買い食いは人生の醍醐味
「おいお前、いつまでここにいるんだ」
「今日の仕事が終わるまでですね。良いバイトです」
さらっと答えると、両手を腰に当てていた総一郎が怒ったように怒鳴る。
「そうじゃなくて! いつまでこの王都にいるつもりだと聞いているんだ!」
「ソウ先輩つめたーい。いつまでなんてまだわかりませんよ。だからアルバイトしてるんじゃないですか」
南門から少し西に行った先の市場で、今日は二人だけの見回りだ。手には焼きたての甘いリンゴ。少し硬いバケットの上にのせて、さらにお好みで粉砂糖をかけてくれるのに、子どもの小遣いで買えるという良心的なお菓子を持って。
「アルバイトはあくまでもついでだろう。お前たちの知りたかったことは知れたんじゃないのか?」
「知らん」
「おい」
「だってうちのオニーチャンは、最近こそこそ何かしているんですもの」
「お前の願いを叶えているんだろう!?」
それだけだろうか。私は小指にかつらの毛先を巻き付けながらふと考える。
最近、ネッドの行動が少々腑に落ちないことがある。毎日様々な報告を受けてはいるが、どこか隠し事をしているような気がするのだ。もちろん、証拠はない。彼は私にそんなものを気づかせるような下手な手法はとらないから。
いうなれば、女の感。
「お前。勇者に会ってどうしたいんだ?」
「え? 会いたくないですよ?」
なぜ会うことが前提なの。不思議に思って首を傾げれば、総一郎が信じられないという顔をした。
「会いたいから探っているんじゃないのか?」
「いやー。別に」
むしろ、彼らの現在の様子を確認して、私のことを誰にも話していないか、今後話さないかを確認したい。接触を持つなどもってのほかだ。
「・・・マジか」
「マジですが」
おや?
「ソウせんぱーい」
「な、なんだ」
「なにか、知ってます? 知ってますね?」
「・・・よし、行くか。休憩は終わりだ」
「せんぱーい。ボク、次はあれが食べたいなぁ」
屋台で、ジュウジュウと焼ける肉を指させば、仕事中にこれ以上の買い食いをするなと怒られる。パシッと良い音が響く、はたかれた頭部が痛い。
「解せぬ。買い食いは人生における醍醐味なのに」
「俺の方が解せねえよ。他の醍醐味を見つけやがれ。だいたい、俺の金で食いやがって。お前の方が金持ちだろうが」
「人におごってもらう方が美味しい!」
もう一度良い音が響いたので、イイコの私は口を閉じた。
「お前のニーチャン、神殿に目を付けられてるぞ。気を付けろよ。あと」
なるべく早く街を出た方が良い。
口が悪いくせに、何だかんだと世話焼きな彼はそう私に囁いたのだった。




