罪の告白〜ハシャス伯爵家使用人〜
~ハシャス伯爵家侍女長~
何故私がこんな目に、そう考えてもどうしようもない。
「ヤラ、聖玉に両手で触れなさい。では始めなさい。」
震えながら聖玉に両手をおいた。
「ヤラ、貴女はハシャス伯爵夫人ターリアが結婚した時からハシャス家にいますね。カルセドニーとターリアとの触れ合いを見たことは?」
司祭の言葉に否定しか出てこない。
「ありません」
「カルセドニーとターリアが2人で行動したのを見たことは?」
「ありません。」
「では見たことを話してください。」
「ターリア様は後継当主となるアゲート様の教育には熱心でお二人の触れ合いや外出はありました。
カルセドニー様は一見甘やかされているように見えますが、物を与えていただけで抱き上げたりカルセドニー様と外出したりした事はありません。
カルセドニー様が買い物や散歩に誘っても断っていましたがアゲート様が取り成して3人かバロス様との4人でならありました。
その度カルセドニー様は癇癪をおこしていました。」
「使用人達はどう思ってましたか?」
「カルセドニー様は扱いづらい癇癪持ち、馬鹿だから両親から匙を投げられている、我儘と言われて見下す者もいました。」
「ヤラ、貴女は?」
嘘を吐いたら神の玉に暴かれ罪が重くなる。正直に言うしかなかった。
「···馬鹿な子だと。バロス様やターリア様に何を言ってもしても相手にされないのに、期待して落ち込むのを······笑ってみてい···ました」
「わたくしは母の務めを果たしたわ!」
「よく言うわよ!あんた、カルセドニー様がドレスを一緒に買いに行きたいって言っても忙しいって断っといてアゲート様が自分も一緒に行くからって言ったら行くじゃない!
いつもあんた達がそんなんだからカルセドニー様は愛されてないって、自分はどうでもいいんだってひねくれていったのよ!」
あんな風になったのはあんた達とそれを楽しんでたわたし達の責任だってわかってる!
「小さい頃からなんにもしてあげなかったじゃない!
アゲート様だってそうよ。
カルセドニー様が親の愛情を必死に確認してる時になんで出てきてたのよ。
自分の方が愛されてるって教えたかったの?
勉強大変でもずっと親の関心は自分の方に向いて褒めてもらって、一度も褒められないカルセドニー様を見下したかったの?!」
「そんなつもりないわ!
カルセドニーだって真面目にやれば!」
「教師がいつもあんたとカルセドニー様を比較して貶されて真面目にやれるわけないじゃない!」
わたしだって同じようになるわよ。
「カルセドニー殺害に関与しましたか?」
「何も知りませんでした。
その夜は使用人部屋から出ないように言われていたので。」
「終了します。」
その場に崩れ落ちた私を教会騎士に支えられ退室した。
さらけ出せば自分がどんなに酷い態度でカルセドニー様に仕えていたか嫌でもわかった。
後悔したって今更なのにーー
~ハシャス伯爵家執事長~
私は何もしていない。
そうだ、何もしなかった。
両手を聖玉に置いて何度も呟いた。
「イシク・リーセ、ハシャス伯爵家で30年働いていますね。
見たままを話して下さい。」
唾を飲み込みなんとか声をだした。
「バロス様、ターリア様はアゲート様が幼い頃から聡明である事を誇りに思い教育に熱心でした。出来れば褒めて物も与えていました。
カルセドニー様には物は与えていましたが、興味が無く我儘を聞いていましたが、自分達の愛情や時間をカルセドニー様には与えていませんでした。」
「アゲートはカルセドニーに対してどうでしたか?」
「アゲート様はカルセドニー様に優しい良い姉と言われてます。」
嘘じゃない。そう見えてもいた。
「イシクから見てどう感じましたか?」
もう終わりにしたい!
「···良い姉のフリが上手いと思っていました。妹の我儘を聞くと見せかけるのが、それを周囲にそう思わせる言葉選びが。」
「イシクはカルセドニーをどう思っていました?」
「······」
「どう思っていたか言ってください。」
「···どうとも。関心がありませんでした。」
「あれだけ我儘や癇癪をおこしていて?」
もう逃げ出したい。取り繕って言いたい。
聖玉に手をおいている限りできないとわかっていてもそう思わずにはいられなかった。
「所詮アゲート様の引き立て役でしかありませんから。
婚約破棄の件もアゲート様の望み通りでコーネル伯爵家の弱みを握ったとバロス様が言っているのを聞いた時は役にたったと思っただけです。」
「ジャスパーが邸に来た時の事を教えて下さい。」
嫌だ、言いたくない!
「黙秘は出来ません。教えて下さい。」
「···あの日ジャスパー様がカルセドニー様に会わせろとハシャス家に来ました。
服はよれて髪は整えておらず目が異様に見開いていました。
バロス様にそのまま伝えましたが、ジャスパー様を応接間に通し騎士や侍女を付けずにカルセドニー様を呼べと命じられました。」
「嘘を吐くな!」
「イシクは嘘を吐いていません。続けなさい。」
バロスの叫びに枢機卿が否定した。
嘘を吐けるなら吐きたい。
「カルセドニー様を呼び応接間に入るのを躊躇っていましたがジャスパーに見つかり首を締められていました。
バロス様に報告しても『そうか』と言われターリア様もアゲート様も知っていて何もしませんでした。」
早く終わらせたい一心で話した。
「ジャスパー様に短剣を渡して自殺するよう仕向けたのはバロス様です。
マーサも余計な真似をしたのでオニキス様と共謀して殺しました。」
全て話した、だから解放してくれ!
「終了します。」