飛べないとダメ?(2)
なし崩しに推進機の話になりそうです。でも、ぼくにはそもそもの疑問がなくもありません。
「どうしても飛行できないとダメなんですか?」
「ダメなの」
『実用性も主眼において研究開発を行っております。稼動範囲が地上だけというのは流れに反するのではございませんでしょうか?』
そこは理解できるんですよ。
「でも、現状できあがった機体でもギナの希望には叶っているんでしょう? これを雛形にして兵器として運用可能にするのは軍の研究部門に任せてもいいと思うんです」
『ギナ様より高度な技術が開発できるとは思いません』
「同意します。けど、ファトラ、できあがったヒュノスは兵器として扱われるんですよ? ギナを兵器開発者にしたいんですか?」
僅かな間が空いたのは彼女の人工知能としての逡巡でしょう。
『申し訳ございませんでした、レリ様。短慮でした』
『うむ、大事な決定は主に従うべきだぞ、ファトラ』
『出すぎました。反省しています、ラノス』
人工知能はサポートシステム。主人を賛美するのもいいんですが、行きすぎれば諫めることを忘れてしまいがちです。
「いいの。もし、人を模したものが兵器としてしか価値のない物だったら、それはギナの責任なの」
彼女は真剣な面持ちになりました。
「でも、人型であることは色んな意味があると思うの。秘める可能性の発掘は誰かに任せるの」
「そんなふうに考えていたんですか。では、ぼくやファトラたちが口を挟むべきではありませんね」
「運用は限定したくないの。だから、なんでもできるロボットにしたかったの」
用途を定めないために汎用性を高める強度や駆動力、実用性の高い構造に注力していたようです。ギナがただの天才ではないと感じるのはそんなところですね。
「研究所には大量生産する能力はないの。民間に権利を譲れば技術を悪用されるかもしれないの。でも、軍の研究部門なら私的流用はせずに実証拡散してくれるの」
彼女の中には深い思慮があったようです。
「つまり、兵器として人類を守れる道具になるなら構わない。それ以上の価値が見いだされるならなお良しということですね」
「だから、完成品として渡したいの。じゃないと、きっと後悔するの」
「ええ、君が正しいとぼくは思いますよ」
ギナを満面の笑みにできました。
彼女が全力を投入した人を模したものというロボットは未来にどんな使い方をされているのでしょうか? 人類が正しい道を歩むために運用されているのを望みます。
『な、ファトラ。我らは主を助けるだけでよい。創造主たる人類には正しき未来を作る力があるのだ』
『親しき隣人であり友であり従者であれば良いのですね』
ぼくたちの親しき隣人も正しい進化を遂げているようです。いつか彼らにも……。




