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マーサの復讐

私マーサがジャスパー様に突き飛ばされ意識を失ってから気付くまで半日経っておりました。


目覚めたのは使用人部屋の自分のベッドでこざいました。


そしてお嬢様の死を知ったのです。


お嬢様の死は当主に無断でジャスパー様を邸に引き入れ痴情のもつれで殺されたとなっておりました。


止めに入った私をジャスパーが突き飛ばした、そこだけは真実で誰かが見ていたのだと知りました。


だってジャスパー様はお嬢様を殺して自分も首を切って自害なさったのですもの。


私に何をしたかなど言える訳がありません。


私が起きたと知った当主は執務室に呼びました。


私が部屋に入ると当主、夫人、オニキスがいました。


「カルセドニーは残念だった。だがアレは自分自身が招いた結果(・・・・・・・・・・)だ。そうだな、マーサ。」


当主の発言に返事を返さず別の事を聞きました。


これ(・・)は誰の画策でしょう。」


当主は己の聞いた事に返答せずに聞き返した私に不快感をしめされました。


答えたのはオニキスです。


「何を画策したって?カルセドニーがジャスパーを邸に呼んだんだよ。」


「左様にございますか。」


ただの確認です。

皆が共犯者なのでしょう。


姉の婚約者と不貞をおかし、姉を貴族の前で辱めた娘を当主が始末する。


貴族の世界では当たり前に行われています。


「カルセドニー様の葬儀が終わり次第、私は郷里に帰らせて頂きます。」


もうここにいる意味はありません。


葬儀は身内だけで行われました。


教会の司祭様が来られて祈りを捧げております。


お嬢様は純白のドレスに包まれてまるで眠っているようでした。


花を捧げる時に当主夫人とアゲートがお嬢様の柩に縋り泣いておりました。


愚かな娘(妹)を持ち、それでも見捨てず最後まで愛した家族として振る舞いたいのでしょう。


けれどお嬢様自身に触れる事は終ぞありませんでした。


私も花を捧げお嬢様の冷たい頬に触れ本当にお亡くなりになったのだと実感致しました。


そしてその場を離れ助祭様に手紙を渡して部屋に戻り、荷造りをして葬送には出ませんでした。


当主等が帰ってきたので暇乞いをし邸から出ていく時にアゲートが私の元へ来て手を取り泣きながら今までのお礼を言ってきたのです。


「カルセドニーが今までお世話になったわ。

あの子の死を自分のせいにしたりしないで、元気に暮らしてね。」


私が何の反応もしないので訝しく思ったようです。


「どうしたの?」


「アゲートお嬢様はジャスパー様が来られているのを知っていましたか?」


アゲートはゆっくりと瞬きし悲しげに首を振りました。


「いいえ、あんな夜に来ているなんて知らなかったわ。ましてやあの子がーー」


「では結構です。さようなら。」


この女の一人芝居に付き合うつもりはないので遮って一番近くの教会に向かい、書きそびれた事を手紙に記して助祭様に渡しました。


いつも寄付をしていた教会の隣にある孤児院に数日泊まらせて頂き、夜も更けてからお嬢様の墓所に向かいました。


ハシャス伯爵家の墓所に新しい華石が置かれておりました。


貴族は死ねば生まれた時に授けられる華を石に彫ります。


お嬢様の華は百合でございました。


婚姻のドレスに自身の華を刺繍し、そのドレスを着るのが貴族女性の憧れでお嬢様も例に漏れず百合の華を刺繍したドレスに憧れておりました。


夫となる殿方よりもドレスの方が大事だった愚かなお嬢様。


私の大切な愛するお嬢様。


あのような家に生まれなければ愚かでも幸せになれたかもしれないのに。


私はお嬢様の為にそして自分の為にやっと泣けました。


愛らしく我儘で癇癪持ちでしたが、私にだけはお説教しても不貞腐れていましたが暴れたりせず聞いて下さいました。


そんなお嬢様が愛おしく、生まれてすぐに死んだ息子の悲しみを癒してくれ、実の娘のように思っておりました。


首になってお嬢様から離される事を恐れ見守るだけの私も愚か者でした。


幼い頃は素直だったお嬢様が少しずつ歪んでいっても、諭すだけでは救えないとわかっていても、どうすればいいのかわからなかった矮小な人間でした。


後ろから人が近付いてきても気にせずに泣き続け胸に痛みを感じても振り返りませんでした。


「おばさんが刺されたー!!」


子供の大声に刺した人物が驚いたのが剣の振動で伝わってきました。


この時間にこんな場所で子供が居るなど思わなかったのでしょう。


私が雇った孤児院の子供達です。

きっと真実を知る私を殺しに来るとわかっていましたからね。


刺した人物は剣を抜きもせずに逃げたようです。


誰かが墓所に来たら助祭様にここに来て下さるよう子供達にお願いしていたので、差程待たずに助祭様と司祭様まで来て下さりました。


「誰に刺されたのです?!」


そんな事はどうでもいいのです。


「神前裁判をっっ、カル、、二ー様、家族、ぐっ···殺さっ、お願い···ますっ」


「枢機卿にお知らせしろ!

ご婦人、枢機卿が来られるまで命の火を絶やしてはなりません!」


当然です。

あの腐った連中に地獄を見せるまでは死んでなるものですか!

お嬢様一人が悪者になるなど許さない。


お嬢様に罪があるならお嬢様に関わった者も罪があるのですから。


それを明らかにできる唯一の方法を手放しはしない。


枢機卿様がこの領地におられるからこそ今日という日を選んだのですから。


神前裁判を申請し枢機卿様(・・・・)司祭様(・・・)が命の灯が消えゆくのに立ち会い、神に告げるに値するか否かを調べるのに必要なのです。


神告内容は既に手紙で渡してあります。


神前裁判が開かれればお嬢様だけが愚か者ではない事が白日のもとにさらされる。


彼らがお嬢様を本当に家族として接していた(・・・・・・・・・・)なら無実になる筈ですがそうはならないでしょう。


私は次の日に枢機卿様が来るまでどうにか生きられました。


もう言葉が話せませんが目で訴えました。


枢機卿様と司祭様が何か言っておりましたが、もう耳も聞こえにくくなっております。


枢機卿様が私の手を握り頷いて下さったのを見て私は安心してお嬢様の後を追いました――


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