リズヴァーン 4
《リズヴァーン18歳》
18歳の秋、サリフォル伯爵に頼まれて、キャスティーヌの夜会デビューのエスコートを務めることとなった。
アルバートがエスコートを楽しみにしていたのだが、伯爵が、ギリギリ夜会に間に合わない日程で、祖父母の元へと使いを頼み、阻止をしたのだ。
アルバートがキャスティーヌをこよなく可愛がっていることは(シスコンなのは)周知の事実なのだが、せめて初めての夜会くらいは、アルバート以外にエスコートをさせたいと、頭を下げられたのだ。
キャスティーヌも成人して、夜会デビューなのだが、正直に言って苦手だ。
いつも物陰からじっと見るだけで、話しかけても来なければ、視線も合わせない。
特にここ一二年は熱のこもった目で、じっと見るのだ。
アルバートの妹だから、他の令嬢みたいに邪険には扱わないけれど、視線の鬱陶しさにはいい加減イラつくことがある。
夜会でエスコートしていても、ろくに会話にならないし、ちらちら見るだけで察しろと言う感じが、頭にくる。
アルバート…流石に甘やかしすぎだぞ。
そのうえあろうことか、ダンス中に気を失って倒れてしまった。
駆け寄ってきた彼女の友人に任せて帰ろうかと思ったけれど、そんなことをすればアルバートに愛想を尽かされるだろう。
俺は渋々彼女を送り届けたのだ。
しかし、その日から彼女は変わった。
思ったことをハキハキと口に出し、表情もくるくる変わる。
逆に顔に出過ぎで思っていることが丸わかりだ。
成人した令嬢としてどうなのかとも思うけれど、以前より全然マシだ。
何より、しっかりと目を見て話をするのは、好ましくあるかもしれない。
しかも、その視線は以前のような熱はなく、さらりとしている。
心境の変化があったのだろうか。
口調もたまにおかしくなるし、周りに人影がないと、貴族としてどうなのか?と言う言葉遣いや表情をする。
見ていて面白い。
そのうえ、まるで同性といるような気軽さから、愚痴を零してしまったりもした。
その愚痴に対する答えも、令嬢のものとは思えないものだったりするのが、不思議だ。
俺もアルバートもいずれは家のためにも結婚をしなければならない。
その相手に彼女はいいかもしれないと思うようになった。
何より両親の大のお気に入りなのだから。
そのうえアルバートとの縁も切れないのだから、とてもいい考えのような気がしてきた。
だから冬に領地へ戻ったときに、儀式の相手を頼まれた時も、嫌だと思えずに受けることにした。
始めこそ黙って身を任せていたのに、次第に眉間にシワがより、反応もおかしくなっていったキャスティーヌ。
「おぉおう!ちょっ、待て!
待て待て待て待て!
いや、そんなことしなくてよくない?
え?マジでそんなことすんの?
ナイワー、マジ勘弁して!
いや、そこダメだから!
一旦落ち着け!
いやいやいやいや、何度する気だよ!!」
………変である。
なんだろう、だんだんこちらも遊んでいる気になってきて、ついつい面白おかしく一晩を過ごしてしまった。
儀式後も、何事も無かったように平然としていたけれど、俺が視界から消えると、
「よし、今まで通り!セーフ!」
など、呟きながらガッツポーズをしていたのを、俺は見逃さなかった。
なんだろう、あの子最近おかしくないか?
アルバートは
「最近のキャシーは元気で明るくて、今まで以上に可愛い」
としか言わない。
両親に聞いても、
「キャスティーヌちゃんはいつも可愛いじゃない、何かおかしいところがあるかしら?」
など本気で言っている。
変わった言動を見るのは俺だけのようだ。
他にどんな行動をとるのか、興味が引かれる。
でもそれはあくまで、女性としてではなく、おもちゃ感覚でしかない。
……そう思っていた。




