再びの旅路 sideネッド
翌早朝、リーナを連れて森へ入った。
リーナの父親を説得するのは案外簡単だった。何が何でも守ってくれと逆に頼まれた俺は、彼女の護衛として最低限の荷物をもって一歩足を踏み出した。
「ねえ、ネッド。予定では三日はかかるのかしら」
「俺たちなら、二日で森を抜けられますからね。どこか寄りたいですか?」
「ううん。手紙なんてもともと受け取っていませんってことにするには、少しでも急いで時間を稼いだほうがいいと思って」
どんだけ嫌なんだ、この女・・・だが気持ちはわかる。あの王子サマも、アレクも、それ以外も面倒事でしかないのだ。
ようやくゲベートの街に帰れたっていうのに、なんてことだろう。高額な鷹便を平然と送り付けてきたあの王子サマは本当にいい性格をしている。
「ですね。じゃあ、少し急ぎますよ」
「ええ、相手の方たちには連絡は伝わっているのよね?」
「大丈夫です。そこは安心していい」
俺たちは話しながら森を急いだ。リーナの体力は数年前に比べて大分ついたから、正直助かる。何よりも、楽しくもない森での移動を嫌がらないのが救いだ。
本当にお嬢さん育ちだったらこうはいかないだろう。
「ネッド、ご飯はどうするの? また、あれやるの?」
何故か大層わくわくした顔を隠さず聞く女に、俺もため息を隠さない。
「ですね・・・道すがらやりますんで」
「近くで見たいわ!」
「当たり前です。いつ何時も離れないでくださいよ」
「お花を摘むとき以外はそうするわ」
「・・・慎みって言葉を屋敷で思い出したんじゃないんですか、あなたは」
「ここにはワイズさんも奥さまもいないわ」
こいつ、もしかして俺と一緒にいるから性格悪くなってきたとか言わないよな?
はあ。と大きなため息をついて、ふと目についたウサギをめがけてナイフを投げた。ドサッと地面に倒れたウサギを回収してその場で血抜きの処理をする。
ウサギは素早く血抜きなどの処理をしないと肉が臭くなるから、その場である程度やってしまう。そしてその場所からは素早く離れないと魔物や獣が襲ってくる。
「何度見ても無駄のない、いい動きだわ」
「これを何度も見たがるお嬢さんの神経を疑います」
「何を言っているのよ。ウサギ美味しいじゃない」
いや、あんた。そういうところだぞ。
「何より、人間は生き物を命を頂いて生きているのよ。そこに善悪なんて関係ないわ。彼らの命に感謝して、最大限味わって、私という体をつくるの。大切なことよ。街にいると当たり前に手に入るお肉も、最初はちゃんと生きていたんだって思い知らないと」
じゃないと私は、また我儘ばかりになってしまうわ。と、小さくつぶやいた。
あんた、もうちょっと我儘言ってから、そういうことを言ってくれ。もっと甘やかしたくなるだろう。
「とりあえず水場を探しますよ。手を清めたら飯にしましょう。ついでに食えそうな草花も探しましょう」
「ネッド、どこでも生きていけるわね!」
俺は普通に楽に生きたいので、こういう生活を望んでいるわけではない。
だが、あんたが望むなら一生この森で過ごして、あのイカレタ連中から守ってやる。
なんて強く思ったが、獣臭くなった己の手を見て、やっぱり言うのはやめた。




