだ。
どの程度戦闘スキルを持っているか判らんぞ。
銃が暴発したり奴らが慌てて俺達を後ろから撃たれてもかなわんしな。」
明石が言い、俺はその通りだと思った。
せめてあの3人が俺達の最低基準位のスキルを持っているかは実戦でアナザー討伐をする前に見極めなければならないだろう。
「一応リリーに確認を取っておくか。
われ達の訓練その他を全部見せて良いものかどうかをな。」
四郎がスマホを手に取り、リリーに電話を掛けた。
通話が終わりスマホを置いた四郎が俺達に言った。
「リリーはわれ達とASSTFの相互理解には必要だと言っていたぞ。
あの3人もわれ達のトレーニングに参加させよう。
3人を討伐に同行させるかどうかはそのスキル次第という事だな。」
四郎の言葉に全員が賛成した。
「四郎、それとな、俺や凛が変化した姿も見せておかねばならないだろうな。
景行の犬や狼、四郎のカラスやコウモリはまず大丈夫だろうが、俺がハルク化したりグリフォンになったり凛がペガサスになった姿を実戦で見た時あの3人は混乱して俺や凛を撃ちかねないからな…。」
「そうだな四郎おじ。
やはり見せておくには越した事が無いな…ところで圭子はどうする?
あの姿を見せるか?」
明石の言葉に俺達は驚いた。
「ええええ~!
圭子さん変化できるようになったの?」
「見たい見たい見たいですぅ!
何に変化できるようになぅったのですかぁ!」
「圭子さん凄いじゃない!
四郎だって変化できるようになるまで1年くらいかかってるのよ!」
「圭子さん!何に変化できるの!」
俺達が圭子さんを質問攻めにした。
そう言えば前に圭子さんは司と忍から、凛の様に馬に変化して私達を乗せてとリクエストされていたのを思い出した。
「ああ!やっぱり馬ですか?
司も忍もきっと喜びますよ!」
俺が言うと圭子さんは俯いて黙ってしまった。
あれ?
明石が複雑な表情で代わりに答えた。
「ま、まあ、圭子が今は言いたくないようだから…あの3人には圭子の変化した姿は見せないでおこう。
お前達にはそのうち判ると思うが…まぁ、今はまだ…な…。」
明石の表情から俺達は何かを読み取ってそれ以上圭子さんに聞かない事にした。
「うむ、圭子さんはもっぱら遠距離狙撃などでわれ達の支援をするポジションだからな。
特に何に変化するとか今すぐに聞かないでも良かろうと思うぞ。」
四郎が締めくくり、俺達はプレハブの宿舎兼事務所が出来てあの3人が隣の敷地に赴任して来たら、共同で訓練をして3人のスキルを見届ける事に決めた。
俺達は既にもうひとつ、次に討伐する予定の質が悪いアナザーをある程度探り当てている。
そいつの情報収集と襲撃プランの作成にも3人を参加させることに決めた。
3人の戦闘スキル次第では次の討伐があの3人の初陣になるだろう。
俺達が解散する時、俺に近づき真鈴が声を潜めて言った。
「彩斗、四郎のプレゼント選んで置いたよ。
これ、四郎もいつまでも彩斗のおさがりの腕時計じゃ可哀想だからね。」
真鈴がプリンターで出力した紙を見せた。
オメガコーアクシャル マスター クロノメーターのDIVER 300Mモデルだ。
「なんか四郎がリリーと今度マリンスポーツを始めるとか言っていたからさ。
それにこれなら普段使いでもあまり違和感ないでしょ?」
「うん、良いんじゃないかな。
これに決めようよ。」
「うん、判った明日大学の帰りに買ってくるわ。
彩斗、明日の午前中までに私の口座に時計代金を振り込んでおいてね。」
「うん、全額…だよね?」
「あたりまえでしょ?
私が探して選んできたんだから。」
「うん、判った。」
正直言ってこの前ユキに婚約指輪を買って、やがて結婚指輪も買う予定で少しプライベートのお金がきつかったけど、なにせ四郎へのプレゼントだからな。
四郎には何度も命を助けてもらった事もあるし、俺も真鈴もここまで鍛えてくれたのだから仕方ないだろう。
明後日、四郎を復活させた日だ。
その時に渡そう。
俺は圭子さんと喜朗おじに明後日が四郎の復活1周年だから何かごちそうを作ってくれるように頼み、気持ち良く引き受けてくれた。
そして真鈴がオメガを買ってきて、圭子さんと喜朗おじが豪勢な料理とデコレーションケーキを作ってくれた。
司と忍がなんのお祝い?としつこく圭子さんに聞いていた。
当然四郎には内緒にしてあったが、鼻が利く四郎は昼過ぎから何やら美味しそうな料理の匂いがすると鼻をひくひくさせていた。
そして夕食の時、今日はワイバーン勢ぞろいでリリーも来ていた。
さて夕食と言う時に皆がハッピーバースディを歌い何の事か判らずに戸惑う四郎の前にろうそくが一本差されたケーキが運ばれて来た。
「四郎、今日は四郎があの棺から復活して丸1年だよ。
おめでとう、今まで俺や真鈴を鍛えてくれてありがとう。
さ、ろうそくを吹き消してよ。」
呆気にとられていた四郎だが、やがてその両目から涙が吹きこぼれた。
そしておいおいと男泣きに泣いた。
ちょっと意外だった。
ろうそくを吹き消す時に四郎の涙と鼻水が飛ばないようにリリーが四郎の顔を拭き、無事に四郎がろうそくを吹き消した。
俺達は拍手をして、四郎にプレゼントを渡した。
急な事だったが、俺と真鈴以外にも皆が四郎へのプレゼントを用意してくれて渡した。
その後は俺達は四郎が復活してからの事、明石と出会った頃の事、廃ボーリング場でリリーと再会した事など思い出話に花を咲かして和やかなひと時を過ごした。
翌週。
早朝に隣のプレハブに赴任してきたASSTFの3人、松浦と杉下、岬の3名が戦闘服を着てやや緊張した顔付きで裏庭に来て準備体操を始めた。
俺達も横目で3人を見ながら準備体操をした。
さて、ヒューマン組織の対アナザー部隊隊員のお手並み拝見という所だ。
続く