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僕の目から見た『魅了使い』・モブ視点

モブ視点でフィアルカを描写してみたくて書き始めたら、書きやすすぎて長くなった……特に前置きが。

メインの時間軸は、本編中からその後一ヶ月くらいの話になります。

「聞いてくださるんですね!? よかった! 五年前のことは、誰に話しても信じてもらえそうになかったけど、モルド様ならきっと信じてくれますよね!」


 そう言ってこちらに笑いかけるフィアルカ嬢は、僕が生きてきた十六年間で見た誰よりも可愛らしく、思わず抱きしめたくなるほどの魅力を放っていた。──まあ後者は、『魅了』されてる男なら、っていう条件つきだけどね。




 こんにちは。僕の名前はモルド・ブラウン、略してモブ。

 ……いや冗談です。自称したり陰で言われるだけならともかく、面と向かってモブ呼ばわりされたら、いくら僕でもちょっと泣くかもしれない。

 ならわざわざ言うな? ごもっともですごめんなさい。


 まあ実際、僕個人もブラウン家も、わりとモブな立ち位置なんだけどね。

 一応ブラウン家は伯爵の地位を賜っているけど、はっきり言って地味。領地の産業も特筆すべきものはなく、あえて言うならば、豊かかつ広大な大地が生み出す農作物が自慢かな、くらいで。それでも目新しかったりこれが特別に美味! なんてものはないのでやっぱり地味。仮にうちの領地で飢饉でも起きようものなら、国の二割……は言い過ぎとしても、それに近い範囲で食糧危機に陥るんじゃないかなあ、ってレベルの生産量だったりはするけれど。

 ちなみに代々の当主は、王宮で文書監理局の局長という地位についている。公文書等の保存や作成を主に担当していて、局長は王宮図書館長も兼任しており、政務や教育分野なんかには欠かせない大事な機能を担う部署を統括しているのだ。地味だけど。


 そんな家に生まれた子女は、分かりやすく文官や研究者といった方面に進むか、領地で農業に熱意を注ぐかの二択で、五男で末っ子の僕は前者。今年入学した王立学園では図書委員をしている。カウンター業務や図書整理に勤しむ、茶色(ブラウン)の髪に眼鏡をかけた地味な男子生徒、って言えば、分かってくれる人もそれなりにいるんじゃないかな。多分。きっと。


 この通り、とにかく地味な僕だけど、いくつか他人にはない特徴はある。書物というか書かれた(描かれた)もの限定の瞬間記憶能力とか。あらゆる無生物をフレッシュな状態で半永久的に維持できる保存魔法や、細菌レベルの細かいものまで網羅できる分析魔法が大の得意だとか。母方の従姉がアルヴェシオン公爵家のリアンナ様だとか。

 ……え? 最後のは明らかに嘘だろうって? 失礼な。れっきとした事実です、これでも。

 僕の母は長女で、リアンナ様の母君の公爵夫人は一回り以上違う次女と、年も今の地位も住んでる場所も離れてるけど、女きょうだいはお互いだけということもあって仲はとても良い。公爵夫人が物心つく前におばあ様が亡くなり、それからの十年弱は、嫁ぐまでの僕の母が代わりに妹を育てたのだそうだ。僕の家と母の実家は領地が隣同士で、今でこそ回数は減ったものの、弟妹たちが成人するまでは結構な頻度で里帰りをしていたとか。何だかんだと母に惚れ込んでいる父なので、そのあたりは寛大なんだよね、今も。

 ……実は義弟である公爵様にも、『何でしたら義姉(あね)ではなくて義母(はは)とお呼びくださってもかまいませんのよ』なんて言い放ったあたり、我が母ながら凄いなあと思う。


 ともあれそんな繋がりで、兄弟の中でもリアンナ様と年の近い僕は、公爵家を訪問した時には、彼女と交流を持つ機会がよくあった。

 勿論、僕だけじゃなくて兄たちも一緒にお邪魔していたけど、僕は本さえあれば大人しいし、リアンナ様はリアンナ様で幼い頃から非常に賢く大人びており、お付きの侍女たちも乳母もいたために、年長者としてわざわざ面倒を見る必要もないと判断したのだろう。僕たち二人を放っておいて、膨大な蔵書を誇る公爵家の図書棟──室、なんてものじゃなく、専用の別棟があるんですよこれが──に、揃って突撃していくのが恒例行事だった。……領地で農業に勤しむ上の兄や姉の目がないので、それ以外の兄たちは、公爵家でも遠慮なく本に埋もれる気満々だったんだよね。第二次性徴期真っ只中にそれはどうかと思われそうだけど、まあ家系だからとしか。残ったリアンナ様と僕も、二人で同じ本とにらめっこすることがほとんどだったから。


 二歳年上のリアンナ様は、今は絶世の美女と言えるご容姿だけど、子供の頃からその片鱗は見えており、とても綺麗な女の子だと子供心に思ったのをよく覚えている。……うん、僕の初恋の相手だっていうのは簡単に予想できるよね。

 僕とは反対側の従弟である第三王子殿下は、リアンナ様が初恋だと公言して憚らないそうで、その気持ちだけはよーく分かる。僕みたいなモブがうっかり同じことを実行したら、間違いなく大変なことになるからできないけど。

 でも僕が六歳の時にリアンナ様の婚約が決まり、なおかつその相手が第一王子殿下という、雲の上にもほどがある御方だったこともあって、自然と僕が彼女と交流する機会はなくなった。

 当時の僕はなかなか納得できず、泣いたり拗ねたりもしたけれど、お二人の婚約に伴い、旧帝国派の刺客が出入りする恐れが飛躍的に高まった公爵邸に、僕たち一家が頻繁に訪問するなど危険でしかない。大人たちの判断は正しかったと、今では当然理解も納得もしている。




 そういうわけですっかり公爵家と疎遠になった僕が、初恋の従姉と再会したのは王立学園に入学する前日のこと。……入学式もまだなのにいきなり生徒会室に呼び出され、手紙を運んできたフクロウ(リアンナ様の使い魔)の後を着いていきながら、僕はどうしようもなく厄介事の予感を覚えていた。


 約十年ぶりに顔を合わせた彼女は、僕よりも少しだけ背が高くて、僕の想像以上に美しくなっていた。


「大変ご無沙汰しておりますわね、モルド様。お元気そうで何よりですわ。急な呼び出しにも関わらず、よくいらしてくださいました」

「お、お久しぶりですリアンナ様。ええと、その……何と言いますか、とてもお綺麗になりましたね」

「まあ、ありがとうございます。モルド様の誉め言葉はいつも嘘がなくて、世界一信用できると思っているので嬉しいですわ」

「リア」


 俺を忘れるなと言わんばかりにリアンナ様を呼び、彼女に寄り添って腰を抱いたのは、第一王子にして生徒会長、言わずと知れたジェイリッド殿下。ええ、僕と違って大変な美形で背も高くて、成績優秀文武両道、身分血筋も申し分な……くはないけど、ともあれ天はこの御方に何物与えるんだって感じの男性である。リアンナ様の隣に並んで全く見劣りしない時点でもう既にアレだ。男の敵。

 ……こんなことを考えていると知られたら即座に不敬罪が適用されそうだけど、口には絶対出さないので勘弁してほしい。


 お二人に促されて、僕は応接セットの長椅子に腰を下ろした。

 流石は王立学院の家具、つくりそのものの美しさもさることながら、最高の座り心地と両立しているのが何より素晴らしい。……正面に仲良く隣り合って座る生徒会長と副会長から、いつまでも目をそらしていられないのはよく分かってるけど、もう少しだけ時間がほしい僕である。初恋のことは置いておくにしても、待ち構えているに違いない厄介事を直視する決心はまだついていないんだよ……

 でもまあ、そんな甘えを許してくださるお二人ではなく。


「再会早々に申し訳ないのですけれど、実はモルド様に、ジェイリッド殿下とわたくしからお願いがあるのです」


 はい、そうですよね。分かってました。


 そのお願いの内容は、僕と同じクラスに在籍予定のルンド子爵家三女、フィアルカ嬢とその周囲の観察をお願いしたいということだった。


「観察、ですか? 監視ではなくて」

「観察でいい。……正直それを頼むのも、入学したばかりで学園のあれやこれやに慣れていない生徒には酷と言うか、面倒をかけてしまうから申し訳ないと思っているくらいだ」


 ……同性や目下への気遣いもきちんと出来るとか、何なんだろうこの王子様。弟君が二人いるからなのか、それとも王族だからなのか。

 ちなみに殿下の母方の伯父と祖父、帝国最期の皇帝(ラストエンペラー)とその父は民どころか貴族も顧みない暴君で、二代に渡る抑圧に限界が来た帝国民がクーデターを起こし、結果として帝国の名が地図から消滅することになったんだけどね。


 隣国の事情はともかく、観察が必要な理由を聞いた時点で、殿下は芯から王族なんだろうなと思ったよ。確かに『魅了使い』は要注意案件で、五十年に一人くらいしか現れないとしても、国民の一人であることに違いはないから、彼女たちを当たり前の存在として認めさせたいと思うのはとても真っ当な考えだ。どんな能力でも悪用しようと思えばいくらでもできるわけで、『魅了使い』はそれが顕著になりがちだというだけなのだし。

 晒し者にされるフィアルカ嬢には確かに申し訳ないことになるだろうけど、殿下も体を張るわけだからね。そもそも彼女が殿下に言い寄ったり、不特定多数の男性をいいように扱いさえしなければ済む話であり、それならそれで『魅了使い』の無害アピールもしやすくなるというもの。

 ……実際は皆さんもお分かりのように、そう簡単にはいかなかったんだけどさ。




「ジェイ様!」


 鈴を転がすような可愛らしい声が中庭に響く。言うまでもなく発信源はフィアルカ・ルンド子爵令嬢だ。

 ……ジェイ様とか、最初に聞いた時は耳を疑った。第一王子にして公爵令嬢を婚約者にもつ御方を愛称呼びなんて、何を考えているのかと。……何も考えてないんだろうなあ。

 今は予め根回し済みだから静観されてるけど、そうでなければ、高位貴族からのフィアルカ嬢の扱いがかなり厳しい(酷い、じゃないので誤解しないでね)ものになっていたのが目に見えるようだ。主にリアンナ様非公認ファンクラブの女生徒たちによって。何でそんな組織があるのかとかいう突っ込みは不可で。


 ちなみに僕は今、学食のテイクアウトをつまみながら、図書館の窓からそちらを見ている。二階カウンターの奥、扉の先に委員と教師専用のスペースがあり、そこは飲食も可なのだ。殿下とフィアルカ嬢の逢瀬もどきは大抵中庭で行われるので、そこを見下ろせるこのポジションは観察に最適なのである。……まさかリアンナ様、僕が図書委員になるのを見越して協力依頼を持ちかけたとかじゃないよね。ありそうで怖い。


 ……お、今日の逢瀬もどきは終わったらしい。僕も教室に戻ろう。




 教室に戻ったフィアルカ嬢は、鼻歌がこぼれるほどご機嫌な様子だった。僕の席は彼女の二つ後ろの左隣なので、さりげなく観察をするには絶好の位置だったりする。……やっぱりどなたかの、具体的には王宮あたりからの意図を感じなくもないけど、気にしない。気にしたら負けだ、きっと。何に負けるかは分からないし、実際に僕の観察レポートは、リアンナ様や父を通じて陛下がご覧になっているとも聞いてるけど。

 そんな彼女のご機嫌ぶりも、来月頭までのレポート再提出を命じられたことであっさりと霧散した。……いっそ見事なくらい落ち込んでいて、少しだけ可哀想になる。

 ちょうど月末には、国の一大イベントの日があったりする。その日の前後はこの学園の人口密度がゼロに近くなるわけだけど、フィアルカ嬢はお留守番だね。まあ僕も元からイベントに出るつもりも金銭的な余裕もあまりないので、留守番組に入るとしよう。




「はああああああああああ」


 うわ、凄い溜め息。分かりやすすぎるんじゃないか、フィアルカ嬢。知ってはいたけど。

 それと一応、ここは図書館だから、もう少し声を控えてほしいところだ。確かに生徒たちはほぼ出払った後なので、利用者はフィアルカ嬢だけなんだけどね。

 放っておくといつまでも溜め息を連発していそうなので、ひとまず声くらいはかけよう。一応クラスメイトだし。


「フィアルカ嬢、大丈夫ですか? レポートに苦戦しているなら、僕で良ければお手伝いしますよ」

「あ、モルド様……すみません、うるさかったですよね。他に誰もいないからって気が抜けてました」


 ……素直に頭を下げられるあたり、別に悪い娘ではないんだよね。行動が絶望的なほど考えなしと言うか、自分の思う通りに物事が動くのだと無意識に思い込んでいるのが致命傷なだけで。


 あ、今更だけど、僕はこれでもそれなりの要職を担う伯爵家の息子なので、抗精神干渉(レジスト)アイテムは常に身につけている。当然『魅了使い』の能力は効かないので悪しからず。

 対魅了使い用と銘打ってはいるけれど、呪いや魔法に分類される精神干渉を行う術にもしっかり効果があるものなので、装着しておいて損は何もない。最初にピアス穴を開けるのにちょっぴり覚悟を要するのがせいぜいだろう。


 それはさておき、フィアルカ嬢は真っ白なレポート用紙を前に、再び深ーく溜め息をつく。……これはあれだ。レポートだけじゃなくイベントに参加できなかったせいもあるんだろう。

 僕は断りを入れて彼女の隣の席に着いてから尋ねる。


「そんなに残念ですか? 陛下の誕生パーティーに出られなかったのが」

「う……気づいてたんですね」

「そりゃあ、今晩がそのパーティーですからね。当然ジェイリッド殿下もご出席なさるでしょうし」

「うぅ……せっかくジェイ様がダンスに誘ってくださったのに……」


 え、マジですか。凄いな『魅了使い』の力。リアンナ様に超絶ベタ惚れなジェイリッド殿下にそこまで言わせるとか恐ろしすぎる。

 ……あれ? でも、ダンスだけってのも違和感が……


「……エスコートしてくださるという話はなかったんですか?」

「へ? エスコート、って……ジェイ様が私を、ですか? まさかそんなわけないです、有り得ません。リアンナ様がいるのに」


 当たり前のように断言された。いや実際、その認識は誰にとっても正しいんだけど、彼女に言われるとか意外すぎてこちらがびっくりだ。


「駄目元で頼んでみたり、とかは……」

「しませんってば。私はそこまで身の程知らずじゃありません」

「…………」


 黙ってしまった僕は悪くないと思う。

 つまりこれはどういうことなのか。


「ええと、ごめん。少し整理させてもらえるかな。……フィアルカ嬢、君はジェイリッド殿下が好きなんだよね?」

「はい、勿論です! でも私はリアンナ様も好きなので、お二人の仲を裂きたいわけじゃないんです。お二人には今まで通りに仲良くしていただいて、少しだけジェイ様の時間を私に割いてほしいな、ってだけなんです」

「…………」


 つまりは殿下の愛人希望か。まだ十六でその思考とかどうなんだろう。

 ……確か彼女の父親には若い愛人がいて、彼女はその愛人と、母親の子爵夫人に対してよりもよほど親しくしていたというから、そんな関係にも抵抗はないってことかな。……色々歪んでるな、ルンド子爵家。


 あ、しまった。予想外の連続で、口調が素に戻ってるよ僕。

 ……まあいいか。フィアルカ嬢も普通に接してくれてるしこのままいこう。


「じゃあ、リアンナ様を婚約者の座から引きずり下ろそうとか、そういうつもりはないんだね」

「そんなこと絶対ありません!……あれ、でもモルド様からはそんな風に見えてたりするんですか?」

「うーん……少なくとも、殿下が今までリアンナ様に割いていた時間が、君と親しくすることで大幅に削られてるのは間違いないよね」

「そんな……! どうしよう。もしリアンナ様に誤解されてたら、私……!」


 今更それか、と思うけど、まあフィアルカ嬢らしくもある。アルヴェシオン公爵家に婿入り予定の殿下の愛人狙いと言うのなら、次期公爵家当主のリアンナ様の機嫌を損ねていいことなんか何もないから、焦るのはわかるし。


 ……でもそう言えば、さっき彼女は「リアンナ様も好き」とか言ってたな。利害も何も関係なく好いている言い方だったから、以前に接触があったんだろうか。リアンナ様、目下の者には何だかんだと優しいからね。だから非公認ファンクラブなんてものも自然発生するわけで。


 試しにそこのところをつついてみると、フィアルカ嬢はそれはそれは嬉しそうに目を輝かせた。


「聞いてくださるんですね!? よかった! 五年前のことは、誰に話しても信じてもらえそうになかったけど、モルド様ならきっと信じてくれますよね!」


 ──なるほど、確かに可愛いね。これプラス『魅了使い』の能力と来れば、対策なしの男子なら一瞬で落とされてもおかしくないかな。

 いっそ感心してしまった僕は、彼女の笑顔をこんなにも輝かせる『五年前のこと』にいたく興味をそそられていた。

 ……もっとも、すぐにそれを聞いたことを後悔する羽目になるとは思いもしなかったけどね。




 そうして聞かされた出来事は、何と言うかあらゆる意味で型破りだった。

 ──まず、第一王子と次期公爵家当主の二人が護衛もなしで祭り見物とか、色んな意味で問題がありすぎる。それでなくとも殿下は日常的に、旧帝国派から身柄を狙われているというのに。


(確かに、あの祭りの人混みの中で殿下を誘拐とか、難しいってか不可能だろうけど! 当時十三歳とは言え、殿下もリアンナ様も、護衛なんかいらないレベルの体術や魔法を使えてたんだろうけど! 王家や公爵家の護衛は何してたんだー!!)


 内心絶叫する僕だった。幸いその時は被害がなかったにせよ、こうして『魅了使い』を引っかけてもいるのだから笑えない。

 ……これは一応、観察レポートに記すべきだろうか。いや、でも陛下なら間違いなくお忍びのことはご存知だろうし……あ、ご存知なら別に気を遣う必要もないのか。素直に報告しよう、うん。


「……モルド様?」

「あ、ごめん。せっかく話してくれたのに。……でも、そうか。君は殿下とリアンナ様にかなり以前に出会っていて、助けてもいただいたんだね」

「はい。だから、お二人が優しいことも私はよく知ってます。……そのこともあって、私がジェイ様に近づいても、リアンナ様なら許してくれるかと思ってたんですけど……」

「うーん……悪いけど、その見方は流石に甘すぎると思うな」

「どうしてですか?」


 尋ねるフィアルカ嬢は無邪気極まりない顔をしている。何とも話題にそぐわないことこの上ない。


「だって、少し考えてみようよ。道端に女の子が怪我をしてうずくまっていれば、大抵の人は手を貸して助けるか、少なくとも助けを呼ぶくらいはすると思うんだ。その女の子が恋敵だったとしても」

「はい」

「でもそのことと、再会後に恋敵と友情を育めるかって問題は全然違う話だよね。いくらリアンナ様がお優しいからって、昔なじみでも何でもない恋敵に、それも愛する婚約者に大っぴらに近づく女の子と親しく出来るものかな?……君はどう? 怪我をした令嬢──リアンナ様以外の女性が目の前にいて、彼女が殿下に想いを寄せていることを君が知っていたなら。その後にもし彼女に親しく話しかけられたとしたら、友達になろうって気になれる?」

「……それは……助けは、呼ぶと思います。私一人じゃ何もできませんし。……でも、もし殿下がその令嬢を気に入っていて、彼女を受け入れることで私がジェイ様の側にいられるとしたら、私はその令嬢を、友達として受け入れると思います」

「……そう来たか」


 少々飛躍気味かつ意外な返答だったが、愛人希望の令嬢らしい答えだとも言える。愛人と言うより単に都合のいい女という気がしなくもないけど、要は健気さってものを履き違えたタイプだ。


「じゃあ、もう一つだけ。──世の中には二種類の人間がいるんだ。伴侶に愛人を許すタイプと許さないタイプ」

「はい」

「その中でもいろんなパターンがあって、相手に興味がないから愛人がいてもいいとか、興味がなくても世間体が悪いから許さないとか。君みたいに愛してるから愛人を許容する人もいれば、愛してるからこそ絶対に許さない人もいる。ここまではいい?」

「……はい」


 ノートに図を書いて説明すれば、少し間を置いてうなずく。


「で、問題はリアンナ様がどのタイプかということだけど……僕の知る限り、リアンナ様は愛してるからこそ愛人を許さないタイプだと思う」

「ど、どうしてですか? 私たち貴族には、愛人という存在は付き物ですよね。だったら……」

「さっきも言った通り、付き物でも許さないし許せない人もいるんだよ。本題に戻るけど、リアンナ様のご両親はとても仲が良いことで有名なんだ。でも子供はリアンナ様しか生まれなくて、後継ぎの男子をもうけるようにとか、子供が一人じゃ何かあった時に不安だとかで、公爵に愛人を勧める声もあったらしいけど、公爵は頑として聞き入れなかったそうだよ。『アルヴェシオンの歴史上、女公爵は何人もいるし、リアンナは健康で大病にかかったこともない。仮にかかったとしても、我が家は万全の医療体制を敷いている。もしも本当に最悪の事態が起きたり、娘が他家に嫁ぎたがった時には、王子殿下のお一人に我が公爵家を継いでいただく』ってね」

「…………」

「そんなご両親のもとで育ったリアンナ様が愛人の存在を許容すると思うかと聞かれたら、否定するのは僕だけじゃないと思うよ」


 もし公爵様が愛人を作ろうとすれば、誰よりも怒るのが僕の母だろうから、公爵様にそんな気が皆無なのは、我が家としても平和でありがたい。まあ余談だけど。


 僕の話にフィアルカ嬢はすっかり黙ってしまった。……観察役としては出過ぎた真似だったかな。


「……あの。こんなことを聞くのは恐れ多いと思いますけど」

「うん?」

「今の後宮は、王妃様と側妃様はとても良い関係だと聞きました。どうしてそんな関係でいられるんでしょう?」

「難しい質問だね。一番大きいのは、お二人がお互いを尊重なさっているからじゃないかな。お会いしたことがないからわからないけどね」


 そもそも側妃様は陛下の乳姉弟で、陛下とは男女というよりそれこそ姉弟に近い関係らしい。子供を授かったのは、ジェイリッド殿下の母上を亡くされた陛下を側妃様が慰めた夜に、偶然()()()()しまったのだと、側妃様本人が当の息子の前で口になさったことがあるそうだ。……そんな話を聞かされた第二王子殿下(むすこ)は一体どう思っているのか、実は結構心配な僕である。

 とは言え、子供が出来たから側妃に、って話自体は別に少なくもないから、案外気にならないかもしれない。過去には女癖の悪い王族男子の尻拭いで、身籠った女性たち全員を名目上の側妃にした例だってあるしね。無論、当時の王妃様が非の打ち所のない王太子候補を複数産んでいたからこそできたことではある。なお(かさ)んだ分の後宮の費用は、原因になった男性からがっつり容赦なく徴収されたらしい。最終的には破産にまで追い込まれたそうで、自業自得の典型として教科書にも載っている話だったりする。我が国の王家って色んな意味で凄いよなあ。


 余談はともかく、親愛や尊敬の情はあっても男女の愛情はない側妃様と、そもそも初恋の相手だった陛下に、年頃になってからは女性として正面から口説かれていた王妃様とでは、夫に対する感情は違って当たり前。むしろ閨の陛下に対する王妃様の愚痴を側妃様が聞いているからこそ、後宮が上手くいっているという生々しい噂もあるくらいだ。


 え、何で僕がそんな話を知ってるのかって? 父の手伝いでよく王宮図書館に行くんだけど、その途中で侍女さんの噂話を結構耳にするんだよね。僕はモブ顔だから、側を通り抜けてもほとんど意識されないし。……自分で言っててちょっと悲しい。


「じゃあ……私がリアンナ様と仲良くなれれば、リアンナ様は私がジェイの側にいることを許してくださるでしょうか」

「どうかな。断言はしかねるよ。……でも、これは僕個人の意見なんだけどね」

「?」


 首を傾げるフィアルカ嬢は、実に可憐で愛らしくて──同時に、何とも言えない痛々しさを見る者に感じさせた。


「婚約者どころか恋人もいない、子供の戯れ言かもしれないけど。……余程の罪を犯したのでない限り、愛しい相手のただ一人の存在として愛情を注がれる資格は、どんな人にもあると思うんだ」


 僕の言葉に、フィアルカ嬢は顔と体を強ばらせ……やがて、絞り出すようにこう尋ねてきた。


「……つまり、モルド様は……私にジェイ様を諦めろと、そう言いたいんですか? リアンナ様を本当に好きだと思うなら、そうしろって……」

「そう聞こえた? 特定の一人を指して言ったつもりはなかったよ。……なのにそう君が受け取ったってことはつまり、実は自分でもそんな風に思ってるってことじゃないのかな」

「────っ!!」


 フィアルカ嬢の顔に血が上った。……図星か。自覚はなかったんだろうけど。


「……な、んで。──どうしてモルド様に、そんなことを言われなきゃいけないんですか! 私だってジェイ様が好きなんです! だから私はジェイ様のお側にいたい。お側にいられさえすれば幸せになれるのに、そんなことも願っちゃ駄目なんですか!? 私に幸せになるなって言うんですか!!」


 爆発させてしまった。流石にこれは図書委員としては問題だね。利用者は他にはいないけど、実は先生はカウンターの奥の部屋にちゃんといるから、後で絶対怒られるな。


 まあそんな心配は今はどうでもいいとして、フィアルカ嬢の幸せの条件がなあ……ジェイリッド殿下ありき、っていうのが引っかかるんだよね、凄く。好きだから殿下じゃなきゃ駄目、ってのもあるんだろうけど、それとは別に殿()()()()()()()()()()()()()()()()、みたいな。

 いや、そもそもそれ以前に──


「──つまりフィアルカ嬢。今の君は不幸だってこと?」

「な──っ!?」


 あそこまで執拗に幸せになりたいと訴えるのは、つまりそういうことだろう。

 察するに、彼女の幸せに不可欠な要素が今は決定的に欠けていて、殿下のお側にいられるようになればその要素も手に入る──少なくともそうだと思い込んでいる、ってあたりかな。彼女のこと、もう少し調べてみるべきかもしれない。


 ……見たところ、彼女ももう限界みたいだし、そろそろ退散するとしよう。僕はおもむろに席を立った。


「ど、どこに行くんです!?」

「ん? 流石に長々とレポートの邪魔をしちゃったからね。そろそろ本来の仕事に戻ろうと思って」

「何ですかその超絶今更感!! あんなにあれこれ好きなように言っておいて何を──」

「そうそう。とりあえずこの分野の参考資料は、窓際の奥から二つ目の棚、下から三段目にあるから。見てみるといいよ」

「え、あ、ありがとうございます!……じゃなくて! 待ってくださいモルド様!」

「悪いけど僕も忙しいから。レポート頑張るんだよー」


 ひらひらと手を振る僕の背中と、資料のある本棚の方を、フィアルカ嬢は忙しなく見比べていたに違いない。素直だからね、彼女。


 ……あのフィアルカ嬢に突っ込みを入れられるとか、僕はとても貴重な体験をしたんじゃないだろうか。

 寮の自室に帰った僕は、思わずくすくすと笑ってしまった。


(ただ、これだけは彼女に言っておくべきだったかな)


『余程の罪を犯したのでない限り、愛しい相手のただ一人の存在として愛情を注がれる資格は、どんな人にもあると思う』──この言葉の真意だ。

 特定の一人を指して言ったつもりはないというのは、別に嘘ではない。僕が想定したのは二人──リアンナ様とフィアルカ嬢のことだったのだから。

 リアンナ様を指すだけならば、罪がどうこうなんてわざわざ言う必要はないのだ。勿論、リアンナ様が何の罪もない御方だなんて言わないし思ってもいないけどね。

 でもフィアルカ嬢が現在進行形で取っている行動は、重い罪となることが既に確定している。それが僕の言う『余程の罪』──取り返しのつかないレベルのものになるかどうかは、結局のところ彼女自身と、リアンナ様やジェイリッド殿下の判断次第だと思うけれど。


「でもやっぱり、自他共に認める甘い僕は、みんなに幸せになってほしいんだよね」


 相思相愛のお二人は勿論、今は明後日の方向へ突っ走っているとは言え、幸せを求めて足掻いている少女も。


 ──でもうっかりそんなことをフィアルカ嬢の前で言ったら、「あんなに酷いことを言われた後で、そんなこと信じられるはずないじゃないですか!」とか、また怒らせるんだろうなあ……別に嫌いだから色々と指摘したわけじゃないんだけど、優しくされることだけが愛情だって思ってるんだろうね、彼女。そんな気構えでリアンナ様と仲良くなりたいとか、甘いどころの話じゃないよなあ……僕には直接関係しないからどうでもいいっちゃいいんだけど。


 幸せになってほしい相手に『どうでもいい』はないって? まあそうなんだけどね。観察レポートなんてものを作成する時には、それくらいの心境でいないと中立の目線で書けないから、今だけってことで許してほしい。

 それに現実問題、リアンナ様と彼女が大っぴらに仲良くできる日なんて来るかどうかも怪しい。それくらいの明らかな事実を無視して希望だけしか見ないなんて真似、貴族としてやっていいことじゃないんですよ、いくらモブでも。現実を見据える目って大事。

 そういうわけで気持ちを切り替えた僕は、改めてレポート用紙に向かうことにしたのだった。



 それから二ヶ月ほどの後、フィアルカ嬢がアルヴェシオン邸に乗り込んだことがきっかけで、学園を舞台とした『魅了使い』の能力実験は終わりの時を迎えた。

 当然、僕の任務も終了し、無事に自由の身になることができた。……締めくくりとして、観察レポートの件で何と陛下直々にお褒めのお言葉をいただき、恐縮しまくったのはいい思い出だ。義理とは言え公爵様を叔父にもつ身なので、ガチガチになるほどではなかったものの、恐れ多さに違いはない。名誉とは言え、もう一度したい類いの経験でもないと思った。僕は小心者なのだ。……え、説得力ない? そうかなあ……


 フィアルカ嬢は学園を退学し、ルンド家からも勘当された。けれど彼女の能力は全ての貴族に知れ渡ったため、早急にその身を保護する必要があり、最終的に彼女は表向き陛下の側妃として後宮に入ることが決まった。裏の事情を知らない貴族は、少なくとも十三歳以上には一人もいないだろうけど。

 ──相手は違えど、側妃となることがフィアルカ嬢の希望だったとリアンナ様から聞かされ、僕の目は間違いなく点になったと思う。

 彼女と交わした会話から僕が導き出した、殿下の愛人希望だという結論は、間違いではないが真実でもなかった。……ジェイリッド殿下が王太子になること前提で側妃になりたがっていたなんて、僕じゃなくても、いや誰だって想像できなかったと思うけど。


(そのピントのずれっぷりが物凄く彼女らしいよなあ)


 もう苦笑するしかなかった。騒動が終わった今だからこそ、この感覚も最早懐かしいと思える。




 その後のフィアルカ嬢──第二側妃様、と言うべきかな──の情報は固く漏洩を防がれているものの、僕は一度だけその様子を聞かされた。リアンナ様から呼び出しを受けた、アルヴェシオン邸でのことである。


「──そうですか。母上と姉上たちに厳しく指導されて、大変だけど幸せそうだと」

「ええ。王妃様のお手紙によるとそのようですわ」

「その指導の一環で、『ジョルダン殿下の副音声講座』なんて代物が計画されているのが、俺としては物凄く不安だ」


 ジェイリッド殿下が眉間に皺を寄せてそんなことを言うので、隣のリアンナ様の浮かべていた微笑みが見事に固まった。

 ……ジョルダン殿下のことは、やたら綺麗なお顔と年齢の他は噂くらいでしか知らないのだが、そんなに厄介な御方なのだろうか。


「ま、まあ、その計画が実行されるとしてもだいぶ先の話でしょうから、まだ心配する必要はないと思いますわ」

「だといいがなあ……どの段階であれ、フィアルカ嬢が本気モードのあいつに対抗できる未来が全く見えない」

「……否定はできませんけれど、前もって手加減していただくよう念を押しておけば──」

「無理だろう。手加減(それ)を許すくらいなら、わざわざジョルダンを引っ張り出す意味がないからな。そもそもの発案者が王妃様の時点で……」


 ジェイリッド殿下の目が遠くなり、リアンナ様の顔も引きつる。

 ……どうやら聞くだけでも分かるくらい、ジョルダン殿下は厄介な御方のようだ。末恐ろしい十四歳である。いや、むしろ一切の容赦を許さない王妃様の方が怖い。

 フィアルカ嬢、色んなものをへし折られないといいけど。


 こほん、とリアンナ様が軽く咳払いをして話を変える。


「……ですが結局、第二側妃様──いえ、この場合はフィアルカ様と呼ぶべきですわね。彼女の求めた幸せは、家族──お母様やお姉様方とともに在りたいと、そういうことだったようですわ」

「やっぱり、ですか」

「まあ、予想していらしたの?」

「と言うより、幸せそうな状況を伺って何となく。子爵家にとって、娘が()()()()()()側妃となるのは相当な名誉ですからね。フィアルカ嬢がお二人に会った五年前には、彼女は既に家族の女性陣とかなり疎遠になっていたようですし。上手いこと側妃になれれば母親や姉にも喜んでもらえて、仲の良かった頃に戻れるとでも考えたんじゃないでしょうか。……無論、ジェイリッド殿下への好意が先にあってのことだったとは思いますが」

「だからってあまり嬉しくもないな。側妃の座優先でジョルダンをターゲットにされたとしても、それはそれで大いに困ったろうが」


 殿下は苦笑いした。……確かにその場合だと、フィアルカ嬢の身はルンド子爵家ごと取り潰しの憂き目に遭いそうだ。王妃様お気に入りの彼女の姉二人や、ぎりぎり母親までは何とか助かるかもしれないけれど。

 まあ、実は今でもルンド子爵家は風前の灯だ。これからの扱いは上層部次第というところだけど、少し聞いてみてもいいかな。


「ルンド家の処遇はいつ決まるのでしょう? 夫人と離婚して、三人の娘全員とも縁が切れて、仮に存続できても後継がいませんが」

「家の存続という点は、フィアルカ嬢勘当のタイミングがぎりぎり間に合って許された感じだ。ただ、評判の良かった妻や上の娘たちからは子爵の方が縁を切られた形だから、社交界の評判は地を這っている状態だな。身籠った愛人を正式な妻にする話もあったが、その愛人は姿を消したらしい。妊娠自体が嘘だっただの、子供の父親は子爵以外の男でその男と駆け落ちしただの、面白いくらい噂が一人歩きしているぞ」

「何が真実かはともかく、直系に後を継がせるのは無理ですね。かと言って養子を取ろうにも、評判の悪さが足を引っ張っている、と。……ルンド子爵も大変だ」


 のんびりと上等な紅茶をいただきながら言う。ルンド子爵とは面識がないしいい印象もないから、僕が幸せになってほしいと思う人物リストの中にはいないので、どこまでも他人事である。愛人が身籠ったという子供が存在しているなら、父親が誰だろうとその子には罪がないので、健やかに生まれ育ってくれればいいと思うくらいだ。


 しばらく三人でお茶を楽しんでいると、ふとリアンナ様が窓の外を見る。


「……あら。雪、ですわね」

「冷えると思ったら初雪か。もうそんな時期なんだな。進級してからあれこれありすぎて、季節どころじゃなかったが……」


 しみじみ言うジェイリッド殿下に僕も同感だ。今年はとにかく、『魅了使い』騒動に振り回された年だと思う。


「これはかなり積もりそうですわね。モルド様、よろしければ今夜は泊まっていらしてくださいな。母も喜びますし」

「ありがとうございます。あ、寮に外泊する連絡を入れないと」

「それくらいなら、俺から学園長経由で連絡するから気にするな。元生徒会長特権だ」


 太っ腹な殿下だった。

 王立学園とあって学園長は代々王族が務め、現職には陛下の叔父であるクライン公爵が就いている。その方を経由するのだから、王族特権と言う方が正しいと思う。


 なお生徒会については、騒動のせいでやや遅れぎみになったが、ぎりぎり秋と呼べる時期に新役員への引き継ぎが行われた。通常なら最高学年の王族か侯爵家以上の子女が会長となるのだが、王子であるジャロッド殿下は既に騎士叙勲を受けており、生徒会に関わる暇はないので除外された。新会長となったのは学園長の一人娘である。

 ……確かこの令嬢、リアンナ様ファンクラブの会長だったはずだ。僕が彼女の『お姉様』の従弟だってこともご存知で(わざわざ確認された)、何となく目をつけられてる気がしてならない。あんまり関わりたくないんだけどなあ。


 内心こっそりと溜め息をついた僕には知るよしもなかった。

 学園卒業後に王立研究所に就職した僕が、その五年後に『魅了使い』の完全な能力制御アイテム製作に貢献した功績を買われ、クライン公爵家への婿入り話が持ちかけられることも。

 それとほぼ同時に、教育修了して御披露目で完璧な淑女ぶりを見せた第二側妃様を下賜する相手として、何故か陛下直々に打診されてしまうことも。

 そんなとんでもない板挟みに陥ってしまうことなど、この時の僕に予想できるはずもない。


 ……って、おかしいよね!? 僕はモブなのに!! 何でそんなことになるんだよ!?

「モブだけど!」「モブじゃなかったー!」(ト●ロ風)ってことです←

この国の王族は有能な人が大好きなので、しっかりモルドも目をつけられました。二十三歳で貴重なアイテム開発に貢献してるわけですからねえ……そりゃあクライン公爵にもその娘にも見込まれるよなあ、としか。リアンナやジェイリッドといった上層部にもきっちりコネがありますしね。


最終的にモルドがどちらを選ぶのかは知りません(無責任)。モルドとしては、公爵令嬢もフィアルカも学園時代に少し絡んだだけという認識なので、恋愛感情も何もないのが現状です。

なお、公爵家に婿入りでも、フィアルカを娶って子爵程度の爵位と領地(ルンド子爵領に非ず)を貰うのでも、彼が研究を続けられる環境は保証されます。前者は奥さんが領地経営を隙なくこなし、後者だと王家推薦の超有能な代官が派遣されるので。

つまり女公爵の婿か子爵位かという比較になるわけですが、普通なら前者一択というところ、モルドは「身の丈相応っていいよね」とか言い出す日和見野郎でもあるので、後者を選ぶ可能性もなきにしもあらず。結局はどちらの女性と相性が合うかになりそうですが、さてどうなることやら。


……何だかこう書いていると、モルドがハーレムものの主人公みたいな気がしてきてならない……うん、気のせいということにしよう。

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