#5 変化への実感と違和感
トルストイもこんな形で不幸に巻き込まれる人間がいるとは思はなかっただろう。
トルストイの生きた時代からすればVRゲームの存在がファンタジーだというのに、加えて魔法としか言えない力で今この世界に囚われている。
こんなことを考えている私はこの世界の存在にもうすでに納得してしまったのだろう。
私のようにこの世界に納得してしまっている人間は半分くらいいるだろう。
もう半分は「ログアウトボタンを戻せ」だとか「もっと説明しろ」だとか叫んでいる。
明らかにおかしい。
そもそも半数もの人間がこんな状況を納得していることが不可解だし、声を荒げている人間からも「何かの冗談だろ」とか「そんな訳ない」といった、この世界そのものを疑い言及する声は聞こえない。
この状況に納得はしていなくとも、この状況を信じているということだ。
これもまた、この世界に働いている力なのかもしれない。
私がこんなことを考えることができるのは、私の記憶力のためなのか、それとも【常夜の鍵】の影響なのだろうか。
後者の場合は確認が容易だ。
同じ【常夜の鍵】の所持者である雫にも聞いてみればいい。
「ねぇ雫。この場にいる1万人を見て何か思うことある?」
「うーん、不思議な感じ。うまく言えないけど何か洗脳されている感じがする。」
「あーーー。わたしも似た感じのこと思ってる」
私よりかは鮮明にこの状況を理解していない様子を見ると私のこの思考は記憶力と鍵の両方の力が働いていると考えが妥当だろう。
これはラッキーだ。
確かなことでなくても人より情報が与えられているということはアドバンテージになる。
この世界に対して言及し思考できる力。
今後これは生きてくるだろうが、この力がいつまで続くかわからない。
ずっとこのままかもしれないし、もっと鮮明になるかもしれない。
逆になくなるかもしれない。
後者が怖い。
そうなるのなら先に行動しなくてはならない。
幸い、死が終わりじゃないと言っているあたりHP0になったと同時にゲームオーバーということはないだろう。
それよりも不穏に聞こえるようなことは言っていたのだが、このご時世「死があるから生が素晴らしい物だ」なんて物語は受けが悪いだろう。
そんなSFの巨匠イーガンに影響されたようなことを考えているが今はプラスに考えないと心が折れてしまう。
私たちに必要なことは強くなることだ。
いまのステータスが
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【プレイヤーネーム:林檎】
種族:魔人族
Lv:9/100
武器:《新平の鉄剣》
HP:41
MP:58
攻撃力/STR:17(+5)
魔法力/INT:58
防御力/VIT:24
俊敏性/AGI:42
器 用/DEX:31
運 /LUK:30
称号
【魔術師Lv-2-】【火魔法-Lv1-】【回復魔法-Lv1-】【土魔法-Lv1-】【毒魔法-Lv1-】【剣士-Lv1-】【クライミングLv1】【落下耐性-Lv1-】【共闘の砦】
魔法
【ファイア】【アイシクルランス】【キュア】【マッドウォール】【クイック】【ポイズンスワンプ】
スキル
なし
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こんな感じ。
レベル1のときに比べたらそこそこ良くなったが、まだ心もとない。
「ねぇ雫のステータスいまどんな感じ?」
「えっとね、こんな感じ」
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【プレイヤーネーム:drop】
種族:人間族
Lv:9/100
武器:《二丁拳銃ピーナッツ》
HP:51
MP:41(+20)
攻撃力/STR:32(+57)
魔法力/INT:36
防御力/VIT:36
俊敏性/AGI:36
器 用/DEX:58
運 /LUK:36
称号
【技術者Lv-1-】【剣士-Lv2-】【クライミングLv1】【落下耐性-Lv1-】【【共闘の砦】
魔法
なし
スキル
【強突き】
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ピーナッツ強い。
MPにバフがかかるから魔人族の私のMPを超えている。
攻撃力に至っては89だ。
私が魔法で攻撃するより全然ダメージの通りがいい。
やっぱり武器の影響力は大きいだろう。
《新平の鉄剣》だと私には関係ない攻撃力にしかステータスが上乗せされない。
しかも5である。
「私レベルの割に今強くない?」
「うらやましい。おっぱい揉ませて。」
「え、今関係なくない!?」
雫に引かれたことだし、こんなことをしながら考えていた予定を話す。
「この人込みを抜けてステータスの底上げに行こう」
「そうだね」
鍵のこともある。今は鍵の所持者を特定される方法はない(みつかってない)だろうが、今後どうなるかもわからない。
デスペナを受けてまでこの鍵を他者に放り投げるメリットも思い浮かばない。
それなら守り抜くことが優先だろう。
雫も私の一言でだいたいを察してくれたようだ。
「そしたら林檎の武器探しとステ上げの為に大穴でも向かう?」
「いや、まずはフィールド探索」
「わかった」
人の多いこの場所で私の考えに言及してこないあたりやっぱり物分かりがいい。
だれに聞き耳をたてられてるかもわからないことを理解しとりあえず頷いてくれる。
これが私の可愛い相方である。
私と雫は噴水のある広場を、人をかき分けながら去っていった。
もうちょっと書きたかったけど、長くなりそうだし、切もいいので今回はここまで
ステータス管理もうすでに大変。