よくある話ですまない
ワタクシ、サリフォル伯爵家の長女、キャスティーヌ・サリフォル、今年16歳で成人を迎えますわ。
他所の国は存じませんが、我が国コルスタニルでは、王族との縁談も持ちかけられることもありますの。
頼もしい父と優しい母、二つ上のお兄様との四人家族ですわ。
家の者とも良好な関係で、14歳から通っている王立学園でも仲の良いお友達も居ますし、とても素敵な日々を送っています。
それなのに、私は主役じゃないのです。
この世界の主役は私のお友達の、クリスティーナ・ヨルハイム子爵令嬢ですの。
…………って、あーこんなお嬢喋り?なんてやってられるかよ!
だって中身アラサーのお兄さんなんだよ?
……29歳はオジサンじゃない、断じてオジサンじゃない!
いや、自分も高校くらいの頃は
「はー?何が29、もう30でいいじゃん!
学生終わったら皆オッサンじゃん!」
とか思ってたよ?
でも二十代はオッサンじゃない!
はー はー はー……いや、落ち着け俺、今はそんなこと置いとくんだ。
とにかく現状確認しないとな。
俺は今16歳の女の子、しかも伯爵令嬢、JK……いや、女子学生だからJG?ゴロ悪いな。
この世界は16歳が成人で、大人として社交界デビューの夜会へ行ったのが昨日。
勧められるままシャンパン飲んで、兄の友のご令息とダンス中、気持ちが悪くなって意識が遠のき倒れてしまった。
そして今、自分の部屋のベッドの上だ。
気を失った理由?
凶器で締め付けられたところに、初めて飲むアルコールで血行の良くなったところ、憧れの方と手を取りてダンスを。
そこでさらに血圧上がってバタンキュー。
そう、あの女性の凶器……コルセットだよ!
しかも今夜が社交界デビューとあって、お付きのメイドが張り切って締め上げたもんだから……。
憧れの人の腕の中に倒れ込みながら、薄れていく意識の中、最後に目にしたのは青い顔をして走り寄ってくる、大の仲良しのクリスティーナ。
うん、シナリオ通りだわ。
はっきりと思い出したよ、ここって姉貴がシナリオ書いた乙女ゲームの世界だわ。
俺の前世は29歳の社会人……と言えないかな。
イラストレーターの雛ってところかな。
仲間内の同人ゲームや同人誌などで依頼を受けたり、カードゲームの絵やら、ソシャゲのキャラも数回受けたこともある。
けれどどれも単発なので、それだけじゃあ食っていけなくて、深夜のコンビニバイトをしたりしてる。
胸を張って社会人とは言えないけど、納税はキチンとしているよ。
うちは姉貴もオタク気質で結婚もせず、小説家として(こっちは書籍も沢山出している)生活している。
姉弟揃ってこんなのだから、親も煩く言わないんだよね。
そんな姉貴が初めてゲームのシナリオを手掛けて、伝手で俺もキャライラストを一人手掛けたわけだ。
女性向けの乙女ゲームで、王立学園に通う子爵令嬢のクリスティーナが主役の恋愛シュミレーション。
攻略対象は、同じ学園に通う第二王子、辺境伯の跡取り、大神官の息子、大商人の跡取り、遠い国から来た留学生、護衛騎士、教師、用務員、隠しキャラ、友達の兄の十人。
そんなヒロインの友達が俺だ。
しかしまあ、教師とか用務員って……。
俺はそのヒロインの友達兼、恋のキューピットポジ。
明るくてちょっと天然の入った気のいいやつ。
天然のせいでカラ回ることもアリ。
そして俺がデザインしたキャラなのだ。
小柄でヒロインが学園に来るまでは、割と虐められてたキャラ。
ヒロインが庇ってくれたのがきっかけで仲良くなる……と言うか懐く。
ヒロインがプレイヤーに嫌われない要素の一つとして、【バストが少し寂しいのが悩みの種】とか言う設定があるため、俺のデザインしたこの娘は、ちび巨乳だ。
虐められた理由の大半がそのせいなのだが。
とにかく、今までキャスティーヌとして生きてきた記憶、周りの人達、世界事情からして、この世界はゲームの世界だ。
その世界に転生してきた俺……ラノベで『ハイハイもういいよ』ってくらいありふれた話だね。
そしてなぜいきなり今、前世を思い出したかって言う理由もわかった。
俺前世で窒息死してたんだよね……。
姉貴から出来上がったと送られてきたゲームを、パソコンにセットしてプレイしながら酒飲んでたんだよ。
その日はバイトも休みだったし、納期の近いイラストも無いしで、できるなら一周はクリアしてみようと進めてたら……。
いやいやいやいや待て!ちょっと待て!
ヤバイだろ!ってパッケージ見たら、見落としてたよ18禁!
なる程ね、キャラデザで下着のデザインまでさせられたわけだ!
しかも攻略キャラボイス付き、しかも『そんなシーン』フルボイス!
誰得だよ!あ、女性ユーザー得ね!
しかも初回プレイスキップ無し!
囁くイケボ、甘ーい、甘〜〜〜い!
この苦行いつまで続く?
うわ〜とか思いながら焼酎飲みつつ大福食ってたワケよ。
え?酒に大福?
甘党ですがなにか?
そしてお察しの通り、喉につまらせました。
苦しくてのたうち回る俺の視界に最後に映ったのは、蕩ける様な甘い表情の第二王子でしたとさ。
どうせならヒロインのイ………うん、ハッキリいうのはやめておこう。
前世、酒餅コンボの窒息死、そして今回は、酒コルセットの窒息死寸前。
うん、もう酒は飲まんわ。