#1 噂のゲーム
私たちは世界に囚われた。その穴に囚われた。
7/23
暑い。今年は異常気象らしい。今朝のニュースで言っていた。
異常気象って何なのだろうか。去年も、その前も異常気象で暑いって聞いた気がする。
毎年が異常気象だ。もう異常ではなくて、これが通常運転のような気がしてきた。
そもそも、どうしてこの教室はクーラーが付いていないのだろう。
ほかの教室はすべてクーラーがついている。なのにこの美術室だけはついていない。
私はスカートをパタパタさせた。女子の特権だろう。
そんな私を注意する声が聞こえた。
「暑いからってはしたないよ、りんご。」
その声の正体はすぐにわかった。
私のことを、りんごと呼ぶのは家族か親友の雫くらいである。
「だってしかたないだろ、この暑さだ」
わたしは雫の方を向き、言い返した。
「りんごはそのおっさんみたいな言動をなくせば超絶可愛いんだから。」
貶すと同時に褒めるという器用な発言が返ってきた。
雫は私のことを可愛いと言ってくれるが私からしたら雫のスタイルが羨ましい。
170cmという高身長にそこそこ大きい胸。黒髪にポニーテール。そのルックスだけでは飽き足らず、スポーツ万能。頭も悪くない。そして本人は隠しているが可愛いもの好き。非の打ち所がない。
その点私は、いわゆる幼女体系だしスポーツも苦手。
ただテストの成績だけは良い。
私には特技がある。
それは暗記だ。
どんなに長い文でも1度読めば覚えることができる。
円周率なら4万桁くらいまでならスラスラ言える。
小説のように意味のある文字列ならもっと暗記できる。
自分の会話はもちろん、他人同士の会話も覚えていたりする。
ああ、雫のおっぱいを見ていたら揉みたくなってきた。脈絡もなくこんなことを考えるなんて暑さで私の頭がやられてきたか。
「りんご?どこ見てるの?」
「雫のおっぱい」
「暑さで頭やられた?」
「私もそう思う。」
「明後日から夏休みなんだから頑張ろう」
私は雫と約束をしていた。夏休みになったらひたすらゲームをしようと。
「あぁ、ゲーム。まずは涼しいフィールドに行ってみたいな。」
「いいねー。そんでもって【HOLE】の中で甘いものをたくさん食べるの。」
HOLEというのは1か月前に発売された、VRMMOだ。
VRMMOはもう何本も発売されてきたが、このゲームはほかのどのVRMMOよりもリアルに世界が作りこまれていると話題になっている。そしてその人気から発売1カ月で300万本を突破した。
私たちも売り上げに貢献したが、夏休み前の学期末テストの為に一度もプレイすることなくお預けされている。
ゲームへのワクワクで私は無い胸を、雫はただでさえ大きい胸をふくらませている。
ただこの時私は知らなかったのだ。私たちがHOLEという世界に囚われるということを。