ボロアパート19
とりあえず、父親の何となくの居場所と事件の内容は調べられた。
まさか、彼女がこんな辛い経験をしていたなんて。
細かく記事を読んでわかったのは、彼女自身も怪我をして気を失っている間に茜ちゃんが亡くなってしまった事だった。
きっと優しい彼女の事だ。自分を責めてしまっているんだろう。やはりあの涙は茜ちゃんの為に流してたんだな。
…僕にはどれだけ辛いのか、想像する事しか出来ない。彼女の悲しみを一緒に背負えるだろうか?
自分の無力さに愕然とする。
「僕には何が出来るんだろう…。」
ふと、外を見て気づく。
もうだいぶ暗くなってきた。
今日は彼女が帰ってくる日のはずだ。
「18時頃に戻るって話だったのに。遅いな。」
2日?…3日ぶりかな?早く彼女を見たい。
彼が部屋へ戻る1時間ほど前。
「予定より少し早く帰って来られて良かった。」
家へ入り、荷物を片付ける。
「よしっと。食料品の買い物に行かなくちゃ。」
彼女は部屋へすでに戻り、外出していた。
「どうしたんだろ…。」
心配になった僕は、つけていた電気を消して彼女の部屋を覗こうとした…その時!
ガンッ!
頭を何か硬いもので殴られた。
「なんでこんな…。」
薄れる意識の中、茜ちゃんのあの目が僕を見ていた気がした。
次に目が覚めた時、まず目に入ったのは病院の天井だった。
「え?ここは…?」
「目が…覚めたの?」
声のする方を向くと母親が泣いている。
「なんで母さんがここにいるんだ?」
「…良かった!もう目が覚めないかと思って…。今、先生を呼んでくるわね。」
母が病室を出て行く。
僕は、自分の状況が全くわからない。
医者によると、僕はあの日頭を怪我した状態で気を失って倒れていたらしい。
ガラスの割れる音に驚いて大家さんが駆けつけたそうだ。
そして今、目が覚めるまで数ヶ月かかったそうだ。
「は?えっ!?今って何月何日?僕はどのくらい寝てたの?」
「今日は9月28日よ。貴方は3ヶ月近くも眠ったままだったの…。」母が泣きながら教えてくれる。
「ちょっと待てよ?え?3ヶ月!?」
彼女はどうなったんだ?茜ちゃんは?
僕は居ても立っても居られず、早く退院させろと喚いた。だが、こんな状態で帰らせてもらえる訳もなく大人しくしているしかなかった。
その日の夕方のニュースで、僕はまた驚く事になる。
『たった今、入ったニュースです。
今日昼頃、傷害致死罪で収監されていた受刑者が突然苦しみ出し、先程死亡が確認されたとの事です。』