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俺とユキの家が完成し、四郎を復活させてそろそろ1年、そして俺達はASSTFの出向隊員を押し付けられた。



俺の、いや、俺とユキの家と、クラと凛夫婦の家が完成した。


「彩斗、お前とユキはもう婚約をした仲だ。

 したがって新居に初めて入る時はお前がユキをな、お姫様抱っこして入るんだぞ。」


明石にそう言われて俺は皆が見守る中、ユキをお姫様抱っこして、クラ夫婦もクラが凛をお姫様抱っこして家に入った。


皆が拍手して新居をひと通り見て廻った後で爽やかな5月初めの空の下、死霊屋敷横のスペースでバーベキューをした。

始めて明石一家や喜朗おじ、今は栞菜となった加奈を死霊屋敷に呼んでバーベキューをした頃が遠い遠い昔のように感じる。


あの時に比べたら、今はアメリカに行っているジンコの他はクラ、凛、そして四郎と結婚したリリー、小三郎と美々のカップル、ミヒャエルがバーべキューに参加している。


そして今は死霊屋敷からスペースをあけながらも明石一家の家と喜朗おじと栞菜の家、俺とユキの家、クラと凛夫婦の家が、そして死霊屋敷に張り付くように屋内プールとビニールハウスが、大きなガレージが建っている。


ちよっとした優雅なコミュニティのような印象だが、これは俺と明石、四郎、喜朗おじで互いの建物がカバーし合い、本丸の死霊屋敷を防衛する要塞のような造りになっている。


最近よく顔を出すようになった乾が真鈴の横に座ってビール片手に明石達と談笑している。

あれから真鈴と肉体的な事は進んでいないようだが、真鈴はお友達程度に乾と付き合っているようだ。


あれから藤岡は俺達が『ひだまり』のスケベヲタクファンタースマ軍団を総動員してあちこち手を広げて捜索しているがふっつりと消えたかのように手掛かりを失ったままだった。

藤岡の手下の手掛かりもさっぱりだった。


アメリカで月探査に出発するための訓練に入っているジンコから2日に1回ほどテレビ電話が来る。

更に予定が前倒しになり、訓練に密度が増して大変だそうだ。


リリーが圭子さんとチキンを焼きながら話している最中に大きなため息をついた。


「どうしたリリー?」


四郎が尋ねるとリリーが苦い顔をした。


「それがね~ASSTFの奴らから出向で何人か来て捜査を一緒にやる事になったのよ~!」


真鈴が焼き上がってチキンを取り、リリー御自慢のスパイスをふりかけて焼いたチキンの匂いをうっとりと嗅いで話し出した。

確かにリリー自慢のアポイエル族に伝わるチキンスパイスは絶品で良い香りがする。


「確かに藤岡の組織は表向きはほぼ制圧したと発表していたけど、肝心の藤岡を捕まえたり殺害していないからね~。

 藤岡の組織の中枢部は残ったままだし。

 厳密に言えば国民にうその発表していると言う事だから上層部もかなり焦っているんじゃないの?」


真鈴はそう言うと焼き上がったチキンにかぶりついた。


「そうなのよね~!

 こっちは足手まといを押し付けられてやれやれって感じなのよ~!」


リリーが頭をがりがりと掻いた。


「それに小田原要塞にもテレサの邸宅にも、私達のセーフハウスやあのビルの待機所にもあまりあいつらを入れたくないんだよね~。

 テレサはあの通り、あまり秘密は持ちたくないそうだけど、月探査とかの事は今は言えないしね、変に近くを嗅ぎまわって痛くもない腹を探られるのも癪に障るからね。」


俺はまだ奴らがショッカー対策班と名乗っていた時に対策班の捜査員に成りすまして藤岡の組織の者が襲撃してきた時に話した塩田とか言う奴の事を思い出した。


一応ショッカー対策班の現場担当の幹部だったようだが、まさしく無能で人格も低い嫌な奴だった。

あんな奴と組んで仕事をしたくないと、たった数秒話しただけで思った物だ。


「あら?彩斗、塩田とか言う奴のこと思い出してるでしょ。」


リリーがにやにやしながら言った。

やれやれ、アナザーはお見通しだ。


「あ、判る?

 あれは嫌な奴だったよ~。」

「大丈夫よ、奴はひらに降格されたから。」

「え?そうなんだ。」

「かなり上にはへいこら下には強気って奴だったけど、奴はついて行った上司を間違えたみたいね。

 あの件で責任取らされた上の奴にべったりだったのよ。

 それに、かなり他の隊員から嫌われていたみたいでね~。

 今度の新しい現場担当指揮官はまぁ、多少はましかな?

 ところでさ、さっきも言ったけど、ASSTFをあまり私達の中枢に出入りさせたくないのよね~!

 そこで彩斗、テレサやノリッピーから頼まれたんだけどね。

 彩斗達で出向で来た奴らのお守りをしてくれないかな~?」

「…ええ~。」


俺は、他の者達も渋い顔をした。

岩井テレサの小田原要塞や横浜の邸宅に出入りさせるのは色々支障が有るだろうが、俺達だってASSTFの奴らが死霊屋敷に出入りする事は御免だ。

それに、俺達や岩井テレサの組織はASSTFにあまり言えない事もいくつかある。


「ああ、ここに出入りはさせないわよ。

 隣の倉庫をうちの分隊が駐屯できるように改築したでしょ?

 そこからさらに出入口寄りにもう一つ建物を建てるからそこに通ってもらうわ。

 勿論あの巨石の辺りには出入り禁止にすると言う事でね。」


俺達は少し話し合った後で受け入れる事にした。

建物はプレハブで急造し、来週には出向組を3人受け入れる事になった。

やれやれだ。

リリーも肩の荷が下りたようで四郎を乗せて帰って行った。

四郎は今日リリーの家に泊まるそうだ。

俺達は焚火をして酒を飲みながらバーベキューの余韻を楽しんだ。

真鈴が俺の袖を引いて小声で言った。


「彩斗、そろそろなのを覚えている?」 

「え?何がそろそろ?」

「ばかねぇ~!四郎の事よ。」

「四郎?」

「そうよ、あと3日であんたが私を生贄にして四郎を復活させようとした日なのよ。

 もうすぐあれから丸1年よ。」

「ああ、そうか、もう1年になるのか。」


そうだ、ブラック企業で働き将来の夢も希望も無くしていた俺が宝くじを当てて会社をハッピーリタイアをして賃貸物件経営をはじめ、アルゼンチンから四郎、吸血鬼入りの棺を輸入して、マッチングアプリで知り合った真鈴をおびき出して睡眠薬で眠らせて生贄にして四郎を復活させようとしたあの夜からもうすぐ丸々1年だった。


「そうか…あれから色々あったな~。」

「そうね~今こんな事になるなんて、全然思わなかったわ~。」


真鈴がグラスを焚火にかざし、揺らせて一口飲んで呟いた。

確かに。

確かに思いもしない事が次々と起こり、死に物狂いで走り抜けたジェットコースターのような1年だけど、今では何十年も前の様に感じる。

俺は焚火を囲んで談笑している面子を見回し、思い出に浸った。


「色々あったわね…私達、良く生きているわ…彩斗は顔にカッコ良い傷が出来て3回お漏らししたけどね。」

「…真鈴だってこめかみに傷が出来てその所の髪が白くなって2回お漏らしたじゃないか…でも、圭子さんはアナザーになったし、加奈がショットガンで撃たれて、はなちゃんみたいに依り代に宿ったファンタースマになったけど…ともかく俺たち全員そろっているしね…。」

「まぁ、まぁ良しと言う所かな?

 後はこのまま討伐をしても誰も死なないでジンコが無事に月から帰ってきたら…万々歳なんだけどね。」


はなちゃんが真鈴の膝によじ登って来た。


「なんじゃ彩斗と真鈴は昔話じゃの!

 ジンコの事は心配いらんじゃの!

 いざとなったら…まぁ、わらわに任せるじゃの!」


はなちゃんが着ているぬいぐるみのお腹の辺りを叩いた。

変な金属音がしたが俺は気にしなかった。

何か気に入った物でもポケット代わりに入れているのだろう。


「そうね、はなちゃん、いざという時は頼んだわよ!

 彩斗、四郎になにか1周年のお祝いを上げようよ。

 なんたって私と彩斗、四郎はワイバーンの初期の初期、ワイバーンと名前が付く前からの立ち上げメンバーなんだからさ!」

「そうだな!真鈴、何か四郎にプレゼントを上げよう。」

「私、何か良いものを考えるわ!

 彩斗はお金出してね!」


真鈴はちゃっかりと言ったが俺は気持ち良く頷いた。


その後俺達は火の始末をしてそれぞれの家に戻った。


「彩斗、また私を抱っこして家に入って。」


ユキが俺の腕にしなだれながら言った。


「いいよ、これから何度でもしてあげるよ。」


俺はユキをお姫様抱っこして新居に入り、そして愛し合った。


翌日の昼前、ASSTFから出向された3人の捜査官がまず赴任の挨拶という事で死霊屋敷にやって来た。

中年の男が主任の松浦、2人の20代後半の男女、男は杉下、女は岬と名乗った。


俺と明石が玄関で出迎え、辺りを物珍しげに見回す3人をとりあえず『ひだまり』の個室に連れて行って話そうと言う事になった。


そして、『ひだまり』に行き店に入った途端、男の捜査員の杉下が店内を見て顔を青ざめてひぃあああああ!と悲鳴を上げて走って逃げて行った。


どうやら、杉下は俺と同じ『見える』奴なのだろう。


俺と明石は走って逃げる杉下を、何だ!何が起きた!と叫びながら追いかけて行く松浦と岬の後ろ姿を見ながら顔を見合わせてやれやれと被りを振った。





続く



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