婚約破棄
婚約破棄される女性っていい人ばかりなの?から書いて見ました。
序章は救いがありませんのでご注意下さい。
姉の婚約者であるジャスパーが婚約破棄を行ったのは、貴族学院の学園祭最後のパーティーの途中。
「アゲート、お前のような冷たい陰気な女と結婚するなど耐えられん。婚約を破棄する!」
会場のど真ん中で私の腰を抱き大声で宣言した。
「承知致しました。ではその旨お父様に伝えますわ。」
アゲートは悔しがるでもなく、日常の連絡事項を受け取ったように淡々と答え会場を後にした。
「愛しいカルセドニー、ダンスを踊ってくれますか。」
姉の態度に鼻白んだが、ジャスパーの私を愛おしむ瞳にどうでもよくなり彼の手をとって踊る。
周りが白い目で見ている事もこの後に待つ破滅も知らずにーー
次の日の朝食でお父様は私とアゲートに婚約を破棄したと伝えてきた。
「新たにアゲートはオニキスとカルセドニーはジャスパーと婚約する事になった。」
お父様は私を睨みつけ、お母様は眉間に皺を寄せこめかみを抑えていたが気にならなかった。
「じゃあ、私がジャスパーと結婚できるのね!」
嬉しさのあまり声が弾んでしまう。
「お姉様ごめんなさいね。婚約者と次期後継当主の座を奪ってしまって。」
私の嘲笑う言葉にアゲートは呆れたように言う。
「何故貴女が後継当主になるのよ。」
「後継者教育も受けていないお前がなれる訳がないだろう。」
お父様も下らないと私の発言を一蹴した。
「だってジャスパーが当主代理になるから···」
だからジャスパーと結婚する人が後継当主となるんじゃないの?
「アゲートと結婚する者が当主代理となるんだ。
そんな事もわからん愚か者だったとは。」
「甘やかしすぎたのね。もっと厳しく育てるべきだったわ。」
「全くだ。教育を間違えた。」
両親の私を見る冷たい目に、叫びたくなるのを堪える為に俯きスカートを強く握りしめた。
次男のジャスパーと結婚なんかしたら私は平民になる。
「アゲート、もうすぐオニキスが迎えに来るから準備して来なさい。」
お父様の言葉にハッとなった。
オニキス!
オニキスならこの婚約を覆してくれるかもしれない。
私との婚約が無くなるのを嫌がってお父様に私と結婚したいと言ってくれるかも!
まだ希望がある!!
アゲートを学園に行くのに迎えに来たオニキスを見て私は彼の胸に飛び込んだ。
「オニキス!会いたかったわ。私が本当に愛してるのは貴方なの。
オニキスも私を愛してるわよね。」
だから私と別れたくないと言って!
一縷の望みを賭けてオニキスを潤んだ瞳で見つめる。
そんな私を彼は石ころでも見るような目で見て、自分から乱暴に引き剥がした。
よろけて倒れた私を気遣ってくれたのは乳母のマーサだけだった。
「お嬢様!大丈夫ですか。」
マーサは私を起こしてくれ怪我がないか心配してくれた。
他の使用人は転んだ私を見て嘲笑っている。
私は屈辱に嗤う使用人を睨んだが誰も嗤うのを止めない。
アゲートがオニキスにエスコートされてこちらに来た。
「ほら立ちなさい。」
アゲートは私に手を差し出したが振り払った。
「いい気味だと思ってるんでしょ!
馬鹿にしないで!」
アゲートを睨みつけると少し悲しそうな顔をして差し出した手を胸元で握りこんでいた。
その手をオニキスが優しく包んだ。
私には1度もそんな態度はしなかった癖に!
「アゲート、放っておこう。遅刻してしまうよ。」
私に冷たい目を見せた後アゲートを愛おしそうに見つめる。
一部始終を鑑賞していた使用人は耐えられないように吹き出していた。
私は体が震えるのを止めることができなかった。
マーサが私の肩を慰撫するように擦り吹き出した使用人を叱責してくれた。
「仕事もせずに何をしているの。さっさと持ち場に戻りなさい!」
ホールにいた使用人は白けた顔で出ていった。
「さ、お嬢様。
1度お部屋に戻りましょう。」
マーサに支えられ自室に戻った。
制服の埃を払い髪を整えてくれる。
「お嬢様、学園に行けば昨日の婚約破棄の噂で持ち切りになっていると思います。
ですが肯定しても否定してもいけません。
何を言われても耐えなければなりません。
わかりましたね。」
幼子を諭すような言い方に私はカッとなった。
「どうしてよ!アゲートはジャスパーを好きでもなんでもなかったのよ!
だから婚約破棄されたのに!!」
マーサは悲しそうに微笑んだ。
どうしてそんな顔をするのよ。
「それでもパーティで婚約破棄をした事でアゲートお嬢様は同情され、ジャスパー様とお嬢様は不貞をした愚か者と言われるでしょう。
貴族の婚姻は家同士の契約です。
それにアゲートお嬢様は婚約者の役目を一応全うしていましたし、お嬢様はオニキス様よりジャスパー様と仲良くしていたでしょう。
今日から味わう全ては愚行をおかしたお嬢様に対する罰です。」
マーサの言っている事は事実だ。
他の人が言ったなら私は怒鳴り散らして暴れたけど、マーサの言葉だけは落ち着いて聞ける。
「どんなに腹が立っても反省した態度を見せ、それを笑われても反応してはいけません。
普通ならあんな風に婚約破棄されれば傷物とされまともな縁談は望めなくなります。
今のお嬢様は世間から見たら悪女にしか見られません。
それを心に留め置いてください。」
マーサはいつも私にオニキスが婚約者だからとかジャスパーとは距離を置くようにとか言われてた。
でもオニキスには婚約した時から嫌悪感しかなかった。
そんなオニキスに媚びたくないけど他にどうすればいいかわからない。
今はマーサの言う通りにするしかない。