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兜頭

作者: たかぴょん


 蟻は賢い

 無数の煙突から排泄しているオキシダントの下

 眩んだ目と大きな兜頭でつんのめって登っている

 よく坂道を転げ落ちる夢を見た

 きっと蟻の呪いだ



 あの頃僕は路頭に迷っていた

 今日も日雇い白バスは寿司詰め状態

 待合い場所の万世橋前を寡黙にして通過

 年期が入った黄色い鞄に、大手町であさったサンドイッチが入っていた

 ふと、眉の白い五十男はいい口があると耳打ちしてくる


 壱頭で半日分

 拾頭で一週間分


 だいだい色をした豚を鉄枠に縛り

 こん棒で眉間を割り

 最後にのこぎりで首を落とす

 この社会もとさつ場みたいなものだが、一日だけ返事を待ってもらった




 考えながら、日比谷公園を通り過ぎる

 図書館の駐車場で黒い粒がうごめいていた

 蟻の大群だった

 頭を切られたトンボがもだえている

 右の羽根はもっか運搬途中

 左の羽根はどうにか胴体にくっ付いていた

 だが兜頭をさせた蟻が真っ先に、羽根もがきに掛かる

 無数の蟻たちもその命に従った

 そんな衝撃的なショットを街灯は黙って見つめていた

 そう、もう陽は沈んだ

 蟻は闇と同化しながら、喰う手だてをついばんでいる

 トンボ一匹で3日は食べて行ける

 羽根のないトンボ

 彼は死んで、その自尊心を証明した




 奇跡が吹いた

 ひんやりした夜風がそよぐと

 突然トンボの尻尾は動き出した

 最後の遺言を振り絞るかのように

 中枢神経と惜別した頭なしトンボは

 ただ霊魂の下部となり

頭が無くても、断末魔のダンスを踊ったのだ

果たして豚も一撃で処理出来るものだろうか

うまいように言っていたが、一回ぐらいでは気絶しない豚もいるはずだ

 僕は殺してしまったんだ

 吊し上げた機械を壊し

彼はもだえながら血を抜かれるだろう

あのトンボのように、跳ね上がるに違いない

やらなければ飢え死にするのならば仕方がない

それは蟻も僕も同じだ




とさつ場を流れる血の川からは死臭が漂っていた

排煙からはあらゆる生臭い嫌悪

蟻は扱いづらい

 ただその下を兜頭は働いていた

黙って、ただ黙って、口を閉じて





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― 新着の感想 ―
[一言] 表現やオチがぼくの好きなタイプでした! 真似出来ないので尊敬します!
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