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俺と明石はASSTFから出向してきた松浦達にワイバーンと隣の敷地について説明した。




車道に出る寸前に悲鳴を上げて逃げる杉下を松浦と岬が捕まえた。

いやだ!いやだぁああああ!と叫ぶ杉下を俺達の所まで引きずって来た。


「やれやれだな、彩斗。

 あの杉下と言う男は彩斗の様にファンタースマの事が見えるようだぞ。

 今後の事もあるから説明してやれよ。」


ASSTFではアナザーの事は把握しているようだがファンタースマの事は知らない者が多いようだ。

俺は引きずられて来た杉下の前に立った。


「杉下さんでしたよね?

 あなた、ファンタースマ、世間で言う死霊の事が見えるようですね。」


真っ青な顔の杉下は俺を見た。


「え、ええ、今までも見た事はありますがあんなに大勢の…気味の悪い奴らがウェイトレスさんのスカート…。」


松浦と岬がぎょっとして顔を見合わせ、俺は慌てて杉下の言葉を遮り、女性の岬がズボンを履いている事に安堵しつつ言葉を続けた。


「安心してください杉下さん。

 あいつらは見かけはアレですが極めて無害で心優しいファンタースマ、死霊達なんです。」

「ほほほ、本当ですか?」

「ええ、絶対に大丈夫です。

 奴らは俺達の味方です。

 さぁ、中に入りましょう。」


俺は未だに少し抵抗を続ける杉下を引っ張って店内に入った。

スケベヲタクファンタースマ軍団が何十体も忙しく立ち働く栞菜たち、『ひだまり』のウエィトレスのミニスカートの中を覗き込みながら床を巨大なゴキブリのように這いずっている。

俺はすっかり見慣れたが、確かにこの光景を始めて見た人が悲鳴を上げて逃げてもおかしくないな…。


スケベヲタクファンタースマ軍団は俺を見ると次々に挨拶をした。


「彩斗首領、こんにちわ!」

「彩斗総統、こんにちわ!」

「彩斗将軍、こんにちわ!」


やれやれ、こいつらはいつになったら俺の事を彩斗リーダーと呼べるのだろうか…。

俺は奴らのあいさつに小さく頷き返し、その度に杉下は何とも言えない引きつった顔で俺を見て、そして、スケベヲタクファンタースマに小さく会釈しながらついてきた。


「喜朗おじ、奥の個室を借りるよ~。」

「おお、彩斗か空いてるぞ、どうぞ。」


俺達は怯えた顔で辺りを見回す松浦や岬、杉下達を引き連れて個室に入った。


栞菜と真鈴がオーダーを取りに来た。

栞菜は『陽だまり特製イチゴ特盛ショートケーキ』を勧め、3人はそれとコーヒーを頼んだ。

杉下は栞菜の顔をじっと見て少し顔が引きつっていた。

栞菜が今はファンタースマになっている事に気が付いたのだろう。

松浦と岬は栞菜の正体に全然気が付かなかった。

杉下は今後一緒に捜査をするうえで役に立つかも知れない。


俺達は改めて自己紹介を交わした。

便宜上俺は警察庁特別捜査官警視正でワイバーンのリーダー、明石は警察庁特別捜査官警視と名乗ると、警部補の松浦、巡査部長の杉下と岬は慌てて立ち上がりびしっと敬礼した。


久しぶりにビシッ!と敬礼されて俺と明石は戸惑ったが、松浦達が敬礼をやめないので、俺と明石は仕方なく立ち上がり答礼をしてやっと皆が席に着いた。


「ところでこの階級は貰い物のような物だから、今後敬礼は不要で行きたいのだが。」


明石が言い、松浦達は頷いた。

明石がちらりと俺を見た。

俺はゴホンと咳払いをして、俺達ワイバーンの細かい説明と今後合同で捜査をする際に注意して欲しい事を告げた。


俺達は人間、ヒューマンと悪鬼、アナザーと死霊、ファンタースマの混成チームである事。

また、アナザーを悪鬼と呼ぶのは俺達の間ではアフリカ系アメリカ人をニガーと呼ぶくらい失礼な事も伝え、今後は人間の事をヒューマン、悪鬼の事をアナザー、死霊の事をファンタースマと呼んで欲しい事を告げた。


「俺は悪鬼と言われ続けてかなり慣れたがそれでもあまり気分が良くないのでな、アナザーと呼んでくれ。」


明石が言うと松浦達が明石を見た。


「あの…明石警視はその…アナザーなんですか?」


岬がおずおずと聞いた。

やれやれ、出向先のメンバーの事をあまり教えられていないようだ。


「その通り、俺はもうアナザーとして400年以上生きている。」

「え、400年以上!」


松浦達が感心した声を上げた。

やれやれ本当に何も知らされずに来たのか…俺はこの先に少し不安を覚えた。

明石がほろ苦い微笑みを浮かべた。


「そう驚くな。

 俺は440歳以上だが、クマのぬいぐるみを着たビクスドール、はなちゃんと言うのだが、彼女は1026歳だ。

 彼女はあのビクスドールを依り代に…まぁ、憑依しているファンタースマだがな。」

「え?それじゃさっきオーダーを取りに来たウエィトレスの女性も…。」


杉下が声を上げた。

なるほど、杉下は依り代に宿ったファンタースマもしっかり識別できる様だ。

明石が杉下に答えた。


「ああ、彼女は生前は加奈という名でな、この前の作戦で殉職し、ファンタースマとなって新しい精巧なボディを手に入れて今ここで働いている。

 勿論アナザー討伐の際は頼れる戦士だな。

 今は栞菜と名乗っている。

 後で紹介しよう。」


俺達は『ひだまり特製イチゴ特盛ショートケーキ』とコーヒーの美味しさに驚いて舌鼓を打つ松浦達に喜朗おじ達を紹介して誰がヒューマンで誰がアナザーか、誰がファンタースマか説明した。


松浦達は茫然とした顔つきになっている。

いちおう、アナザーの存在や人類の側に立つ岩井テレサ達の組織の事の講習は受けているようだが、実際に会って話すとやはり驚いたらしい。


そして俺達は隣の敷地にある巨石についても説明しなければならないと思い、食事を終えた松浦達と隣の敷地に向かった。

倉庫の隣では早くも松浦達が詰める事務所兼宿舎をプレハブでの建設に取り掛かっていた。

俺は倉庫に駐屯しているスコルピオの分隊に挨拶をして巨石に向かう事にした。

だが、身に着けているすべての武器を置いてゆかねばならない。

俺と明石は武装した状態で巨石のエリアに立ち入る事の危険さについて口が酸っぱくなるほど松浦達に説明した。

松浦達は顔を見合わせて、身に着けた武器を倉庫のテーブルに置いた。

松浦達は今、制服警官達に支給されている357マグナムリボルバーでなく、俺達と同じSIGの40口径を携帯していた。

やはり大型のリボルバーでは私服捜査では嵩張ってピストルを携帯している事が丸わかりだからな。


「この先驚く存在に出会うと思うけど、非武装で失礼な事をしなければ全く無害だから敬意を持って接してくれ。」


俺が松浦達にそう言って巨石のエリアに入った。

早速侵入者を嗅ぎつけた巨大な熊と鹿が姿を現した。

松浦達はひっ!と小さく叫んで逃げようとしたのを俺が引き留めた。


俺と明石は巨大な熊と鹿に近寄り、手を伸ばして体を掻いてやった。

熊と鹿は満足した吐息を漏らし、松浦達をじっと見つめると体の向きを変えて森の中に姿を消した。


「あの、吉岡警視正…。」

「ああ、吉岡と呼んでくれれば良いよ。」


杉下が尋ねて俺が答えた。

まだ下の名前で呼び合う程に気を許してはいない。


「あの大きな熊と鹿…いや、熊と鹿に似た生き物ですけど…。」

「杉下君、やっぱり君に判るんだね。

 あれは便宜的にあの姿をしているだけなんだ。

 アナザーなのかファンタースマなのかそれ以外の何かなのか俺にも今は判らない。

 あの存在はこの前俺達が襲撃にあった時、景行…明石でも手こずった敵のアナザーをいとも簡単に蹴散らしたんだ。

 とても君達の武器で何とかなる存在じゃないから、敬意を払って接してくれ。

 そうすれば強力な味方になってくれる。

 そして、これから行くところに巨大な岩が有るけど、その下にも何か凄く大きな存在が眠っているんだ。

 今は静かにまどろんでいるようだけどね。

 神に近い存在らしいんだ。

 だからここの領域には絶対に武装して入らない様に、騒いだり汚したりしない様にして欲しい。

 でなければあの巨大な熊と鹿の姿をした存在は容赦しないし、巨石の下の存在も気を悪くすると思うんだ。」

「はい、心にしっかりと刻みます。」


杉下が答え、松浦と岬も深く頷いた。

結界に一礼して中に入り、巨石を見せると松浦達も何か感じたらしく畏敬の念を眼に浮かべ、そして平和極まりないそよ風が吹く場所に浸ったようだった。


巨石への挨拶を終えて、松浦達は帰って行った。

プレハブの事務所兼宿舎が出来次第引っ越してくるという事だった。

果たして俺達は松浦達とうまく共同捜査が出来るのか、一抹の不安を感じた。

討伐をする時に俺達は命を守らなければならない存在が増えたという事だった。


俺と明石は顔を見合わせてため息をついた。







続く

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