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誰も幸せになれない·····

神前裁判の翌日、裁判内容と共に刑が執行された。


星華広場と言われる王宮からほど近い国内最大庭園で神判者は手足を縛られ猿轡をされ、神義者のイシクは手を縛られ猿轡をされ、神義者ヤラは手を縛られた状態で罪状が読み上げられた。


この姿を大陸を回って見せる。

神判者は一日に1枚爪を剥いで虚偽をしたハシャス親子は歯も抜かれる。

何度も虚偽や黙秘をした母親と娘は一日10回の鞭打ちもある。


それでもしっかり治療されるのでそう簡単には死ねない。


カルセドニーに関わった人々も無事ではすまないだろう。

ヤラは2人の殺害に関わっていなかったが、悪意が強く神の庇護を受けるに値しないと破門された。

ハシャス伯爵家使用人も破門はされないがヤラと同様に見られまともな仕事に就けない。


学園でカルセドニーを嘲笑した者も表には出て来れなくなる。


神前裁判が開廷されるとはそういう事だ。


マーサはそれをわかっていても行いたかったのだろう。


ただ愛するカルセドニーの為にーー


マーサが刺されたのを見た時枢機卿が来るまでは持たないだろうと思っていた。

出血が多すぎて数時間持てばいいほうだろうと。

だがマーサは一日命の灯を持たし枢機卿を待った。

マーサの最後の瞳は死にゆく者の瞳ではなかった。


枢機卿に強く訴えかける業火のような瞳。

カルセドニーを想う気持ちは実の母以上でその瞳に呑み込まれそうになった。



本来ならこんな事件は貴族家によくある話だ。

カルセドニーも非は充分にある。

教会が動くことは無い。


それでも神前裁判が開かれたのはマーサの手紙にオニキスが神を恨んだと書いてあったからだ。


裁判ではこの点に触れなかった。


建前では隠す事で貴族の家族に対するあり方を見つめ直すきっかけとなるように、本音は神を愚弄する愚か者に罰を与えねば気が済まなかったがその一点だけで裁判を開いたと思われないように。


教会の人間は狂信者とも言えるほど神ノーダムを崇めている。


それをわかっていてマーサは手紙を書いたのだろう。


彼女は頭のまわる人だった。


カルセドニーを幼い頃から定期的に教会に連れてきて一緒に祈りを捧げ寄付をしていた。


まだ助祭だった私によくカルセドニーの事を相談された。


平民の乳母が出来るのはその程度だ。


だが幼い頃から見てきたので親近感を持たずにはいられなかった。


カルセドニーが歪んでいくのを見て同情もしていた。


アゲートも時々孤児院に来て寄付や子供達と遊んであげているのも見ていた。


マーサの話す印象よりも自分の目で見たアゲートは優しい子だった。


あれを見るまでは―――


まだカルセドニーが10才くらいの時、孤児院の子供たちと遊んでいてルールの事で言い合いになっていた。


喧嘩と呼べるほどでもなく子供だけで解決して、それを成長の糧にできるようにと私は見守っていた。


そこにアゲートが来てカルセドニーに注意していた。


曰く年上なのだから譲ってあげなさい。もう少し優しい言い方をしてあげなさい。と――


言っている内容はおかしくない、表面上は。


孤児院の子たちも自分の味方が来て喜んでいた。


そしてカルセドニーはスカートを握りしめ走ってその場を離れた。


アゲートと遊び始めた子供達を巫女に見守ってもらい、カルセドニーの後を追った。


カルセドニーは馬車どまりの所でマーサに抱きしめられ泣いていた。


それを見てマーサの心配がやっとわかった。


あの程度の言い合いなら自分たちで決着を付けられるのに、アゲートはカルセドニーを注意してあの場の悪者にしたて上げた。


本当に優しい姉ならカルセドニーを追いかけ、どこが駄目だったのかどうしたらいいのか道を指し示す、もしくはあの場でカルセドニーだけを注意せずに両方に注意すべきだった。


アゲートも子供だと言い訳できるがやり方が姑息すぎる。



優しい姉とはいえない振る舞いだ。


それから教会や孤児院に来るアゲートを観察した。


貴族令嬢らしくいつも穏やかに対応している。


妹が心配だと言っているが本当に心配なら皆の前で癇癪をおこした話や失敗談ばかりしないだろう。


教会関係者はその話でカルセドニーの訪問時は警戒し始めた。


そしてカルセドニーもそれを肌で感じ取って教会から間遠になっていった。


意識的なのか無意識なのかわからなかったがアゲートのやり方には嫌悪感しかない。


子供の範疇を超えていた。


まともな精神(・・・・・・)を持っていたら歪むのもわかる。


だが俗世と積極的に関わるのを良しとしない教会の助祭では相談や告解を聞くしかできない。


カルセドニーやアゲートに何も出来ぬまま月日がたち神前裁判にまで及んでしまった。


カルセドニーもマーサも殺され、アゲートたちはその報復をこれから死ぬまで受け続ける。


私は神ノーダムに祈る事しかできない。


彼女達の死後の安寧を―――


序章はこれで終了します。

次回から本章、カルセドニーが過去に戻り自身とマーサが死ぬのを回避するための奮闘が始まります。

※誤字脱字報告ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
「誰も幸せになれない·····」、つまり、ヒロインを陥れて幸せになった者も誰一人としていないと言う訳で。 ある意味自業自得・因果応報だと思いました 更新停滞しているようですが、是非とも続きを書いて欲し…
[一言] とても面白くて続きが楽しみです。
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