子守歌 sideシシリー
リーナが王都から帰ってきた。成長したかと思っていたけど、一緒に寝てほしいなんて甘える子がかわいくて、嬉しかった。
あたしには子どもはいないけど、居たらこんなかんじなのかな。
一緒にご飯を食べて、風呂に入って、今は絵本を読んでいる。もう少ししたらリーナの部屋に行く予定だ。
でもリーナは不思議そうに、
「え? お父さんと三人で寝るんでしょ? わたしのベッドは子ども用だからシシリーは無理だよ」
「!」
きっと、あたしもラティーフも同じように驚いたことだろう。
冷静に考えればその通りだ。なんで気付かなかったんだろう。
実は、リーナには言っていないが、あたしとラティーフは今半同棲のような関係だ。ラティーフの部屋には私の私物が少しずつ増えている。
あれを見られたらどうしよう! あたしの服だってクローゼットにはかかっているし、リーナになんて説明しよう。
「・・・リーナ、その前に言っておきたいことがある」
「なあに、お父さん。明日の朝ご飯はシシリーが作ってくれるって」
「いや、それは楽しみだが違う」
そっか、楽しみなんだ!
「俺は今、シシリーと家族になりたいと思っている」
いきなり子どもに何を言い出すの!?
驚いて固まったあたしをリーナがちらっと見上げた。
「でだ。シシリーは実は何度も俺と一緒のベッドで寝てる」
「そうなんだ」
うん。と素直に頷くリーナ。隣のあたしはきゃああああと叫んでいるのに二人は無視だ。酷い。
「だからわかるんだが、三人で寝るのはさすがに狭い」
いやそこじゃなくて!?
「そっか。新しいベッドが必要だね」
「そうだ。だから悪いが、今夜は一人で寝てくれ」
「わかった。寝相が悪くてベッドから落ちたら大変だもんね!」
いやだからそこじゃなくて!?
「明日には新しいベッドを買ってくる」
「シシリーの意見も聞かなくちゃ。シシリー、明日一緒に見に行こうよ」
「ふぇええええっ!?」
「毎日使うものだから、ちゃんと気に入るものじゃなくちゃ!」
「そうだな」
いや、まって、なんか勝手に話が進んでる!?
「シシリーの好きなお布団の柄にしようね。カーテンは変えた?」
「いや、それも一緒に見に行こう。こういうのは本人の好き嫌いがあるからな」
「楽しみだね」
混乱と羞恥でもだえるあたしを無視して、二人はほのぼのと笑った。
この二人、本当に親子だ!!
その後、とりあえずなんとか落ち着いたあたしは、リーナに子守歌だけは歌ってあげることにした。
「綺麗な曲だね」
「ふふ。子どもができたら絶対歌ってあげたいと思っていたの。リーナが聞いてくれて嬉しいわ」
うとうとと目をこするリーナに、首元まで布団をかけてやる。
「なんていう曲なの?」
「さあ、なんだったかしら。でも、あたしもお母さんに歌ってもらったのよ」
よくある子守歌だった。この国の人間ならば一度は必ず聞いたことのある、昔からある歌だ。
「そっかぁ」
ふにゃりと笑ったリーナに、ふと疑問をなげる。
「リーナはどんな歌を覚えてるんだい?」
「歌? 子守歌? うーん・・・・・」
「小さい頃のことなんて覚えてないか」
「・・・うん」
その時、リーナははじめて、あたしの前で悲しげな顔をした。
ああそうか、この子には子守歌すらなかったんだ。
「あたしが何度でも歌ってあげるよ。この曲を覚えるといいよ」
「うん。ありがとう」
そのまま、すうっと愛らしい寝息を立てて眠ってしまった。
「・・・俺は歌なんてうまく歌えねえ。これからはシシリーに頼んでいいか」
いつの間にか後ろにいた彼が、あたしの肩を抱きしめてくれた。リーナが眠るまではと我慢していた涙が溢れて止まらない。
たくさん、たくさん歌ってあげよう。いつかこの子が、大切な相手に歌えるように。
その後しばらく、彼は私を抱き続けてくれた。




