過去との再会 sideシュオン
久々に出会った少女は、やはりあの森の少女だった。
驚くほど表情が豊かになった。体も大きくなった。まるで貴族の姫のような振る舞いを身に着けていた。
明らかに私に対し警戒し、多分、本人は気付いていないが恐怖している。
血の誓いをしても何が起こったのか理解していない様子に、少しだけ笑えた。
気付いているだろうか、君は私を手に入れたのだ。
最近まで君のことを聞かなかったのは、恐らく王都にはいなかったのだろう。だが君は王都へ来た。だから、これからは私が保護しよう。
きっと他の元勇者たちは君に会いたがらない。もっといえば、あのあと仕事すら辞めてしまった憲兵だった彼は、君を酷く恐れている。
君に恨まれていると夢に見るほど、彼にとって君は恐怖の対象だ。
だから、この王都にいる限りは私が君の後ろ盾になろう。君が望むならシスターにならずとも私の養子として貴族の若君をあてがうこともできる。将来君が何事にも困らないように手配しよう。
私の命のすべてをかけて君を守ろう。
あの森で、君を守れなかった私にできることはそれだけだ。
それに君の気配は相変わらず清浄すぎる。多くの人が存在し汚れた、この王都の中で普通に暮らすことはむずかしいだろう? だが神殿の中なら君はきっと苦労することなく生きることができる。
さあ、君は何を望んでくれるだろうか。君に尽くすことができれば、私は私の罪を消し去ることができるだろうか。
そんな期待を込めて君を見つめていたら、先ほどとは違い、年相応の態度に変貌し、更に驚くべきことを言った。
私がナイフで切った傷を治した直後だった。
「いや、わたし、そろそろ家に帰るから多分しばらく王都には来ませんけど」
「え?」
帰る? どこへ?
「え?」
彼女は不思議そうな顔で私を見つめているし、私も彼女が神殿以外の不浄な空気で生きられると思っていないので戸惑う。
そもそも彼女はどこから来たのだろう、どこかの店に関係しているのは風の噂で聞いたが・・・ああ、そういえば国内トップクラスの商店だったような気もするが、俗世に疎い私にはよくわからない。
だいたい、あの旅から戻っていこう、私は公務以外で神殿の外に出ることなどないのだからわかるはずがない。
「君はどこに帰るのだ? その街には神殿はあるのか?」
「神殿はあるけど・・・基本は無人というか、毎月草抜きには行くけどなあ」
うーん、困った。と、ハッキリ言われてしまった。
「何が君を困らせたのだろうか?」
「あなた、もう少しまともでしっかりした大人だと思っていたのに何で急に暴走してるの?」
呆れを隠さない目。私と血の契約でつながったことが分かったのだろう。遠慮がないことが逆に嬉しい。
「ふむ。私は世間知らずなうえに神殿から出ることもない。君を守る方法などこれ以外に思いつかなかった」
「まず人の話を聞きなさいよ。だいたい、あなたのことなんて知らないわよ。奴隷契約みたいなことされても困るんだけど」
「話すも何も、君は私を警戒していたじゃないか」
「なんで急に信用されると思えるの、案外頭の中がお花畑ね」
なるほど、数年で口が悪くなったようだが、やはり成長が嬉しい。
「どうして悪口を言われてニヤニヤしているの、変態なの?」
引きつった頬で言うと、急に立ちあがった。
「今日はあなたが本人かどうかを確認しにきたの。私のことを覚えていたら、あの森での異常を覚えているということでしょう。ばらされちゃ困るのよ」
「どう困るのだろうか?」
「・・・私みたいな異常者を調べる機関があるんでしょ」
「噂の域を出ないが、調べてみよう。私の話ならば陛下ですら無視はできまい」
確かに、城の裏手にある魔術を専門的に調べる機関が、一時期人を使った実験などをしていたことがあるのは公然の秘密だ。
主に精神を壊したものの魔力がどのような形に変化するのかを調べていたと思うが・・・いや、まさか今でも行っているのだろうか。
「別にいいわよ。もう少ししたら王都から出て行くから」
「どこに行くというのだ。私にも準備がある」
そうだ、先ほどもその話をしていたのだった。遠くに行くならば色々と手続きが必要となるだろう。荷物も準備しなければ。馬車は何台くらい手配すれば・・・
「いや、あなたを連れて行く気は毛頭ないから」
なん・・・だと・・・!?




