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これは優しいお話です  作者: aー
   王都で出逢う人たち
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嵐は去ったはずだったのに! side総一郎

 俺は今日何度目かのため息をなんとか飲み込んだ。

 右は騎士が二人。左は神殿のお偉いさんが一人。馬車の御者が一人。そして俺。計五名での出発となったが、御者、つまり荷を運んでくれる馬は途中までだという。

 え、ナニコレ。なんなの、いじめなの。明らかに平民の俺がかなりキツイことにならないかと戦々恐々としていたら、いきなりお偉いさんに睨まれた。

「そなたはあの娘と近しいそうだな」

「あの娘?」

 一瞬本気で意味が分からなかったが、よくよく考えずとも一人しかいない。

「り」

「リーナの婚約者は私です、シュオンさま。リーナのことで何かご不明な点でも?」

 待て、なんでお前が出てくる。というかいきなりマウントとるな!

 なんか騎士どうしで空気悪い気がしていたが、こいつ、神殿にも喧嘩売るつもりなのか?

 驚いて少年を見ると、彼は不遜な態度を崩すこともなく俺を見て笑った。どうやら余計なことを言うなと言いたいらしい。了解だ。

「・・・何をしている。行くぞ」

 もう一人の騎士が困ったように言えば、二人ともニコリと笑って歩き出した。

「彼女は私が養子にと望んでいる。彼女と婚約しているのだとすれば、一度破棄していただきたい」

 え。

「今日も良い天気ですね。ご覧ください、この青空を! 神々が我々を祝福しておられるのでしょう!」

 ドン引きするほど清々しい笑顔で、全力で話をそらしやがった!

 旅のために全員普段の服装から歩きやすい格好をしているが、その表情は驚くくらい違う。

 壮年の騎士はため息を隠さないし、神殿のお偉いさんは常に俺かアレクセイと名乗った自称里奈の婚約者を睨むように見てくるし、御者は存在そのものを薄くして逃げようとするし。なんだこのカオス。

「彼女にはもっとふさわしい人間をあてがうつもりだ」

「最年少で王子の護衛騎士に選ばれた私よりもふさわしいというのは、腐りきった神殿の、腐りきった野郎をあてがうとおっしゃるので? まさか、ご冗談でしょう? 見た目も教養も立場も、私以上にふさわしい神官がいらっしゃると?」

 こいつ、自意識過剰じゃあないのか。

「そなたは貴族としては立場が弱い」

「お言葉ですが、リーナは平民です。私程度が丁度良いと思いませんか? 私はリーナに怖い思いや悲しい思いをさせたくないのですよ。下手に立場が上では、彼女はきっとたくさんの苦労を強いられるでしょう。口だけで守るというのは誰にでも言えることですが、実際それができる人間がいったいどれだけいますか。まあ、あなたは口ですら守れなかった一人のようですが」

 どこまでが本気かはわからないが、このいけ好かないアレクセイという少年は、結構本気で彼女が好きなのかもしれないと、俺は初めて思った。

「・・・私はもう二度と彼女を傷つけないと誓っている」

「それこそ、口だけでは何とでも言えますね。例えば魔法を使ったとしても、あなたの高すぎる立場では、人々は色眼鏡で彼女を見ることでしょう。あなたのような世間知らずなお坊ちゃまが、人を守るということがどういうことか本当に理解していらっしゃるのでしょうか? 守られることには長けていても、守る方法をご存じではないから養子などと短慮にはしるのでは?」

 心臓をえぐるような厳しい言葉に、一瞬場の空気が凍った。

「あー・・・俺が言えたことじゃないが、あんたら二人とも里奈の気持ちとか、将来設計とか全部無視して話して、全力でから回ってるのは理解した。とりあえず先に進もうぜ。里奈に会うんだろう?」

 カオスな状況をなんとかしたくてそう言えば、二人はすごい勢いで俺を睨んだ。

「私は彼女の婚約者として、彼女の将来を真剣に考えています。将来は小さめの領地をもらい、彼女の好きなことをさせてやるために現在金を貯めています。彼女はモノづくりが好きなようですから、商品開発に必要な実験室も用意するつもりです」

 何こいつ、重い・・・

 俺がドン引きしていたら、隣の神官がふっと鼻で笑った。

「一から作り上げていたのでは幾らかかると思っているのだ。私ならばその程度すぐに用意できる。もちろん彼女が商売の道で進みたいのならシスターにしようとは思わない」

「はん、言うだけは簡単ですけどね。自分一人じゃ外に出られないご身分の方に言われましてもね」

 こいつら、本当に。

「で、里奈はどっちにつくんだ? どっちにもつかないから逃げだしたんじゃないのかよ。逃げかえるほど嫌だったから挨拶もなかったんじゃないの」

 あの嵐のような女は、簡単だったが俺や商会にはきちんと挨拶をしてこの王都から出て行った。それに対してこの二人からは絶対に逃げ切るために挨拶すら、いや、そんな気配すら感じさせずに消えたのだ。それがどういう意味を持つのか、わからないわけもないだろうに。

 二人はそれから黙り込んでしまい、旅は嫌な空気を抱えたまま始まった。

「・・・まずいな」

 もう一人の騎士がつぶやいた言葉の意味を知るのは、それから数週間後のことだった。


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